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第26話 全て

「そもそも、未来のことが限定的でも見えるだけ、不思議なことですもの。色々と制限があっても仕方がないわ……」


 セリーヌがしみじみと言ったので、ついでに聞いてみる。


「自分のことが見られない、以外にも細かな制限があるの?」


 確か、前に聞いたのはそのくらいだったが、この様子だと他にもありそうだ。

 セリーヌは少し考えて、


「そうね……たとえば、確定的な未来、と言うのは中々見られないわね」


「と言うと?」


「エレイン、貴女のことを例にとるけど……」


「ええ」


「貴女の未来に、少し前まで暗い星が輝いていたって言ったでしょう?」


「ええ……それが?」


「でも、貴女の未来はそれだけではなかった。他の未来もあった。一つだけじゃなく、いくつもね。けれど、その中でも一番貴女が進みやすい道が、その暗い未来だったの」


「あぁ、なるほど。未来は分岐している……? 貴女はその中のどれが確実かは分からなくて、でも可能性の高い低いは分かると言う感じかしら?」


 確かにセリーヌがしていた予言というのはそういう形式のことが多かった。

 前の時に私が立ち会った貴族たちへの予言でも、一つだけの未来をいうことは滅多になく、複数の道があって、そのどれを選ぶかは貴方次第だ、というような言い方をするのがもっぱらだった。

 あれは未来は変えうる、というセリーヌの良心に基づくものかと思っていたが、そもそもの能力の発現として、複数の未来が見えているという方が正しいようだ。

 セリーヌは私の言葉に頷いて答える。


「そういうことね。だから、絶対にこうなる、とまでは言いにくい。ただ、それでもほぼ確実に現実化してしまうこと、というのもあるの」


「……それは?」


「昔話したことがあるでしょう? 《神の定め》、《世界の運命》について……」


「ええ。学園での授業で聞いた時、貴女が詳しく説明してくれたわね……」


 セリーヌは私と同級生でもあった。

 それはつまりクレマンともそうであったということになる。

 学校での彼女との思い出が頭の中を行き過ぎ、その中でセリーヌがそれらについて話してくれたことを思い出す。

 セリーヌは言う。


「あれらについて、貴女はあまりそのようなものがあるとは思っていなかったようだけど……」


「恥ずかしいわ。あの頃の私は、自分の人生は自分だけで決められるものと思っていたから。セリーヌ、貴女の予言も、嘘だとは決して思っていなかったけれど、変えようと思えばいくらでも変えられるとすら思っていたくらい……ごめんなさいね」


「ふふ。いいのよ、貴女らしいわ。事実、私から見ても未来はいくつもある。どれを選ぶかはその人次第……ただ、そんな中でも、まず動かない未来というのが稀にあるの。それは誰が、何が、どのような振る舞いをしても一切変わらない……変えようがない、そう思える一点で……。私はそれをこそ、《神の定め》とか《世界の運命》と呼ぶのだと思っているのよ」


 学園ではここまでの話はしなかった。

 自分はそういうものもあると思う、というくらいのことしかセリーヌは言わなかった。

 私を信用してなかったとか、仲が悪かった、というわけではないだろう。

 彼女の力は実のところまだまだ発展途上で、その最盛期を迎えるのはあの、私が指示して家ごと滅ぼしたあの時だ。

 知る限り、彼女の力は生涯強くなっていくわけである。

 あのまま生きていればいずれ自分のことすらも予言できるようになったのかもしれないが……。

 今の彼女であれば、せいぜいがぼんやりとした将来が見える、くらいのものなのだろう。

 ただ、そのくらいの力であっても、はっきり分かる一点があるわけだ。

 そこが、動かないから。

 それが神の定めた運命の一点であるからと言われると……実際に彼女の能力に基づいた観測によるものであるから、信憑性がある話に思える。

 そして、私が最も恐れるのはそれだ。

 リリーが私を殺す。

 そのことがその確定された一点であるとしたら……。

 そう思うと恐ろしくてたまらない。


「私の未来にも……その確定した未来は、見える?」


 恐る恐る聞いた私に、セリーヌは首を横に振って、


「見えない。いえ……この言い方は正確じゃないかも。今の私には見られない……。貴女の将来はいい方向に向かっていることは、分かる。でもその先がどこまで続いていて……そしてどこで終わるのか。どこに転換点があるのか。それは遠すぎて、見えないの。ごめんなさい……」


 そう答えた。

 セリーヌは謝ったが、これは私にとってさほど悪い話には聞こえなかった。

 まだ決まっていないかもしれない。

 そう思える程度の希望はあるからだ。

 もしかしたらまだセリーヌの力が足りないだけかもしれないが。

 ただそれでも、今諦める必要はなさそうだ。

 私はほっとして、


「そう……それなら、良かった」


 そう言った。

 これにセリーヌは首を傾げて尋ねる。


「エレイン……さっき貴女は五十歳くらいまで生きて、一年ほど前に戻って来た、と言ったけれど……そんなにほっとするのは、どうしてなのかしら? 前に生きた時、貴女の身に一体何があったの? そんなに恐れなければならないようなことが……?」


「そうね……それについては……恐ろしい話よ。貴女も私のことが嫌いになると思う。それでも……聞く?」


「エレイン……今更、私が貴女のことを嫌いになったりすることなんて、ないわ。たとえ何があろうとも。それに、貴女の将来に見えていた暗い星……前の時に、貴女がその道を歩んだことくらいは想像がつく。やっぱり、いい未来ではなかったのでしょう?」


「そうよ……何せ、セリーヌ。私は息子に命じて、貴女のことを殺させたわ」


 話の流れに乗って、言いにくいことをまず初めに言ってみた。

 セリーヌは流石にそれに目を見開いたが、しかし彼女が次の瞬間私に向けたのは怒りや悲しみの感情ではなくて、純粋な疑問だった。


「貴女が、私を殺したの? 一体どうして?」


 そこには、ただその理由を知りたい。

 どうしてそんな風になるのかわからない。

 そんな気持ちだけが含まれていて……確かに、これくらいでは私のことを嫌いにならないと宣言したのは事実なのだと理解させられてしまった。

 セリーヌは、前の時も、殺されるに至ってすら私の親友であることを否定しなかった人だ。

 予想はできていたが、ひどくありがたい気持ちにもなる。

 ただそこには触れずに、私は前回あったことを彼女に一つ一つ話していったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


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セリーヌ様。°(*°´ᯅ`°)°。 「息子に命じて、貴女のことを殺させたの」 に絶望でも恐怖でもなく(この子は何があってその道を選んじゃったのかしら?)と思う親友。てぇてぇ
[一言] セリーヌに語られる衝撃の事実! なんと!寄りによってエレインに殺された! 果たしてセリーヌはその事実を直視出来るのか!?(笑)
[一言] セワシくんから酷い未来を聞くのび太的な(ノ∀`) まだされていない悪行を聞かされても、悪漢小説を読んだような気持ちにはなるかもしれない こういう人生やり直し系って、打ち明ける相手は大抵恋人…
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