第24話 どうすべきか
「……それで、何が見えたの?」
私は至って冷静に、そうセリーヌに尋ねた。
もちろん、多少の驚きはあった。
私のことを予言の力などという貴重なものを使って定期的に見ているなんて……正直、宝の持ち腐れではないかという感じすらしてしまう。
けれど考えてみれば不思議なことは何一つない。
なぜなら前の時、セリーヌは私たちのことを予言していたのだ。
それは、普段からそうしていたからだ、と考えれば納得できる話である。
流石に定期的に私を対象にやっているとまでは想像してはいなかったが、どこかのタイミングで私たちを見て、その危うさに気づいたのだろう、というくらいのことは思っていた。
セリーヌは私の質問に答える。
「さっきも言ったように、貴女の未来が見えたの」
「私の未来……どんな未来だった? 幸せそうなものだったかしら?」
そんなはずはない、と思いながらの質問だった。
少し、自嘲が混じっていた気もする。
あのような大それたことをやった人間の未来が、美しかろうはずがない。
そう思って。
それの……かつてセリーヌが見た私の未来は暗いものだったから。
いや、正確にいうなら、道が分かれているという話だったか……?
あまりにも古い話で、その辺りの記憶は思いの外、曖昧だった。
「……エレイン。貴女の未来は、いくつもの可能性に分岐していたわ。明るく幸せな未来もあれば、薄暗く厳しい結果が待ち受ける未来も……」
「……そう。そうでしょうね」
思い出して来た。
かつても、確かにそんなことを言われた。
だから納得だ。
そして、やはり運命というものはあるのだと改めて思った。
この世界には私が変えようとしても中々変わらない、強制力のある筋道というのが存在し、すべてがそこに向かって収束する。
そういうものなのだろうと。
時が戻ってから今日までのことは、結局無駄なことだったのかもしれない。
最後にはどうあっても、私はリリーに殺されてしまうのかもしれない。
そう思うと震えて来るものがあった。
保身からではない。
どのように生きても、自らの娘に親殺しという重荷を背負わせる羽目になってしまう、自分の業の深さにだ。
けれど、セリーヌは、
「でも!」
「……でも?」
「……でも。今日の朝、貴女を見てみたら……違っていたの」
「……ええと?」
要領が掴めず首を傾げる私に、セリーヌは興奮したように私の肩をガッと掴んで、その大きな瞳で真っ直ぐ見つめて続けた。
「貴女が進むかもしれない道に輝いていた暗い星、その気配が……すごく薄くなっていたのよ……!」
「え?」
「だから私、今日ここに来たの。一体何があったのかと思って。もちろんいいことではあるのだけれど……運命というのはどういう絡み合い方をしているか分からないから。このことが、何か貴女によくないことが起こった結果、ということもあるし……急に心配になって来て」
「そうだったの……」
セリーヌの話は最初とは別の意味で意外だった。
かつて彼女が私に警告し続けた、私の将来に存在するという暗い星。
その気配が薄くなっているというのは……。
もちろん、私はそれを目標として来た。
けれど、まだ手応えというべきものはないのだ。
せいぜいが、ゴブリンの軍勢を倒し切った、というくらいのもので……。
あのくらいで運命が変わるというのなら、私は何度だってそれをねじ伏せてやることができるだろう。
しかし、現実はそんなに甘いものではないことを私はよく知っている。
私は尋ねる。
「では、今の私の未来は……貴女の目から見て、比較的いいものに見えるの?」
セリーヌは頷き、
「ええ。私もそこまではっきりとしたものが見えるわけじゃないのだけれど、ね。でも、貴女の何が変わったのか……それだけは本当に全く分からなくて。ねぇ、エレイン。思い出してみて。ここ最近、何か変わったことがなかったかしら? 多分、それが貴女の運命を大きく変えつつあるのだと思うから」
言われるまでもない。
私の時間が戻ったこと。
それに尽きるだろう。
ただ、それをセリーヌに伝えるべきか、私は迷った。
今まで、私はこのことを誰にも告げていない。
それは告げることで何かが変わってしまうことを恐れたことももちろんだが、そもそもの問題として、こんな話を誰かが信じるとはとてもではないが思えなかったからだ。
むしろ、こうして時が戻る前の私との変化を見て、頭がおかしくなったのだ、と捉えられてしまう可能性すらある。
それを考えると……。
でも、セリーヌはどうだろうか。
彼女は私の話を信じてくれるのではないだろうか。
彼女との付き合いは長く、お互いのことはよくわかっている。
こういうタイミングで、私が嘘をつくとは彼女も思わないはずだ。
それに、彼女自身も、普通なら信じられないような身の上をしている。
予言の力を宿しているのだ。
それを考えれば……彼女は私の話を聞いてくれそうな気がした。
加えて、少しの打算というか、話してしまった方が効率的なのではないか、という感覚もあった。
何せ、セリーヌはそこまではっきりとまでは言えないにしても、未来を見ることのできる稀有な女性だ。
私がおかしな道に進む可能性のことも承知している。
つまり、これから私が何かをした時、その結果、私の未来がどんな風になるのか、それを聞くことが出来るようになる。
要は、彼女の予言をある種の指針にできるのではないか、ということだ。
もちろん、これはわざわざ彼女に私が時を戻ったことを言わずともできることだがセリーヌの予言はその性質上、多く情報を持っていた方がより正確な解釈ができるという特性がある。
それを考えると……やはり、彼女には話しておくべきではないだろうか。
それにもし、彼女が信じなかったとしても、その時はその時で、素直に冗談だったということにすればいい。
少し怪訝に思うかもしれないが、それだけだ。
彼女との関係がおかしくなることはないだろう。
そこまで考えて、私は決心した。
ゆっくりと口を開き、セリーヌに言う。
「あのね……セリーヌ。貴女の話についてなのだけど……実は、心当たりがあるの」
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