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第145話 奪う力

本日二話目です。

「あんなに簡単に勝てるとは思わなかったぞ」


 サーゴがそう言った。


「簡単だったのは、あくまで相性が良かったからで、普通ならもっと苦戦するのよ?」


 実際、現実では竜人であるジルに頼るしか方法はなかったのだ。

 まぁ、アンナにクラリスの増幅をかければ勝てるだろうが、あの時はクラリスはいなかったのだから、他にどうしようもなかった。


「そうなんだろうが……呆気なさすぎてな」


「貴方の力が、それだけ強力って言うのもあるわ。今はクラリスの力を借りなければあそこまでのことはできないでしょうけど、魔力の扱いに慣れて、《体力吸収》を極めれば、一人でも近いことができるようになるはず……」


「マジか……」


「私が貴方を手放したくない気持ちが、分かるでしょう?」


「あぁ……でも、俺がそれなりになって公爵家を離れるって言ったらどうするんだ?」


「その時はその時ね。でも、私が貴方の力に対する対抗方法を考えていないと思ったら大間違いだから、その時どうなるかは覚悟しておいた方がいいわよ?」


「……なるほど」


 《体力吸収》を極めて、強くなったら、離反しようとした時に止められないのではないか、というサーゴの言い方だったが、止め方を考えない私ではない。

 確かにサーゴの力は強力ではあるし、相性によっては無敵に近い力を発揮するのは事実だが、やりようというものはある。

 そもそも、特殊属性というのはいずれもピーキーな力であり、だからこそ、その本質を理解していれば、対策を考えることも容易だ。

 特に、長年、特殊属性について研究を続けている私からすればなおのこと。

 そのことを私の言い方から理解したのだろう。


「あんたには、やっぱり逆らわないように生きていくことにするぜ……」


 そう言ったサーゴだった。


「じゃあ、先に進みましょう!」


 ちょうどいいところでクラリスがそう言ったので、私たちは最後の扉を潜る。

 その先にあるのは、アンナの根源領域。

 彼女の特殊属性そのものが存在しているはずの場所だった。


 ◆◆◆◆◆


 扉の向こうには階段があって、私たちはそれを降りていく。


「……いつまで続くんだ、これ?」


「さぁ……」


「流石に疲れてきたわね……精神的なものだけだけど……あっ、底が見えてきたわよ」


 私がそう言うと、二人とも階段の先を見つめる。


「本当だな……でも、誰かいるぞ」


「そうですね……二人? でもなんだか小さいような……」


 その場所にたどり着くと、確かに二人が言うとおり、小柄な……というか、子供が二人、そこに立っていた。

 深層領域で見たような、アンナの記憶か?と一瞬思ってしまうが、二人の目を見ると、はっきり焦点が私たちの方に合っていた。

 これは記憶ではない。

 そもそも、記憶は、あくまでも深層領域までで、この根源領域にあるのは、その人間を形作る本質そのもの。

 したがって、ここにあるのは、特殊属性が形を持ったもののはずだった。

 それがなぜ子供が二人なのか……その理由はわからないが……いや。

 この子供二人は、見覚えがある。

 片方は……。


「もしかして、貴女はアンナ?」


 私が尋ねると、片方が答える。


「……そうだよ。お姉ちゃんは……だれ? ここに何しに来たの?」


 そう言った。

 そうだ。

 その少女はアンナに似ていた。

 というか、五歳ほどのアンナそのものだった。

 つまり、根源にある自分自身というわけだ。

 私は彼女に答える。


「私は……エレイン。アンナの知り合いね。ここには、アンナのことを深く知るために来たのよ。私にアンナのことを教えてくれないかしら……そっちの子は、誰なの?」


 特殊属性の知り方には色々ある。

 それには決まりというか、セオリーは正直、今のところ見つけられていない。

 根源領域には、力そのものが擬人化されたものがいたり、本人自身がいたり、もしくは力だけがそこに浮いているとか、そんな場合もある。

 今回の場合は、力の擬人化された存在、ということでいいだろう。

 そういう場合は対話しながら、一体どういう力が擬人化しているのかを探っていくことで特殊属性が分かることが多かった。 

 だからこそ、私は話しかけたのだ。

 しかし、私の問いかけに、少女は、もう一人の少女の手を強く握って、


「……この子は渡さない。この子は私のものだから。帰って!」


 と強く叫ぶ。

 強烈な拒否感だった。

 少女が手を握る少女の方は、どこか目がうつろで、されるがままの様子だった。

 意思がない?

 この子の方もまた、力の擬人化、なのだろうか……?

 分からない。

 考えてしまった私に、クラリスがふと、つぶやく。


「あの、エレイン様」


「何かしら?」


「ちょっと思ったんですけど……」


「ええ、意見は自由に言って」


「そっちの子はアンナさんですよね」


「そうね」


「で、もう片方の子なんですけど……エレイン様に似てませんか?」


「えっ?」


 言われてみて、よく見てみる。

 すると、確かに小さな頃の私によく似ているような気がした。

 これにはサーゴも同感のようで、


「確かに似てるな! でも、表情は全然違うが……奥様はこう、強烈なエネルギーに満ちてるけど、そっちの子は空っぽみたいで……」


「……ねぇ、貴女。どうして黙っているの?」


 私は、アンナではない方、私に似ている少女に話しかける。 

 しかし、それに対してアンナが、


「渡さない! この子は私の! 渡さない!」


 と叫ぶ。

 けれど、この子の叫びに負ければ何も分からないまま終わってしまう。

 私は根気よく、私に似ている方の少女に話しかけた。


「何か、話してほしいのだけど……どうして貴女はここにいるの。どうしてこっちの少女は貴女をこんなに縛り付けようとするの? 貴女は……誰なの? どうして……私に似ているの?」


 すると、最後の言葉で、少女はハッとして顔を上げる。


「……それは、私が、貴女だから……」


「え?」


 そして、少女が私の方に手を伸ばす。

 私もまた、何かに導かれるように少女の方に手を伸ばした。

 アンナに似ている少女はさらに喚き始めたが、私には徐々にその声が聞こえなくなり、そして、あたりが真っ白になる。

 ふっと、何かが私の中に入り込んだ感じがし、それから、


「……エレイン様!?」


「奥様!?」


 と、クラリスとサーゴの声が聞こえて、意識を取り戻す。

 するとそこは、元の空間だった。

 と言っても外ではなく、今だに根源領域の中だが。


「ええと……私、今、どうしていた?」


 尋ねると、クラリスが答える。


「先ほどの少女とで手を合わせた瞬間、意識を失われて……五分ほど、放心しておられました」


「……本当に?」


 一瞬にしか感じられなかったが……。

 それにしてもさっきのは一体何だったんだろうか。

 そう思った私に、


「……奪い返された。私の……私の力が……」


 と、アンナに似た少女が悲しげにそう呟いていた。

 私は彼女に尋ねる。


「……奪い返されたって……どういうことなの? 私に教えてくれない? 貴女が、何なのか」


 すると、彼女は言った。


「私は……《強奪》の力。人から奪うもの。さっきの力も……奪った。奪えば、全てが私のものになる……」


「《強奪》の力……それが、アンナの特殊属性なのね……」


 それで分かった。

 アンナの力は《魔力吸収》系統だとは分かっていたが、細かな効力については不明だった。

 しかし、これではっきりした。

 彼女は、人から力を強奪出来る、とつまりそういうことなのだと。

 そしてこのアンナが言うには、奪った力を自分のものに出来ると言っている。

 でも……それだとなぜさっき、もう一人の少女は私に似ていたのだろうか?

 私と手を合わせた瞬間、消えてしまったのも謎だ。

 これについても聞いておきたかった。


「さっきの子は? あの子は誰なの?」


 私の質問に、アンナは答える。


「あの子は、貴女。貴女の力……お母様から、《強奪》して、私のものにした……」


「なんですって……?」


「奪わなければ……私は何もできない……奪わなければ……返して、力を返して!」


 そう言って、アンナは手を伸ばしてくる。

 彼女からは強い力を感じた。

 特殊属性が、発動している。

 これはまずい、そう思った瞬間、世界が白く染まった。

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