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第143話 奇妙な会話

本日三話目です。

今日はとりあえずここまでにしておいて、明日は四話か五話くらい更新するかなという感じです。

どうぞよろしくお願いします。

「心の中になんてもんを飼ってるんだ、あのお嬢ちゃんは……あっ、いえ」


 戦った直後だから口調が通常のものに戻ったのか、サーゴがそう言った。

 慌てて敬語に戻したようだが、取り繕いきれていない。

 呆れて、


「別にここでは普通に喋ってもいいわよ。戦闘中、敬語は面倒でしょ?」


 私がそう言うと、


「いや、でも奥様にタメ口は流石に……」


 そんな風に首を横に振った。

 けれど、私はさらに言う。


「いいのよ。人前で形をつけてくれればそれで。それにここで適度にタメ口をきくことに慣れて貰えば、そのうちお忍びでどこかに行く時、サーゴを連れてけばうまく取り繕ってくれるでしょう?」


 その辺の貴婦人と、恋仲の騎士みたいな体で遠出して身分を偽ったりも出来るだろう。

 まぁ、そんなことをして私が私だと知られてしまえば、私もサーゴも大問題になるだろうが、その時はある程度の認識阻害魔術を使っておけばいい。

 ずっとそれを使っていればいいじゃないか、という気がするだろうが、店に行ったり、宿をとったりするときに存在すら認識されない認識阻害魔術を使っていたら、買い物も出来ない。

 顔がうまく認識できない、くらいで抑えておいて、会話はタメ口でする、くらいがちょうどいい変装具合になるだろう。


「えっ……お忍びでどこかに俺と……?」


「いいじゃない。別に私に手を出そうとか思わないでしょ?」


「めっ、めっそうもないです……でも、そんなことしたら俺、公爵閣下に殺されるのでは……」


「同じ部屋に泊まろうって言ってるんじゃないもの。大丈夫よ。それに連れてくときはちゃんと事前に言ってからにするもの。ま、そういうこともありうると考えておいて」


「は、はぁ……わかりました。いや、わかった……」


 敬語に戻りかけたところで私が圧強めの視線を向けて、タメ口にしたサーゴ。

 よく分かってくれたようだ。


「じゃあ、次の《記憶の小部屋》に向かいましょう」


「あぁ……」


 そんなやりとりを、クラリスは、


「公爵夫人と騎士の許されぬ恋……うーん、物語のようでドキドキしますね」


 などと楽しそうに聞いていた。

 意外に耳年増なのかもしれない、この子はと思った私だった。


 ◆◆◆◆◆


「これは……さっきの小部屋とは少し感じが違いますね。窓があるんじゃなくて……人がいる?」


 クラリスがそう言った。

 実際、小部屋の中には人間が動いていた。

 しかし、いずれの人も私たちに対して意識を向けることはない。

 それに、人だけではなくて、家具なども存在している。


「このパターンもあるわね……これこそが、記憶よ」


「というと……?」


 首を傾げるサーゴに、私は言う。


「過去に見たことのある風景を、そのまま立体的に再現しているのよ。ほら、見ていればわかるわ」


 すると、その場にいた人間たちの声まで聞こえてきた。


『……あぁ、生まれたのね! よくやったわ、シルヴィ』


 その場で一人立っている人物がそう言った。

 ベッドの上に、若い娘がおり、その顔には見覚えがあった。

 彼女こそが、シルヴィ……聖国の聖女である。

 そして、そんな彼女に声をかけた人物は……。


「……オルガね」


 私がそう呟くと、クラリスが言う。


「オルガというと……聖国の、前聖女の……?」


「そういうことね。シルヴィは現在の聖女……どうやら、これは彼女が、アンナを出産したシーンみたい」


「えっ。でも、どうしてそんな記憶をアンナさんが……。そんな小さな頃の記憶なんて、普通ないものじゃ……」


 クラリスがそう言ったが、私は首を横に振る。


「いいえ。人は、生まれてから死ぬまでの記憶を全て持っているのよ。忘れることはないの」


「でも……私思いだせない記憶、たくさんありますよ? サーゴさんもそうですよね?」


「そりゃあな。昨日の朝飯ですら覚えてないぜ、俺は」


「そうそう」


 そんな風に言う二人に、私は説明する。


「それは私もあるわね。ただ、だからと言って、記憶がなくなったわけではないのよ。全ての記憶はあなたたちの中にあるの。でも、ただ思い出せなくなる。それだけ」


「思い出せなくなる……ですか」


「そうよ。刻み込まれた記憶は無くならない。このことを、私はこの魔導具を使う中で知ったわ。色々な人の心に潜ったけれど、この深層領域に潜ると、本人すら覚えていない記憶を見ることが何度もあった。外に出てから尋ねても、そんなものは覚えていないってみんな言うけどね。実際にはここには確かにその記憶がある。その理由こそが……」


「人の記憶は無くならないから、ですか」


「そうよ」


「でも、全部の記憶があるかどうかは、分からないのでは?」


「確かにこれだけではね。ただ、このことに気づいてから、私とカンデラリオ様は記憶についてかなり調べたわ。それこそ精神魔術を使ってね……その結果、いつの記憶でもその人の心から取り出せることが分かった」


「……恐ろしいことしていますね……」


「ちゃんと、被験者の同意を得てやってるから大丈夫よ」


 本当に大丈夫なのかどうかは微妙かもしれないが、色々と確かめるためには仕方がなかった。

 私としては、私自身が被験者になってもよかったのだが、そうするともしかしたら、一回目の記憶が取り出されてしまう可能性もあった。

 カンデラリオは、淑女の、しかも公爵夫人の記憶を覗き見るのは流石にまずいという考えで他の被験者を選んだが、私としてはありがたい話だった。


「おい、記憶、見なくていいのか?」


 サーゴがそう言ったので、続きを見る。


『お母様……その子に、聖女の素質はありますか……?』


 シルヴィが、オルガにそう尋ねると、オルガは少し微笑んでから、


『素質ね……あるわよ。私や、お前と同じ素質がね……』


 そう答える。

 これは、額面通り捉えるのであれば、聖女としての素質がアンナにもあるという意味にしか聞こえないだろう。

 けれど、この時のオルガの表情には、別の意図が感じられた。

 娘として、母の妙な表情に気付いたのだろう。

 シルヴィが不安そうな面持ちで、オルガに尋ねる。


『それは……どういう意味ですか……?』


 しかしオルガは、


『何かおかしなことを言ったかしら? この子には素質がある。それだけよ?』


 と元の表情に戻って言った。

 これにはシルヴィもどう聞いていいのかわからなくなったようで、


『そう、ですか……』


 と黙り込んでしまった。

 この会話を聞いていた私たちは、違和感を覚える。


「なんだか……おかしな会話ですね?」


 クラリスがそう言った。


「確かにね……アンナに聖女の素質があるって話だけど……」


「何か隠してるみたいな喋り方だぜ」


 みんなの印象は一致していた。


「でも、何を隠しているのかは分からないわね……」


「普通に考えると、アンナさんに聖女の素質がないってことでしょうけど……」


「そこのところは、正直はっきりしていないのよね。まぁ、それを調べるために、アンナの心に潜っているのだけど」


「そうでした」


 それについては、《魔塔》の人間でも限られた人物にだけだが、共有していることだった。

 クラリスもまた、そのメンバーに入っている。

 彼女はカンデラリオが目をかけている特殊属性持ちの筆頭であり、実験にも数多く参加している関係で信頼が厚いからだ。

 実験設備にも慣れているので、助手としての地位を確立しており、何か隠し立てするのも都合が悪いと言うのもある。


「……今更だが、俺が聞いていい情報なのかね……?」


 しかし、サーゴについては違う。

 彼は普通の騎士であり、本来ならこんなことを聞く立場にはない。

 ただし、特殊属性持ちであり、また《体力吸収》という貴重な属性であることから、将来の騎士団の幹部候補でもある。

 そのため、早いうちから機密に触れさせて、抜けられないようにすることにした。

 だから私は言う。


「聞いたからには、公爵家を抜けることはダメよ」


「……これは何かの罠か?」


「まぁ、貴方にはうちにいてほしいからね。でも、その代わりに出世させるし報酬もたくさん出すから」


「……じゃあ、いいか……いいのか……?」


 首を傾げているが、大丈夫だろう。

 そもそも、人格的に信用できなさそうなら、最初から話すことなどないのだから。


「……さて、ここでの記憶はこんなところみたい。次の扉に向かいましょう」


「次は最後の扉ですよね?」


 クラリスがそう言う。


「ええ、根源領域に向かう扉ね。だいたい、その人物が考える最強の存在が守護者をしているものだけど……」


「……戦って勝てる相手だといいんだが」


「勝つわよ。じゃないとここに来た目的が果たせないもの」


 そして私たちは次の扉へと向かった。

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