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悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。  作者: 丘/丘野 優
第1章 悪役夫人の死に戻り
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第14話 兆候

「……やっぱりあんたの予想通り、ここのゴブリンたちが備蓄していたってことで間違いねぇみたいだな」


 洞窟拠点内部を調査していくと、村で奪われた作物、その多くが洞窟の中に保管されていた。

 長期の保存が利きそうな根菜類などは粗末な木箱に丸のまま入れられていたり、そうでないものは塩漬けにされていたり。

 それ以外にも動物や魔物の肉なども干し肉や塩漬け肉などにされて壺に入っていたりなどした。

 ガストが言っているのは、私がたくさんのゴブリンを養うために多くの食料を必要とした、と言う話のことを指しているのだろう。

 しかし……。


「ふむ……ですが、少しばかりこれはおかしいですな」


 ワルターがぽつりと疑問を口にした。

 ガストは尋ねる。


「……おかしい? 何がだ?」


「多くのゴブリンを養うために、大量の食物を求めた。それは理解できるのですが……ここにいたゴブリンはせいぜい百匹と少し。しかし奪った食料はそれと比べると量が多すぎる。それに……」


 ワルターの言葉の続きを私が継ぐ。


「ここにいるゴブリンたちだけで消費したにはここに残っている食料の量が少なすぎるわね。村から上がった報告書の記載からすると、かなりの量の農作物が奪われたはず。でも。ここのゴブリンだけで食べ切れる量ではなかったわ」


 そんな私の言葉に、ガストが、


「じゃあ食い物はどうなったって言うんだよ? どこかに消えたってか?」


 半笑いでそう言ったが、私はその言葉にうなずく。


「その通りよ」


「はぁ?」


「どこかに消えた。そう……でもそれは、パッと消滅したというわけではなくて、ここから別の場所に運び出した……そういうことなんでしょうね」


 ガストは目を見開き、それから少し考えて言う。


「……うちの村の農作物は、ここでのゴブリンたちの消費だけに使われたわけじゃない……?」


「そういうこと。もちろん、ここでもかなりの量、食べたでしょうけど……それ以外にもどこか別の場所にいるだろう何者かの消費のために使われた」


「おいおいおい、ゴブリンがそんなことするのか? あいつらは同じ種族だろうと、別の群のために何かしたりするような奴らじゃねぇぜ!?」


 ガストがそう叫ぶ。

 確かに、その言葉は正しい。

 ゴブリンは同種であっても、別の群と出会した場合、戦闘が起こったりする程度には好戦的で仲間意識も希薄なのだ。

 ましてや食べ物を融通することなどない。

 けれど……。


「……率いる者がいる、それも別の群のゴブリンたちをまとめ上げるほどの者が。そういうことでしょうか、奥様」


 ワルターが髭を伸ばしつつ言った。

 ガストが信じたくないかのように冷や汗を流し、


「な、ま、まさか……」


 そんなことを言ったが、私は素直にうなずき、言った。


「そういうことでしょうね。少なくともゴブリンの上位種……ゴブリンジェネラル以上の魔物がいるはずよ」


「ゴブリンジェネラル……」


 それは、ゴブリンの上位種、ゴブリンナイトなどよりもさらに上、ゴブリンの集団をまとめ上げることに長けたゴブリン種だ。

 ゴブリンはかなり幅広い種の存在する魔物種であるため、他にも可能性はあるが……。


「ホブゴブリンや、ハイゴブリンなどの可能性は?」


 ワルターが冷静に尋ねてくるが、私は首を横にふった。


「ホブゴブリンにはさすがに百匹からなるゴブリンの群をその場におらずして従えるのは難しいわ。ハイゴブリンは通常のゴブリンを手下に使うことはあまりないし……やっぱり可能性があるのはゴブリンジェネラルでしょうね。さらに上、と言うのもありうるけれど……」


 どれもまだ推測の域を出ないが、概ねそんなところだろう。

 何故これくらいの推測ができるかといえば、前の時にもゴブリン種の大量発生と言うのは何度もあったからだ。

 そして、こういったゴブリンの拠点を潰し、調査した経験もかなりあった。

 その経験からするに、概ねゴブリンジェネラルで確定と言っていいのだが……さすがにその辺りについては細かく話せない。

 大雑把にはそう言えるだろう、というくらいまでが今の私の言える限界だった。


「……そういえば、ここ以外の近くの村でも、同じような状況に置かれた村がありましたな。奥様はまさか……」


 ワルターが少し考えてからそう言った。

 彼もまた、公爵家の使用人である。 

 しかも、家宰を務めていたほどの。

 クレマンも彼には今回のことに当たるについて、ある程度の資料を開示しているだろう。

 その内容を思い出したらしい。

 私はワルターがおよそ私と同じような結論に達したことを理解し、彼に言った。


「やっぱり、貴方もそう思うわね? 夫……クレマンも最悪の場合としてそれを想像していたわ。つまり……」


「ゴブリンの軍団の発生、ですか。規模は……千匹規模と言ったところでしょうか?」


「最悪、五千まではありうるでしょうね。万に至らないだけ運がいいけれど。それに一部はここで屠ることができたわ。他の村でも同じことが出来れば、負担はずっと軽くなる」


「なるほど。先に言ってくださればよかったのに」


「報告だけ見る限り、確定ではなかった。その可能性もないではない、くらいだったわ。ただこうして確認した限り、ほぼ確定と言っていい」


「……こうなったら、のんびりとはしていられませんな。早急に村々を回らねば……」


 私とワルターの間で進んでいく話にガストは急に恐ろしくなってきたらしい。


「お、おい! ゴブリンの軍団って……そんなもんが発生したって言うなら、俺たちの村も……やばいんじゃねぇのか!?」


 そう叫ぶ。

 しかしこれには私が首を横に振った。


「今日ここの拠点を潰せなかったらそうだったでしょうけど、完全に潰せた以上、それほどの心配はないわ。こういった場合、奴らはその拠点を完全に切り捨てることが多いから。でも絶対とは言えないのは確かよ」


「じゃ、じゃあ……」


「でも、私はそれを《絶対》にする。ワルター、早速、他の村々にも向かうわよ。同じような拠点が、いずれの村の近くにも築かれているはず。可能な限り潰しましょう」


「……承知いたしました、奥様。しかし……この老骨、隠居してからこのような血湧き肉躍る戦場に出ることになるとは」


 ため息をつきながらそう言うワルターに、私は言う。


「何、不満?」


「まさか。むしろ感謝申し上げたい。このまま静かに骨となっていくものと思っていたのに、引っ張り出してくれて本当にありがたい。ガスト殿もご安心なされ。私と……ふふ、奥様でゴブリンの軍団など滅ぼしてくれましょう」


 不敵な笑みを浮かべながらそう言ったワルターに頼もしさを感じたのか、ガストは、


「お、おう、頼んだぜ……」


 と若干怯えつつ言った。

 ただ、私はワルターに言う。


「……私たちだけで、じゃなくて公爵家に早馬を出して報告するからね。騎士団を一部呼び寄せて、討伐団を組むからそのつもりで」

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうしよう… ワルターがカッコいい…! orz
[一言] ワルター個性的で面白い
[良い点] ワルターさんも「現役の時の8割までは戻さねば」 みたいなことを言わないで、武者震い程度ですませて いるって引退する気あったんですか?(笑) [気になる点] エレインが未来にリリーに討たれ…
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