第139話 接続
「なら安心……なんでしょうか? 心を見るというのがどういうことか、初めてで不安なんですけど……」
「そうよね。簡単に言うと、私たちの精神が、貴女の心の中に送り込まれるという感じかしら」
「えぇ!?」
「で、貴女の特殊属性魔力の根源となっている部分を、探すの。イメージとしては……迷宮探索に近いわね。というか、私とカンデラリオ様は、人の心を迷宮類似構造と定義付けてこの装置を作り上げたから……。心という本来なら形のないものを観察するためには、どうしても形が必要で、それを共有して認識しやすくするためには、迷宮の形にするのが一番効率的だったのよね……これは実に面白い発見だったわ。もしかしたら、この世界に存在する迷宮というのは、人の精神と何らかの密接な関係が……」
「エレイン殿。その辺にしておくのじゃ。アンナ殿の頭が弾けかけておる」
見ると、アンナの目がぐるぐるとして、頭がフラフラとしていた。
「……ごめんなさい。ややこしかったかしら?」
そう言うと、アンナは、ハッと意識を取り戻して、
「い、いいえ……ええと、私の心の中に迷宮があって、エレイン様たちがそこを探索するってこと……ですね!?」
「うーん……」
微妙に違う理解のような気もしたので、訂正しようかなと思ったのだが、カンデラリオ様の方を見ると、首を横に振っている。
その瞳から言いたいことを読み取れば、あまり細かいことにこだわりすぎなくて良い、この辺にしておけ、ということのようだ。
まぁ、別に原理など詳しくわかっていなくても問題はない。
それに、現象としてはその通りのことが起こる、で正しいので、私は全てを完璧にアンナに理解させることを諦めて、頷いて言った。
「……まぁ、そういうことよ。このくらいで安心できたかしら?」
「はい! 大丈夫だと思います」
いい返事がもらえたので、ここでカンデラリオが、
「話もまとまったところで、早速、魔導具を稼働させるとするかの。魔力がかなり必要じゃから、今日は《魔塔》全体で使用魔力を絞っておっての。今日やれなければ次にいつ出来るかもわからん」
そう言ったのだった。
◆◆◆◆◆
「まず、アンナ殿。お主はそこのベッドに仰向けになってくれ」
カンデラリオがアンナにそう言った。
「はい……これでいいですか?」
「うむ。それで……エレイン殿、それに……トビアス……は男じゃしやめておくか。クラリス、お主も手伝え」
「あ、はい」
言われて、私とクラリスが仰向けになるアンナの元まで進み、それからベッドの横から線を取り出す。
それを見てアンナが、
「そ、それは一体……?」
と尋ねてきたので、私が答える。
「これを貴女に取り付けて、魔導具と同期させるのよ。あぁ、別に突き刺すとかじゃないから大丈夫よ。ほら」
と言って、線の先にある吸盤を見せる。
吸盤、と言っても空気で吸着するのではなく、微弱な魔力によって張り付くものだ。
「そうなんですか……」
「後で私たちもつけることになるから、全く怖くないわ。ほら」
一つ一つアンナに取り付けていくと、痛くもなんともないことがわかったのか、ほっとしていた。
「でも……なんだか吸盤だらけで情けないですね……これは」
アンナが自分の体を頭を動かさずに見て笑う。
「それは確かにそうなのよね。こういうものなしに魔導具に繋げるような方法を考案中ではあるのだけど、なかなか難しくて。小型化もしたいのだけどこれもね。魔導具開発の道は果てしないわ……」
頭を押さえつつそういうと、アンナは笑って、
「エレイン様は、魔導具製作が本当にお好きなんですね」
そう言った。
私は頷いて答える。
「それは勿論よ。こんなに楽しいものは中々ないもの」
事実、こうやって二回目の人生が始まってからは、魔導具製作は私の趣味にもなっている。
一番の目的は、リリーに対抗するための手段の一つでしかないのは確かにそうなのだが、それ以上に没頭していると時間も、そして自分に訪れるかもしれない恐るべき未来についても忘れられるのだ。
一息つくと、ふと思い出して色々と焦りを覚えるが、それまでは魔導具だけに没頭できるので、やはりこれは趣味なのだった。
「私には……そう言ったものがないので、羨ましいです」
アンナの言葉に、私は言う。
「だったら、今度一緒に魔導具作りでもしましょうか? いきなり複雑なものを、と言うわけにはいかないけれど、簡単なものからコツコツやっていけば、いずれは大きなもの、複雑なものも作れるようになるわよ。学院にも魔導具の研究室はあるから、そこで研究するのもいいしね」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、もちろん。じゃあ、約束よ」
「はい……」
そして、そう答えつつ、アンナの瞼が重くなっていった。
これは別に理由なく眠くなった、とかではない。
アンナの体に取り付けた配線から、魔力が通り、そして魔導具と同期したためだ。
私が色々話していたのは、彼女にリラックスしてもらい、自然な形での魔導具との同期をさせるためだった。
あまり意識しすぎてしまうと無意識に配線から流れる魔力を拒否してしまってうまくいかないことがあるからだ。
特に子供だと、魔力の制御が難しいから余計に。
その点、今回はうまくいったらしい。
「眠ったわ。私たちも準備しましょう」
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この後書きはしばらく最新話に固定するので、お目障りの場合は流していただけるとありがたいです。
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