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悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。  作者: 丘/丘野 優
第1章 悪役夫人の死に戻り
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第13話 制圧

 そうして盆地の底、洞窟入り口周辺にたむろしていたフォレストゴブリンたちを全滅させた後、私たちはすぐに洞窟の中に入ることにした。

 ゴブリンたちの全滅のみを考えるのなら、出入り口あたりをしばらくの間監視し、中から出て来次第、もしくは出かけているゴブリンたちが帰ってくるところを狙って確実に倒していった方がいいのだろうが、こういった洞窟拠点の出入り口というのは一つとは限らない。

 見張り続けて他の出口から逃げられました、中にあるものも全て処分されました、では意味がないのだ。

 特に今回の場合は……。


「……可能な限り素早く殲滅します。外の騒ぎには当然、中のゴブリンたちも気付いているでしょうが……」


 ワルターがそう言ったが、私は言う。


「洞窟の出入り口には遮音の魔術をかけておいたわ。振動まではカット出来ないから外で何かあったことは気づいてはいるでしょうけど、全滅とまでは思っていないはずよ」


「ほう、それはいい。中からあまり出てこないとは思っていましたが……優先して洞窟から出てきたゴブリンを倒した甲斐がありましたな」


 ワルターは他のゴブリンに対応しながら、洞窟内から現れるゴブリンも倒していたが、後者の方を優先していた。

 私が遮音魔術をかけていたことは知らなかったが、さらに仲間を呼ばれると面倒だという判断があったのだろう。

 そしてそれが功を奏した、というわけだ。

 だが、だからと言ってのろのろとはしていられない。

 素早く洞窟の内部構造を魔力によって走査していく……。

 

「む、今のは……?」


 ワルターがそう言ったので、したことを私が説明する。


「魔力走査よ。微弱な魔力を広範囲に放出して、こういった洞窟なんかの構造を把握する魔術……ただ、魔力が濃いところとか、強力な魔物がいるところでは難しいのだけど。ここはフォレストゴブリンばかりだから問題なく出来たわ」


「そのような魔術が……」


「あ、そこは左に曲がっても何もないから、右ね」


「……本当のようですな。一体どこで学ばれたのです?」


「私が自分で作ったのよ」


 今から二十年ほど先の話だが。

 今の時代も魔力探知と呼ばれる魔術はあって、魔物の位置などを把握できるがそれとは精度が違う。

 地形の把握まで出来るのはこの魔術だけだ。

 そう言えばリリーはこういった、器用さを必要とする魔術は不得意としていたな……。

 まぁ、そんなもの関係なく全てを一瞬で焼き払える彼女には必要なかったと言えばそれでおしまいなのだが。


「なんと……! 奥様、今回の件が終わりましたら、その魔術、この老骨に教えていただけたりは……?」


 洞窟の壁、その隙間に隠れて短槍を突き出してきたゴブリンの一撃を軽く回避し、その首筋を一撃で刈り取りつつ、ワルターが言った。

 私は反対側から現れて飛びかかってきたゴブリンに石の槍(ストーン・ジャベリン)を放って串刺しにしつつ、答える。


「構わないけど、条件があるわ。ワルター、貴方の技術も私に教えること。それと……正面から戦える技術も欲しいの。知り合いがいればだけど、そういったことの師匠になれる方を紹介してくれないかしら?」


 ワルターの技術はどちらかと言えば背後から敵を狙う暗殺者や刺客のものだ。

 それはそれで使い出のある技術だし、真正面から戦えないというわけではない。

 ただ、やはりその本領は隠れて襲いかかることにあるだろう。

 それだといざというとき、つまりはこちらが襲われたときに対処することが難しい。

 そのため、しっかりとした戦士としての技術も身につけておきたかった。

 私の言葉にワルターは、


「あれほどこなれた魔術師としての技術をお持ちなのに、戦士としてのそれもお求めになるのですか……。いささか、公爵夫人としては過剰戦力ではないかと愚考いたしますが……」


「いいえ。これでは全く足りないわ。いざというとき、自分の身を守るためにはね」


「左様ですか……まぁ、構いませんでしょう。幾人か思い浮かぶ者もおります。一日二日で、というわけには参りませんが、今年中には呼び寄せられるように連絡をつけておきましょう。私の技術についても勿論、お教えいたします」


「助かるわ! となると、魔力走査だけでは申し訳ないから……何か他にもお礼を考えておくわね……あら? 気づいたら最後まで来てしまったわ」


 見ればたった今、ワルターが洞窟内にいるゴブリンの最後の一匹の首を飛ばすところだった。

 洞窟自体もここが最奥である。

 洞窟の外からゴブリンが来る様子もない。

 ただ見回りに出ているゴブリンが一匹もいない、ということはないだろうからしばらくは注意が必要だろうが、この拠点の制圧はほぼ完了したと考えていいだろう。


「……マジで二人だけであれだけいたゴブリンを全部倒しちまいやがった……」


 後ろの方から弓を構えつつついてきていたガストが唖然とした顔をしていた。


「何言ってるのよ。貴方も二匹くらいはその弓で倒したでしょ?」


「あんだけうじゃうじゃいれば、見習い狩人が弓を射っても一匹二匹はやれるだろうよ……」


「そうかしら? 正確に脳天を貫いていたし、さすがに無理じゃない?」


「俺の謙遜を理解してくれ。そもそもあんたたちと比べたら何もしてないも同然だよ……」


「あら、謙遜だったのね……まぁ、いいわ。それより、これで村が襲われる危険はなくなったわ。まだ安心するには残党の片付けが残っているけど……もう一踏ん張りね」


「あぁ、ここまで来たら最後まで付き合うぜ。朝まではかからねぇだろう」


「だといいわね。でも全部終わってもこの辺りはしばらく見回りをした方がいいから、その辺りは狩人たちで相談してね」


「分かってる」


 そうして、私たちは洞窟を一旦外に出て、出入り口を隠れて朝まで見張ることにした。

 幸い、洞窟内にあった出入り口は大きなものは盆地にあった一つだけで、他になんとか一匹二匹が通れるくらいの非常口のようなところが二、三個あっただけだった。

 そのため、後者は魔術によって岩石を詰めて潰したため、見張るべきところは一つで良かった。

 拠点で何があったかを全く知らない様子で機嫌よさそうに戻ってくるゴブリンたちを倒していく仕事は楽なものだった。

 そして、それが終わった後、私たちは洞窟内部についての調査に移った。

 

読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 奥様の規格外の能力を発揮したときの周りの反応が楽しいですね! [気になる点] 元の計算高く悪徳だったころの素養もチラッと出てくると、嬉しいです
[一言] 会話の間にゴブリン殲滅とかww
[一言] ゴブリン相手に、この2人じゃあ… オーバーキルすぎたんじゃ…
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