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第123話 疑念

本日一話目です。

 母であるシルヴィは、昔から凄い人だと思っていた。


 《聖女》として、どんなに厳しい仕事だったとしても決して弱音を吐かずにやり遂げるし、母としても私に対して愛情を持って接してくれていた。

 その二つを両立出来る人がまずいないということは、学院に通って、同級生たちが両親について色々と文句を言っていることで理解した。

 だけど私は……母にはほとんど、文句などなかった。

 ただ《聖女》の力についてだけは別で。

 母と祖母は《浄化》の力が私に宿っているかも知れない、という。

 二人と同じ、《浄化》の力が。

 確かに、それが使えたと、そう思った瞬間もあった。

 それが見えたとき、二人は喜んでくれたので、私も嬉しく思った。

 期待に応えようと、そうも思ったものだ。


 けれど……ある日から、私にはこの力が、何か違うものに見えるようになった。

 母や祖母のその力もまた同じで……。

 確かに、効果はあるように思えた。 

 その場に宿る《淀み》や《穢れ》を、払ってはいる。

 でも……。

 それに疑問を持った上で、母や祖母の表情を観察してみると、今までとは違うものが見えてきた気がした。

 二人とも、知っている。

 この力が、《浄化》の力ではないと、知っていると。

 いや……多分、これは払っているのではなくて……。

 それを理解するのが不安で、ずっと答えを出せずにいた。


 そこに現れたのが、他国の公爵夫人、エレイン先生だった。


 その人は、隣国イストワード王国において、ファーレンス公爵夫人として有名な人であったけれど、別の名前でも知られている人だ。

 つまりは、魔術学院の初等部、その部長、特殊属性魔力の研究者としての顔だ。

 彼女が言うには、この世には通常知られている属性魔力以外にも、それらに分類できない、特殊な属性魔力が存在しているのだという。

 古くから知られるおとぎ話に出てくる、現代の魔術ではおよそ不可能に思えるような魔術を使う者たちが使っていたものも、もしかしたら特殊属性魔力かもしれない、とすら言うのだ。

 この話を聞いたとき、私は思った。

 私や母上、それにお祖母様が持っている力というのは……。

 しかしそれを口に出すことは出来なかった。

 だけど……エレイン先生の講義を聴き、そこで多少の質問をすることくらいは許されるだろう。

 そう思って聞いたことに、思った以上の答えが返ってきた。

 聖女の力が、特殊属性魔力である可能性はあるのだと、概ねそういう話で……。


 やっぱり、と、納得があった。


 本当なら、それだけで満足しておくべきだった。

 これ以上、深く知ろうとしたところで、知ったところで、誰も幸せにはなれない。

 そんな気がしたから。

 けれど、運命が導いたのか、私は再度エレイン先生と接点を持つことになった。

 《迷宮探索実習》という特殊な授業が急遽設けられて、隣国から来たエレイン先生とその一行と、一緒に班を組み、迷宮を探索することになったのだ。

 こうなったとき、私は、悪くないと思った。

 隣国の生徒たちはいい人たちだし、それにエレイン先生が引率としてついてくれるのなら……きっと、そのうち、特殊属性魔力について……私たちの力について、尋ねられるタイミングがあるだろうと、そんな気がしたから。

 それがいつになるかは分からないけれど、一緒に探索して、沢山お話が出来るようになったら……聞いてみようと、そう思っていたのだ。


 けれど、少し困ったことになって。


 迷宮を探索する中で、隣国の生徒たち……イリーナたちの実力を見ることになったのだけれど、それがあまりにも高すぎたのだ。

 もちろん、聖アーク学院の生徒も、武術や魔術について戦闘訓練をする。

 いずれ聖職者になる者も、聖騎士になる者も、また魔術師として立つものだって、戦える力があって損をするものじゃない。

 むしろ、なければ困るものだから。

 そのための授業のレベルは決して低いものではなく、実際、他の国からたまに来る教師たちがその授業を見ると、驚いていたりすることもあった。

 だから、私は自分の力が、それなりだろうと思っていたの。

 けれど、イリーナたちの戦闘はどう見てもレベルが違った。

 あまりにも……実践的というか。

 普段からまるで強力な敵と戦い慣れているのではないか、そう思ってしまうくらいに手慣れていたのだ。

 私は全く何も出来ずに終わり、そして危機感を覚えた。

 このままでは、すぐにこの班から追い出されてしまうのではないか。

 そんな危機感だ。

 もちろん、イリーナたちがそんなことをするような人たちじゃないのは分かっていた。

 彼女たちは、優しい。

 それにエレイン先生も、彼女たちが本国に帰るまではこの班でやっていくと、そんな話をしてくれた。

 だから大丈夫だ。

 そうは思ったけれど……。

 でも、少しなんとかしないといけないかも。

 そうも思ったのだ。

 私は、努力することに決めた。

 つまり、自主的に戦闘訓練を積んで、彼らと同じくらいに戦えるようになろう、と。

 そのために相談する相手はエレイン先生でも良かったのだけど、忙しいのか中々見つからなくて、結果的に以前からいる学院の武術教官にすることになった。

 彼は私に申し訳なさそうに、


「イストワードの子たちに着いていけない!? それは大変だったね……確かに、今回来た子たちは向こうの学院でも精鋭みたいだから、僕が教えていた内容じゃ中々並ぶのは辛かったかも知れないね……よし、そういうことなら、特別な特訓でもしてみるかい?」


 そう言ってきた。

 私は頷いて、


「はい! 私、強くなりたいです!」


「おぉ、その意気だ! じゃあ……そうだな。今から……ってわけにはいかないか。次の授業があるもんね」


「はい……」


「じゃあ、仕方ないから夜でもいいかな? 許可は僕の方でとっておくからさ。場所は……うーん、やっぱり《迷宮探索実習》のためにってことなら、迷宮がいいだろうね。そこに来てくれるかい?」


「わかりました。よろしくお願いします!」


 そんなやりとりがあって、意気揚々と迷宮まで行ったのは良かった。

 けれど……。

 迷宮に着くと、いつもそこで周囲を見張っている門番の人たちは眠っていて、教官の姿も見当たらなかった。

 それで、中にいるのかなと思って少し近づいてみたんだけど……その瞬間、足下がピカッ、と光って……。

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