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第111話 聖都

「……わぁ、ここが聖都……!」


 馬車の窓から聖都ウトピアールの街並みを見ながらそう、感嘆の声を上げたのはブルードだった。

 イリーナとジークもまた、ブルードと同様に窓に張り付いて初めての外国の光景を楽しんでいる。

 

「今はいいけれど、大聖堂についてからは三人ともしっかりとしてね。貴方達は我が学院を、ひいてはイストワード王国を代表する留学生になるのだから、みっともないところは見せられないわよ」


 一応、注意はしておくが、ちゃんと聞いているのかどうかは謎だ。

 まぁ、まだ三人とも九才と十才である。

 自分がそれくらいの時、どれだけ大人の忠告を真面目に聞いていたのか思い出すと……かなり怪しいものがあった。

 究極、この三人が留学中ずっとお登りさんのような感じでいても、本来の目的は彼らにはないので問題がないと言えばない。

 ただ、一応の体面というものがあるのは事実であるから、早いうちにしっかりとして欲しいものだと思った。

 イリーナに関しては正直なところ、あまり問題は感じていない。

 彼女はそういうところ聡いから。

 しかしジークとブルードは……。

 前の時のジークであれば賢く立ち回っただろう、と思うが、今のジークはかなりのびのびと育てているのでそういう期待はできない。

 極めて素直で自由な子だ。

 そしてブルードはそんなジークと非常に仲良くなってしまったため、似たような性格になってしまっていた。

 流石にあまり行きすぎるとブルードも貴族としての自覚はある方なので止めるのだが、そこまでやらかしてからでは遅い。

 この三人を選抜したのは早まったかな、と少しだけ思わないでもないが、流石に外国だということで他所行きモードで頑張ってくれるだろうと期待するしかなかった。

 本来、優秀な三人であるし、今は初めての外国に興奮しているだけであろう、と。


 *****


 しばらくの間、馬車は進み、そして聖都の最も奥まった部分に辿り着くと停止した。

 そこには巨大かつ壮麗な大聖堂が存在しており、これこそが聖国、ひいては聖都の中心であるカメア大聖堂であった。

 その正面入り口にはいく人もの聖職者と、彼らをまとめているのであろう格の高そうな聖職者が一人待ち構えている。

 私たちが馬車から降りると、早速と言った様子で顔を上げて、近づいてきた。


「……ようこそおいでくださいました、ファーレンス公爵夫人。私は聖教会、枢機卿の一人、ハムダン・ジャジールと申します」


 そう名乗った彼の肌は浅黒く、この辺りの国家に多く占める人種の色とは違っていた。

 確か、南方の……。

 最近、枢機卿の一人が亡くなり、新しい枢機卿に変わったことも、その名前も知っていたが、人種については伝えられていなかったため、意外だった。

 そんな私の視線を理解したのか、


「お分かりかもしれませんが、私は南方出身でございます。珍しい色かとは思いますが……」


「そうですわね。久しぶりに見た色だったから、懐かしかっただけですわ」


 侮辱的な視線だと勘違いされては色んな意味で困るので、正直な気持ちを先んじて言っておく。

 これにハムダンは意外そうな表情で、


「南方人にお知り合いが?」


「ええ。実家の使用人に。ただ、結婚して職を辞してしまったので長いこと会っていないのですけれど……ですから、貴方のような方に会えて嬉しく思いますわ、ハムダン様」


「そう言っていただけるとありがたく思います。私のような者が枢機卿などしておりますと、ご不快に思われる貴族の方も少なくないものですから……」


 まぁ、そういう者もいるだろう。

 南方人は戦闘民族だ。

 常に戦に明け暮れていると言われ、それが故に中央の人間からすると野蛮に映る。

 その感覚を隠さない者というのも普通にいるというわけだ。

 しかし、流石に枢機卿に向けるほどの愚か者がそう大勢いるとは思いたくなかった。

 いるとしても、イストワードの者以外であって欲しいと。

 何せ、聖教会の枢機卿といえば、国家元首にも匹敵する権力を持った存在と見て間違いないからだ。

 大陸全土に根を張っている聖教会。

 その組織の中において、六人しかいない存在であり、そしてなんと言っても、彼らの中から次代の聖教皇が選ばれる。

 一国の国王であっても、枢機卿に対してはおいそれと手出しは出来ず、国を訪問する時は国賓扱いとして遇するのが普通だった。

 

 そのため、正直なところ、私などの出迎えに出てくれるとは意外すぎるのだが……。

 もしかして、彼こそが今回、次期聖女の才能を明らかにすべし、と主張した聖教会の幹部、ということだろうか?

 気になったが、この場で直接尋ねるわけにもいかない。


「不快になど。しかしあまり表に出られる機会は持たれていないのでしょうか? お名前を聞く機会があまりなかったかなと……」


「そうですね。これから先は精力的に各地を回るつもりでいるのですが、引継ぎなどもありましたし、その所掌が主に裏方に集中しておりましたから。一般信徒の方にも私の名前も顔もまだまだ伝わっていない状況でして……」


もし少しでも面白い、面白くなりそうと思われましたら、下の方にスクロールをして、

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また、ブクマ・感想などもお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 蛮族とかでは無く、戦闘民族笑
[一言] 枢機卿、すごいんだなぁ
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