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悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。  作者: 丘/丘野 優
第1章 悪役夫人の死に戻り
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第11話 待ち伏せ

「……こう言っちゃ悪いが、あんた本当に公爵夫人なのか?」


 畑の近くにあるこんもりとした茂みの中で、狩人の男……ガストが私にそう囁いた。

 小声なのは、今が真夜中であり、そして畑を息を潜めて見張っているからだ。

 

「どこからどう見ても公爵夫人でしょう? ほら、敬語使わないと罰するわよ」


「へっ。あんたの方からいらねぇっつったんだろうが」


「そういえばそうだったわね……ま、人前やら公式な場ならともかく、魔物の待ち伏せしてる時にお互い敬語だと意思疎通が面倒になるでしょ。楽な方が良いじゃない」


「違ぇねぇが……そもそもそれだけじゃねぇ。いくら魔物から気配を隠すためだからって、堆肥を頭から被る公爵夫人がいるか? 俺は聞いたことがねぇよ」


 ガストは私の堆肥塗れの格好を暗い中でも視認しつつ言う。

 暗闇でもある程度夜目が利くのは狩人としての必須技能だと言う。

 残念ながら私にはそれはできないが、魔術によって周囲を昼間のように見ることが出来る。

 魔力のコントロールが難しいから、そんじょそこらの魔術師には真似のできない技術だが。

 実際、私とガストの後ろにいるワルターには使えない。

 ただ、彼は彼で暗闇でも視界が確保できる魔導具をしっかり持っているため、三人とも視界の確保という意味では全く問題なかった。


 ちなみに堆肥であるが、畑を監視するに当たって今まで害獣と思しき者を確認できた者はいない、という村人たちの話を聞き、それならばということで存在を隠すために提案し、自ら被った。

 ガストは狩人であるから、そういった周囲から匂いを隠す行為については慣れっこのようで、すんなり受け入れたが、テロスや農家夫婦、ルカ親子は止めた。

 貴族がそんなことをする必要はない、やるなら自分たちが、と言って。

 だが、彼らが仮にやったとして、最終的に相手にしなければならないのは魔物である。

 彼らが出て殺されましたでは意味がないのだ。

 ガストについては狩人であり、その辺の魔物程度であればなんとかできるし、それが無理でも狩人として周囲の警戒くらいは出来るのでここにいる。

 ワルターは言わずもがなだ。

 彼は私のすることに一切異を唱えることなく好きにさせてくれている。

 もちろん、魔物が本当に現れたら彼自身が倒すつもりなのだろうが……。


「良いじゃない。魔物から身を隠せるなら堆肥くらい問題ないわ。あとで洗えば良いだけだし」


「洗ってもなかなか取れねぇんだぜ……」


「実は便利な魔術がいくつかあるのよ。終わったら貴方にも使ってあげるから」


「おっ、そりゃ良いな……って、おい。来たぞ、ご夫人」


 ガストがそう言って視線を向ける先を見れば、確かに何かがやってきたのが分かった。

 

「どう見ても森鹿や鬼鼠じゃないわね」


「あぁ。小森狼でもねぇ……あの小柄で二足歩行してる様子から見て……」


「フォレストゴブリンで間違いなさそうね」


 フォレストゴブリン。

 森に住むゴブリンの総称であり、一般的には最も遭遇しやすいゴブリン種だ。

 いわゆる鬼人族系の緑鬼族がほとんど変わらない姿形を持つ亜人族なのだが、彼らと違うのは人と見たら襲いかかってくる魔物に分類されているところだろう。

 全く知能がないというわけではなく、手の込んだ衣服や武具を纏っていたり、高度な魔術を使う個体も幾度も確認されているのだが、そのいずれもが人に対しては敵対的だ。

 つまり、出会い次第倒してしまった方がいい。

 

 今回のような場合には特に討伐が推奨される。

 人族の村に現れ、その作物を収奪しているのだから。

 実際、しばらく観察していると、彼らはその手に持った棍棒やら錆びた剣やらを使って柵を破壊し、畑の中に入ってその実りを背負ったズダ袋に詰めはじめた。

 手際はかなり手慣れていて、何度もやっていることが分かる。


「……公爵夫人さんよ、行くか?」


 狩人の男がそう尋ねるが、私は首を横にふった。


「……いえ、まだよ。ここで倒すことは簡単だけど……それじゃあ解決しないでしょうから」


「群がある、と?」


「間違いなくね。この村の実りのほとんどを持っていっても賄えずにこうやってせっせと通っているのよ? それなりに数がいると考えるのが正しいわね」


「ま、そうだろうな……あんた、森の中、追跡なんてできるのか?」


「昔、あなたみたいな狩人に森の歩き方を教わったからね。最後には猫科の魔物だって敵わないってお墨付きをもらったわ」


 もちろん、前の時の話だ。

 通常の狩人とは異なり、魔術も扱える私はその気になれば本職の彼らよりも巧妙な気配隠しが可能なのだった。

 たとえそれが森の中でも。

 そもそも、彼らに森の歩き方を教わらない限りできなかったのは間違いないが。

 そんな私にガストは呆れた様子で、


「ますます公爵夫人らしくねぇな……むしろ、狩人になってほしいくらいだ」


「それも悪くなさそうだけど……もしも公爵家がお取り潰しになったら、その時にでもなることにするわ」


「そん時はうちで歓迎してやるぜ。おっと、後ろの爺さんも大丈夫なのか?」


 ワルターを見てガストが言ったので、今まで無言だったワルターが言葉少なに、


「……問題ございません。私も狩人の歩法は身につけております」


 と答えた。


「……狩人の神アルテは才能を与える奴らを間違いすぎなんじゃねぇのか……? まぁ、そういうことなら構わねぇけどよ……よし、ゴブリン共が引き上げていくぜ」


「じゃあ、追いかけましょう。道中、他の魔物に出会ったら……」


「その場合は私が片付けますので、お二人は手出しされなくても結構です」


「ではお願いね」


 そして、私たちはゴブリンたちを追いかけて、森の中へと侵入していく……。

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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[良い点] 人生の見直し?たとえ生き返っても若さあふれた生命力、羽目が外れたものが欲しいです。面白い切り口なので、気になって読んでいます。死んで骸骨、かたやタイムスリップ。リリーが気にかかる。番外編期…
[一言] 信じられるか? これ公爵夫人なんだぜ
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