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第106話 ブルード・クラルテ(後)

 数日後、ブルードの目の前では信じられない光景が繰り広げられていた。

 特殊魔力保有者クラスと、そうではないブルードのクラスとの合同で行われた魔術実技の授業時間。

 魔術実技場において、今、主に魔術を使って見せているのはブルードのクラスの者たちではなく、特殊魔力保有者クラスの者達だった。

 

「……そんな。前の時は、魔術は使えないって……」


 思わず呻くようにそう言ったブルードに、初等部部長エレインが微笑みつつ、諭すように言う。


「その通りよ。でも彼らは努力して使えるようになったの」


「努力したからって、数日でどうにかなるようなわけが」


 それは苦し紛れのセリフだったかもしれない。

 しかし意外にもエレインはこれにも頷いて、


「それもそうよ。そんな簡単にどうにか出来たら、この世界はもっと魔術師で溢れているでしょうね」


「でも。だったら、どうして……」


「色々理由はあるけれど、まず一つは、あの杖ね。あれは魔力を注げばそれで魔術を放てるものなの」


「……ズルじゃないか」


 ぽつり、と言ったブルード。

 エレインはそれも特段否定することはなく、しかし、言う。


「ある意味では、そうね。でも彼らの多くは魔力を感じることさえも出来なかったのよ。それがこの短い期間で魔力を放出するところまで出来るようになった。それは頑張ったと言えるのではないかしら」


「それは……」


 魔力を自覚する、それを外に放出する。

 言うのは簡単だが、それがそう簡単な技術ではないことをブルードは知っていた。

 それをするために、少なくとも自分は一年以上かかっている。

 今元通り、できない頃に戻ってやり直したとしても、やはりそれなりに時間はかかるだろう。

 それをたった数日で出来てしまったのなら……それは才能がある、ということになるのではないだろうか。

 弟よりも、ブルードよりも。

 否定したかったが、ブルードは本来公平な感覚を持っている。

 それは両親から叩き込まれた価値観で、ただ、だからこそ公平性に反する合格を得た彼らに怒りを覚えた。

 それなのに、今、その価値観を大事にするなら、彼らの才能をはっきりと認めなければならない。

 これは葛藤で、だからこそ言葉がなかなか出なかった。

 この辺りのブルードの意識を理解してなのか、エレインは特にブルードに何か言うことを求めず、話を続けた。


「それとね、そこには特殊魔力保有者に特有の事情もあるわ」


「……事情?」


「一般属性の魔術師というのは、詳しい説明は難しいから省くけれど、簡単に言ってとても安定しているのよ。逆に特殊魔力保有者は、非常に不安定。なぜなのかはまだ解明し切れてはいないのだけれど、そういう部分が特殊魔力の特殊魔力らしさを形作っている可能性が高い、とは思っているわ」


「ええと……?」


「ごめんなさい、少し話がずれたわね。何が言いたいのかというと、一般属性持ちであれば、落ち着いた環境で修行した方が伸びるのよ。特に、初期の頃はね。知識や技術を身につけるのは、後でも構わないの。逆に、特殊魔力保有者は、ある日突然、大事故を起こしたりすることもある。貴方も聞いたことはない? 魔力の暴走の結果、村ひとつ、町一つがなくなった、みたいなお話を」


「……あります」


 頷きながら、ブルードは青くなった。

 昔から、小さな子供が魔力を暴走させて、周囲を吹き飛ばした、などという事件がたまに起こることは知られている。

 それは今まで、膨大な魔力を持っていたから、というような説明がされてきた。

 けれど、エレインの言葉からすると、少し事情が違うようだ。

 エレインは言う。


「そういう事故はね。膨大な魔力を持っているから、というのが理由ではないわ。膨大な魔力を持っていたとしても、一般属性しか持たないのであれば、力を暴走させても被害は意外と小さく収まるの。でも特殊属性魔力だとね。本当にとんでもないことになる。レイズガ王国の、旧王都跡地は知っている?」


「いいえ。レイズガ王国は知っていますけど」


「そう。穏やかな気候と広大な平野部を持つ、いい国よ。そして、あの国には当然、首都としての王都があるのだけれど、今の王都は二百年ほど前に新しく建てられたものなの。以前のものは、旧王都と呼ばれているわ」


「どうして……」


「元々の王都があったのに新しく作ったか、ね? 簡単よ。旧王都はボロボロに破壊されてしまったからだわ。生き残った人はそれなりにいたみたいだけれど、街として新しく建て直すのも難しい状態になった。汚染されてしまったからね」


「その汚染って」


「そう、推測がついてるわね。特殊魔力保有者によるもの、と私は考えているわ。これはまだ研究途中で、私は実際にその場には行けていないのだけど《魔塔》の人員がデータを取ってきてある程度分析したところ、特殊魔力の残滓があったの。だからほぼ間違いないわ」


「そんな……」


 だったら、と考えてブルードは恐ろしくなった。

 そんな事態を引き起こす可能性のある特殊魔力保有者が、初等部には今、十人もいる。

 一国の王都を一人で破壊できるのなら、十人もいたら国ごと消滅する可能性もあるのではないか、と。

 そこまで考えたブルードに、エレインは微笑む。


「まぁ、そこまでの大規模な被害を生み出すほどの力を持った特殊魔力保有者は、滅多に出ないのだろうけどね。それこそ何百年に一人だと思うわよ。でも、そういう危険が、ある。特殊魔力保有者は、不安定なものだから、というわけね。だからこそ、早めに学院に入れて、その力の使い方を教えておかなければならないのよ。国ごと滅びたくないでしょ?」


「……はい」


「それでね、話が戻るけれど、そんな彼らが、今、曲がりなりにもある程度魔力を放出できるようになっているのは、ブルード。貴方の言葉が大きかったわ」


「え?」


「あの時、特殊魔力保有者クラスの生徒達は結構、傷ついたからね。それによって、軽い……魔力暴走のようなことが起こっていたのよ。それによって、彼らの体の中の魔力が結構動いてね、普通よりもずっと、魔力を外に放出しやすい状態が作られた」


「僕は……そんな危ないことをしてたんですか……?」


「場合によってはね。でも軽いものだったから、放っておいても教室一つが吹っ飛ぶくらいで済んだはずよ」

読んでいただきありがとうございます。


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[良い点] 教室ひとつ分…。怖っ! 前回の感想にもなりますが、ブルードくんの分かってるけど文句を言いたくなる葛藤がリアルで共感しました。そういう自分を嫌になったりもどかしく感じることもあるよね、と肩を…
[良い点] イヤボーン教室になるところだった
[一言] さすがはノック代わりに魔塔の門を消し飛ばす奥様。子供のやらかしで教室一つ吹き飛ぶくらい軽い軽い。
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