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第104話 成果

 ジークが実演した後は、クラスの者たちは皆、真剣に私の話を聞いて、杖の使い方を学び始めた。

 

「貴方たちはまだ魔術は使えないだろうけれど、かと言って魔力を全く感じられない、という人はいるかしら?」


 私の言葉に十人の生徒のうち、二人が気が進まなそうに手をあげた。

 恥ずかしいと思っているのかもしれない。


「……分かったわ。勘違いしないで欲しいのだけど、今の段階でそうであっても何も問題ないからね。他の皆は魔力自体は感じられる、ということでいいのね?」


 私の念押しに他の生徒たちは頷いた。

 ただ、ここまで言っても実は出来ない、という者が混じっていることもゼロではないので、そこのところは注意が必要だろう。

 しかし今のところはこれを信じて授業を進めることにする。


「では、さらに進んで自分の体内の魔力なら動かせる、と言う人は?」


 これに手をあげたのは五人だ。

 うち二人は当然、ジークとイリーナで、他に三人が既に出来る、ということになる。

 この技術は魔術師であれば誰でも出来るが、まだ魔術を使ったことがないにもかかわらず出来る、というのはかなり珍しい。

 それなのにジークとイリーナ以外に三人もいるのは意外だった。

 おそらくは、魔術を使おうとかなり練習したのだろうと思われる。

 家の中で、無価値だと思われないように。

 しかし結局は魔術を使うことができなかっただろう。

 それを考えると胸が痛くなるが、これから彼らのその思いは報われる。

 そのために私が教える。

 

「……中々いいわね。そこまで出来るのであれば、すぐに杖を使えるようになるわ。そうでない皆も、練習すれば必ず出来るようになるから、心配はしないようにね。では早速やってみましょう」


 私はそう言って、実際に杖を使用する段階へと進む。

 まず教えたのは、既に体内魔力を操れる三人。

 これについて、他の生徒たちにも見学させることにした。

 なぜ彼らが一番初めかと言えば、そうした方が効率がいいからだ。

 五人が杖を使えるようになれば、まだ使えない五人に一人ずつ付いて、教えてもらうことが出来る。

 私一人で全員教えても問題ないが、一人についていられる時間というのは短い。

 可能な限り、自主的に教え合う空気を作って置きたかった。


 杖を使うためには、魔力を体外に放出しなければならない。

 しかし、魔力というものは物質の内部に存在している場合、その外に出るときに抵抗が存在する。

 通常属性魔力の場合、この抵抗がかなり弱いのだが、特殊属性魔力は抵抗が強い。

 従って、この抵抗……体の内と外の間に一枚ある、殻のような感覚を受けるものを突き破らなければならない。

 通常属性魔力であれば、これを破るのには少しの集中で足りるのだが、特殊属性魔力はかなりの集中が必要になる。

 一点に魔力を集め、そこを突き破らなければならないからだ。

 この感覚は非常に掴みにくく、だからこそ、最初は補助してやるのが一番いい。

 この補助も簡単なものではなく、補助する者が未熟だと一生魔術が使えない体にしてしまう可能性がある。

 だから細心の注意が必要だ。

 私は一人目の生徒、マルクラールに杖を持たせる。

 彼は体内魔力は操れる方だった。

 だからだ。

 そして後ろから肩に触れ、


「……では、今から貴方の体の魔力を操るわ。ちょうど、掌の辺りに集めるから、その感覚をよく覚えて、それを自分で出来るようにするの。いいわね?」


 そう言うとマルクラールは頷いたので、彼の体の中の魔力を動かす。


「……っ!?」


 その瞬間、自分の体の中に今まで感じたことのなかった刺激のようなものを感じたらしく、驚いた顔をするマルクラール。

 しかし、すぐに冷静、と言うか飄々とした表情に戻って、今度はしっかりと自分の中で起こっている現象を観察しようと集中し始めた。

 一番最初にこの子を選んだのは正解だったようね。

 そう思う。

 そして、三分ほど数え終わると、私はそこで、


「……じゃあ、一旦止めるわ。これ以上やると疲れてしまうからね」


「はい……」


 少しばかり息が切れた様子のマルクラール。

 彼に尋ねてみる。


「感覚は分かったかしら?」


「多分、ですけど……」


「なら、少し休んだら、自分で練習してみて。それを何度も繰り返せば、いずれ体外に魔力を放出できるようになるから」


「はい」


 それから、他の二人にも同様のことをする。

 ただ、一度ではマルクラールほどはっきりとは理解出来なかったようで、何回か繰り返すことになった。

 それでも最後には理解してくれたので、このやり方で間違いないはずだ。

 それから、他の生徒の指導に移る。


「貴方たちにも、今見ていたようなことをするわ。でも、段階を踏んで行くからね。まず魔力を感じられない人には魔力自体を流してみるところから、魔力を動かせない人は、動かす感覚を感じるところから、と言う風に。いいかしら?」


『はい!』

 

 私の言葉に元気よく頷いた面々に、それぞれ触れて、言った通りに魔力を流していく。

 こちらの方は一人ずつやっていくと時間がかかりすぎるので、二人ずつだ。

 一点に魔力を集中するのとは異なり、私の方の負担もかなり低いから出来ることだった。

 そして授業の時間が終わる頃には、全員が魔力を感じることは出来るようになっており、また魔力を動かせなかった生徒たちも僅かながらに動かせるようになっていた。

 特にマルクラールはその時間内に体外に魔力を放出することまで出来るようになっていて、杖から火の玉を小さいながらも射出できるようになってしまった。

 流石に早すぎる成長だが、悪いことではない。

 それに彼がそこまで出来たことで、他の生徒たちにも希望を与えたらしく、そのことが他の皆にいい刺激となった。

 この調子だと、次の授業ではもう一人か二人、杖を使えるようになる可能性もある。

 そのことに満足し、今日の実技の授業を終えたのだった。

 

読んでいただきありがとうございます。


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