第六話 戦闘
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目の前に現れたのはゴブリンの群れ。決して遅くはない足取りでこちらに向かってきている。深緑の汚い肌とブサイクな面。尖った耳と丸っこい鼻が特徴だ。
鼻がよく効き、特に人間の匂いに敏感なモンスターだ。人間がいると分かると群れを呼び、そして数の暴力で襲いかかる。一匹一匹の攻撃力はほんの僅かだが、それが集まれば話は別だ。数が多ければ多いほど厄介な相手に違いはない。
昔、ダンジョン内でゴブリンのトラップにひっかかったことがあった。その時は二日間ゴブリンと戦い続けたっけ。悪夢のような冒険だった。次々と襲いかかってくる最後の方はただ目の前の緑の肉を切るだけの意思なきバーサーカーと化していた。
「……やっべ、吐きそう」
嫌な思い出はそっと閉じておこう。ゴブリンの群れを目視で確認する。ゴブリンは俺が一人だと分かるとさらに速度を上げてこちらに向かって走ってくる。久しぶりの獲物で嬉しいのだろうか。「グギャギャ」と不気味な笑い声をあげて、口を大きく開けている。
正直、戦闘はゴブリンを避けたかった。まだオークの方がましだ。なぜなら、この悪臭。目の前にいるわけでもないのにこの臭さだ。別にモンスターなんかに清潔感を求めているわけではないが、正直……生理的に無理だ。
「……なにせ、華が無いよな〜」
そろそろ手に鉄パイプが馴染んできた。上に放り投げて一回転させてからキャッチする。
──そう、俺の帰還後初戦闘。
それがゴブリンでは少々……。
役不足ではないか。
俺はゴブリン目がけて走り出した。
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一匹、また一匹と頭を潰していく。人間のように頭を守る頭蓋骨が発達していないので、容易に鉄パイプで頭を破壊することができる。
上に振りかぶって一気に振り下ろす。肉と骨が潰れる鈍い音がすると同時に紫色の血が吹き出す。
身体の動きは悪くない。敵の動きもよく見える。どうやら帰還後も動体視力や身体能力に変化はないようだ。これならだいぶ上位のモンスターともやり合うことができそうだ。魔法が使えない分攻撃力は低下しているだろうが、それは素の運動能力でカバーして白兵戦でなんとかするしかない。
「グギャッッ!!」
後ろから二匹同時に俺の背中目掛けて飛びついてくる。見なくても気配察知で気づく。振り向きざまに薙ぎ払うようにして二匹の首を折る。名も無きゴブリンは右方向に数メートル飛んでいく。固いアスファルトの地面にぐったりと倒れてそのまま動かなくなる。
「……死体は残るのか」
完全に息途絶えたゴブリンの死体が霧散しない。そのままぐったりと地面に倒れたままだ。あっちの世界ではモンスターは死亡すると霧散して死体は残らない。代わりに魔石を落とすか運が良ければアイテムをドロップする。ゴブリンのように低級なモンスターがアイテムをドロップさせることはほぼ無いが。
「グギィィ!!!」
「グガッ!グガッ!!」
対峙したゴブリンをじっくりと観察する。やはり俺の知っているゴブリンで間違いない。いつも戦ってきた馴染みの奴らだ。基本モンスターは階層主はイレギュラーを除いて同じ種族なら外見は同じだ。ゴブリンならゴブリンで外見に違いは無い。肌の色、顔の形、耳の大きさまで、個体ごとに個性なんてものは存在しない。
しかし、俺の知っているゴブリンなら霧散するはずだ。ここだけが大きく違う。
「……フンッ!」
腰から二つ鉄パイプを抜いて両手に持つ。すぐさま、二つの頭部めがけて鉄パイプを突き刺した。鼻がメリメリと押し込まれて目ん玉が飛び出る。ついには鉄パイプは頭部を貫通。勢いよく血が飛び出してきて、俺の顔に噴水のようにふりかかる。
「……ちっ!ばっちぃ!」
口の中に入ってしまったゴブリンの血を唾液と一緒に地面に吐き捨てる。腐った肉を鼻に詰められているようだ。返り血がとても臭う。こればっかりはいつになっても慣れない。
呼吸を整えて、周りを見渡す。ゴブリンの猛攻もたんだん弱まってきた。もうほとんどゴブリンは残っていない。残ったゴブリンも怖気付いたのか、こっちに向かってこない。その間に殺したゴブリンの屍の数を大まかに数える。
「……120…か」
まあ、まずまずの結果だろう。肩慣らしには丁度いい相手だった。勇者時代の駆け出しのころの初心にかえったたようだ。
あの頃はろくに魔法も使えず、剣術ばかりやっていた。最初の頃は剣術の基礎中の基礎を叩き込まれていたっけ。その時も試し斬りとしてゴブリン達にお世話になった。おかげで剣術はかなり上達した。
基礎を極めれば全て極まる。派手な剣術などいらない。大切なのは初心。初心にかえり、基礎を意識する。
俺を前に足を止めているゴブリンに向かって走る。鉄パイプを右手でしっかり握る。
ゴブリンはそれに気づくと背を向けて走りだした。情けない走り方だ。情けない背中だ。そっちから襲ってきたんだろう?最後まで気高く戦いぬこうぜ。
俺は走りながら鉄パイプを左腰にかまえる。
「……基礎を極めれば、全て極まる」
呪文のように叩き込まれた教えを復唱する。
たとえそれが剣ではなくても、剣術は使える。鉄パイプを細い一本の剣だと認識するのだ。ずしりと腰に剣を携えて見えない鞘を軽くつまむ。
「グギィィッッ!!!」
薄汚い緑の背中を捉えた。
── 一閃。
シュンッッと冷たい空気を切り裂く音の後。
ゴブリンの胴体は横に真っ二つに割れてていた。
断面はとても綺麗で細い。まるで鋭い刃物で斬られたかのようになっていた。
まるでゴブリン自身が斬られたことに気づいていないように、切断された断面からは血の一滴も流れてこない。
ただ静かにその緑の骸は固い地面に落ちた。
風の吹く音だけがそこに残った。
「……よし、成功!魔法なくてもいけるじゃん、俺」
気づけば曇り空がだんだんと晴れてきた。重たい黒い雲はその時を待っていたかのように大きな太陽に道を譲る。
日が差し込み、辺り一体を明るく照らす。
血のついた鉄パイプを地面に起き、とりあえず帰還後の初戦闘の勝利を空に祝った。
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