第五話 高揚
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逃げ出したくなるような人の本能を刺激する不気味なサイレン音が無条件に心を不安にさせる。そして、段々と近づくモンスターの足音。
「おいおい……」
周りに人影の一つもない。サイレン音が鳴り終わったあとの静まりかえった冷たい空気が恐怖を煽る。
俺はとりあえず気配に向けて走り出す。
走りながらモンスターの気配を探る。まだ近くにモンスターは来ていない。だが、その足音は大きい。さして素早い。すぐに俺とモンスターは対峙することになるだろう。
「……【探索】」
今度はモンスターがいる方向に対象を絞って走りながらもう一度そう唱える。探索は俺が異世界で取得した魔法の一つ。無属性魔法という例えば火や水のように属性で分類することができない魔法群に分類される。
この魔法を使用すれば、知りたい情報を一方的に手に入れることができる。例えばーー相手の名前、数、強さ……などだ。範囲を狭めたことで、より正確に情報が頭に入ってくる。
索敵魔法はかなり燃費の悪い魔法だ。情報を手に入れた瞬間、すぐに魔法を切る。
「……これは随分なお出迎えだな」
頭の情報を整理する。
──────────
モンスター:ゴブリン
個体数:150
レベル:1〜5
──────────
近くのビルに逃げ込んでとりあえず身を隠す。じりじりとモンスターの一群がこちらに近づいてきているのを察知した。奴らも俺の気配を感じて俺を探しているみたいだった。
「ん〜、やっぱりか〜」
俺はため息をつきながら、自分の両手を凝視する。
まぁ、最初から分かっていたことだ。異世界に存在する魔力を練るための基本構成物質ーー『魔素』がこの世界では薄い。
当たり前だが、元々この世界では魔法なんてない。魔素なんて無いはずだ。
しかし、俺は魔法が使える。そしてモンスターもいる。つまり、魔素が薄いにせよ、存在している。これは朗報だ。
「……すぅ」
鼻から大きく空気を吸う。やはりこの世界の空気中の魔素は薄い。人間は体内で魔素を生成することができない。必ず外部から供給するしかない。
モンスターの中には体内で魔素を生成し、行使することができるものもいるが、人間は一定時間体外から摂取した魔素を体内に貯めることしかできない。食べ物からしか得られない栄養素があるのと同様に、魔素も日々摂取し続けるしかない。
摂取する方法はたくさんあるが、基本的には空気中の魔素を吸い込むことで事足りる。魔力が込められた石である魔石を取り込んだり、魔力を回復させるポーションを飲んだりする方法もある。
特に魔法を行使することを生業とする魔法師は空気中の魔素を体内に留めることができる時間が他の者より長い。自然と体外に放出してしまう魔素の量が彼らは少ないので、強力な魔法を行使することができ、その持続時間と回数もやはり多い。
魔法師は効率よく魔素を吸収することができるという身体的特徴を持ちつつ、体内における魔素の貯蓄容量も多いので、頻繁にポーションなどを摂取して魔力を高める。
「……魔素があるだけましか。燃費良く魔法を使うしかないな」
早速燃費の悪い探索魔法で魔法を消費してしまっているので、少し後悔しつつも、戦略を練る。
俺は人よりもかなり多く魔素を貯めることができる。これはまあ勇者の素質とも言えようか。今俺の体内にはあまり魔素は溜まっていない。最大が100%としたら、15%あるか、ないか。
戦闘するには心許ない魔素量だ。
今日一日中索敵魔法を使っていたせいで、5〜10%魔素を消費した。そう考えたら15%も残っているのはラッキーかもしれない。
「……んー、まあいいか」
目の前に落ちていた鉄パイプを三つほど拾う。二つは両腰に据える。最後の一つは右手に持つ。恐らく1メートルほどの長さ。リーチとしては悪く無い。少々軽すぎるのが心配だが。
素振りをして、少しでも鉄パイプを手に馴染ませる。気配はもうそこまで来ていた。もう少し近づけばゴブリンが俺に気づくだろう。そうすれば俺の命を断とうと一心不乱にこちらに襲いかかってくる。
ならば、先手必勝。こちらから仕掛けてやる。モンスター相手に後手に回るのは好ましくない。
「……ははっ、ゴブリンだっけ?」
俺は今まで何千・何万のモンスターと戦ってきた。その経験が言っている。思わず笑みが溢れる。
──ゴブリンなんて、魔法を使うまでもない。
「ははっ!いいね……楽しくなってきたぁ!」
俺は覚悟を決めて走り出した。
ビルから一歩、また一歩と足を踏み出す。
目を閉じて深呼吸する。高鳴る心臓の鼓動を落ち着かせる。
俺に気づいたのだろう。ゴブリンが一斉にこちらに走ってくる。もう少しで目視できるくらい接近してくるだろう。
他にモンスターはいない。相手は大量のゴブリン。
この世界で初めてのモンスターとの戦闘。だが、不思議と恐怖していなかった。むしろ、若干の高揚。
別に俺は戦闘狂というわけでは無い。だが、モンスターとの戦闘となると少し胸が高鳴る。死と隣り合わせの冒険を続けた弊害の一つかもしれない。
本来は恐怖を感じるべきなのだろう。
──だが、あぁ、くそ。どうやら俺の心は完全に勇者リョーヤに呑み込まれてしまったらしい。
こんな危機的状況で、俺は多分。笑っている。
「……さぁ、やろうか!」
現れた敵を前にもう一度鉄パイプを強く握りしめた。
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