その令嬢、鳴らす
レイに文句を言っていた生徒たちであったがレイが連れて帰る気が全くないということと、続いて聞こえきた咆哮に流石に身の危険を感じたのか各々の武器を手に取り周囲を警戒し始めた。
そんな中でもレイと共にすでに何度も来たことがある側付きのメイド達は武器をいつでも抜けるように腰に下げつつもお茶の準備をしていた。
「皆様に軽いアドバイスをしますとこのダンジョンのモンスターは強くはありませんが数で押してきますので孤立しないようにしてくださいね」
メイドが引いた椅子へと腰掛けながらレイはそう告げる。
そしてそれを告げ終わるのを待っていたかのようにこちらへと向かってくる足音が響き始めた。
その音を聞いた生徒たちは半狂乱になりながらも隊列を組み、騎士科の生徒達は盾を構え、魔法科の生徒達は魔法の乱射を開始する。
大半の魔法は虚空へと飛んでいくのだが、迫る魔物の数が数なだけに程度に周りを消しとばしていく。
魔力の無駄は多いが狭い通路に陣取っているためモンスター達も数を生かすことができずに飛んでくる魔法に向かって駆けるしかないという状況もうまく働いたと言えるだろう。
魔力がなくなれば魔法使いはまだ余力のある魔法使いと交代し、その間は騎士達が盾と槍を使い魔物を遠ざける。
そんなやりとりを二時間近く続けようやく魔物の群れが途切れたのだった。
「い、生きてる!」
「私達生きてるわ!」
誰もが疲労困憊になりながらも自分が生きていることを喜んでいた。
そんな彼らの耳にパチパチと手を叩く音が入ってきた。その音に釣られて振り返るとお茶を飲んでいたレイが手を鳴らして拍手をしていた。
「皆さんご苦労様です」
「こ、これで私達帰れるんですよね?」
生徒の一人が期待したような瞳でレイを見ながら尋ねた。
それに対してレイは「ええ」と微笑み、生徒たちの間に安堵の息が漏れた。
「あとこれを8回ほど繰り返せば帰りましょう」
『え……』
安堵の息は一瞬にして絶句へと変わる。
そんな生徒たちを見ながらレイはメイドから笛を受け取り口へと加える。
「おい、まて…… それは! やめろ!」
レイが加えているのが何かわからない生徒が大半な中、その笛に見覚えのある生徒が声を大にして静止する中、レイは力一杯笛を吹いた。
レイの吹いた笛は魔物呼びの笛と呼ばれており、吹けばそこに向かって魔物が押し寄せるという代物であった。
どうしてそんな物を作ったんだ! と怒られるような代物であるのだがしっかりと有効活用されていたいたりする。
騎士団のレベル上げでは頻繁に使われており、集合の笛と間違えて使われることも多々あったりする。
そんな集まったモンスターも騎士団は楽々と蹴散らすのだが。
「では魔力回復と体力回復のポーション渡すので頑張りましょう」
メイドたちが配布していくポーションを受け取ると我先にとポーションを口にしながら生徒たちは生き残るために死力を尽くすのだった。