その令嬢、求められる
本日一話目
レイ・ステアノスは別段王城へと入り浸っているわけではない。
もちろん、王城へはいつでもいけるよう権限を皇帝陛下自ら与えられてはいるがアレスの元へ向かうのは一週間に二回ほどだろう。
では王城へ向かわない日はどうしているのかというと貴族の子供が通う学院へと通っている。
王立魔法騎士学院というなんの捻りもない名前の学院であるが、学ぶのは紳士、淑女としての立ち振る舞い方や魔法の使い方、騎士としての心構えや戦い方などである。
先に貴族の子供が通うと述べたが別に貴族だけが通う訳ではない。魔法使いや騎士の中には平民も多数存在するため、学院には無論平民も通っている。
フォルスナー王国は能力主義の国であるため平民であっても能力があれば上へと上がる事が出来るのだ。
それが特に顕著なのがレイの父フレイが率いる王国騎士団であり、実力があれば誰でも入れるとフレイが公言していることもあり入団を希望する者は後をたたなかったりするのだ。
そんな学院に通うレイであるのだが、実際のところは特に学ぶこともなくただ学院へと通うだけとなっている。
別に貴族だからその特権で学んでいないなどというわけではない。むしろ学院においてレイが学ぶことが何も無いのである。
というのも四年前にアレスに一目惚れしたその瞬間からレイは努力した。努力という言葉すら霞んで見えるほどに。
淑女としてのマナーなどは勿論のこと、国の剣と呼ばれるステアノスの名に恥じないように戦い方も学んだ。
元々、騎士団長の父と魔法使いの長である母という優秀な血筋であったこともあるのだろう。
教えられた事は瞬く間に習得していき、体術、魔法共に父や母には届かないまでもそれなりの技量を収めているとレイは自負している。
実際にもそうなのだが魔法すらあくび混じりに躱すような父親に匹敵する体術から繰り出される天変地異を起こせるほどの威力を出す母親張りの魔法が繰り出されるため、総合能力ではとうの昔に両親を凌駕しているのだが気づかぬのは本人のみであった。
さて、そんな学ぶ事が特にないとも言える学院にレイは何故通っているかというと。
単純に愛しい愛しいアレスと父親たるフレイに学院だけは卒業するようにと言われたからである。
基本的にはアレスの言葉は是であるレイであるがこの発言には眉をひそめたのだ。
貴族たる者常に向上心を持て。
これは常にフレイに言われ続けていた言葉であり、レイはこの言葉に従うべくまだ努力を続けている。
それゆえに学ぶべきことがない場所に向かうというのがレイには理解できないのだ。
無論、アレスとフレイの二人としては婚約者であり娘であるレイのある種の異常性とも言える力を理解している。
だからこそ学院では貴族同士の繋がり、平たく言えば友達のようなものを作って欲しかったのだがレイはそれが理解できなかった。
だからこそアレスはため息混じりにこう呟いた。
「悩みがあるんだけど、レイ助けてくれないかい?」
助けてくれないかい? 助けてくれないかい? ……
その言葉が脳内でリフレインするように響き、少し時間をおいてレイは頰を紅潮させ、瞳を輝かせて答えた。愛しい人であるアレスに助けを求められてレイが断るわけはない。
「なんなりと! 殿下!」
主人であるアレスの役に立つことが何より喜びであるレイは二つ返事で内容を聞くこともなく引き受けたのであった。
そういう理由でレイは学院へと通っているのだ。