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その令嬢、最強

11話で終わる新作になります

 フォルスナー王国公爵令嬢、レイ・ステアノスは王城の廊下を歩いていた。


 金の髪を靡かせながら歩かせるその姿はすれ違う者を振り返らせ、一時的に虜にするほどの美貌であった。


 公爵が目に入れても痛くないと断言するほどに可愛がっているひとり娘である。

 真っ直ぐに長い金の髪、おっとりとしたような青い瞳。

 同世代の娘と比べれば、一部を除けば発育の良い身体に、新雪のように白い肌。

 誰もが羨み、魅了する「美」がそこにあった。


 そんな美しさを持つ彼女であるがために求婚もまた多いのであるが、それは父親であるフレイ・ステアノスが笑顔でバッサリと断っていた。

 彼曰く、「可愛い娘をバカ貴族の権力抗争なんぞに巻き込ませるか!どうしても嫁に欲しいというなら儂を倒してからにせい!」との事である。


 レイも貴族の娘。

 婚約くらいしていてもおかしくないのだが、戦場で負けなし、さらに言えば二つ名が鮮血公爵とまで呼ばれるフレイの獅子奮迅とも言える闘いぶりのせいで未だに婚約者がいないように思われる深遠の令嬢のようなレイではあるのだが一応は婚約者がいるのだ。

 父親が虫除けという意味でつけた婚約者が。


 その名をアレス・フォルスナー。

 この国の第一皇子であった。


 八歳の頃に互いに始めて顔を合わせたのだがレイはアレスに一目惚れしたのであった。

 くせのある銀の髪に、愛くるしさが浮かぶ表情に眠たげな茶の瞳。

 なにが刺さった、ではない全てがレイにとってはどストライクだったのだ。


「お父様! 私、アレス様と結婚したいです!」

「ぐぬぬぬ!」


 キラキラした瞳でそんなことを告げてくる愛娘に嫌ということもできなかったフレイ。虫除けがまさ虫になるとは考えていなかったのだ。


 それからというものレイはアレスに相応しいと呼ばれるようになるために努力した。

 武力のステアノス家と呼ばれる家に恥じぬほどの実力を得たり、花嫁修行に明け暮れながららも足しげくアレスの元へと通い親睦を深めていったのである。


 そして四年経った十二歳となったレイ。

 誰が見てもアレスの婚約者として見なされるほどの令嬢へとレイはなっていたのである。


 そんなレイが王城の、アレスの私室の前に立っていた。

 すでに何度も通っている場所であるのだが、レイはいつもこの部屋の前までくると緊張してしまうため、深呼吸をするのが常であった。


「フレイ・ステアノス公爵が長女、レイ・ステアノス嬢がいらっしゃいました」


 扉を警護する騎士達もそんないつもの可愛らしい令嬢の姿に微笑み、そんな彼女に不釣り合いな大きな袋に少しばかり怪訝な表情を浮かべながら扉を開いた。

 扉が開かれるとレイは軽く微笑みながら一礼をする。


「御機嫌よう殿下」

「やあ、レイ」


 両手でドレスの裾をつまみカテーシーを行うと部屋の中で執務を行なっていたであろう殿下ことアレス・フォルスナーが和らぐ微笑みを浮かべ、手を振りながら歓迎した。


「本日はお日柄も良いので一緒にお茶でもと思い参りましたの」

「それはいい、丁度休憩にしようかと思っていたところだよ」


 アレスが片手を上げ、周りの文官達に目を配らせ「休憩にしよう」と告げると文官達は仕事をする手を止め、アレスへ一礼すると部屋から出て行った。


「殿下、お茶にする前にプレゼントがございますわ」


 柔らかな微笑みを携えてレイが告げた言葉にアレスは隣室に待機しているメイドを呼ぶためのベルへと伸ばしていた手を止め、体を震わせた。


「プレゼントかい?」

「ええ、殿下の悩みの種の素です」


 レイの物言いにアレスの頭は全力で動き始めた。

 アレスの最近の悩み?

 近頃、王都周辺に現れる野盗だろうか?

 かなりの規模の野盗で既にいくつもの村が襲われており、少なく見積もっても人数は三十人は超えるとの報告を受けていた。

 だがあれは近日中に騎士団を派遣して捕らえる予定のはず。


「……検討がつかないな」

「殿下の悩みの種である野盗ですわ。お父様から聞きましたの!」


 レイが背負っていた自分よりも大きな袋をアレスに見える位置へと置くと縛っていた紐を解いた。

 すると中から無事な所が逆に見当たらない見るも無残な姿な野盗? と疑問が浮かぶような人物が転がり倒れた。


「……」

「あ、部下の方も連れてきた方がよかったでしょうか? 頭目の方のみで大丈夫かと思いましてこちらで処分してしまいましたが……」


 アレスが沈黙している事を怒っていると考えたのかレイは慌てたように言い訳をするのだがアレスの脳内では一人で三十人近い野盗を無傷で討伐したレイへの呆れと騎士団長であり、情報漏洩を容易く娘のレイへと行った父親であるフレイへの怒りであった。


「レイ、悪いけどお茶は少し後にしても構わないかな?」

「はい、殿下いくらでもお待ちしますわ」


 怒られるわけではないとわかったレイは大輪が咲いたかのような笑顔を浮かべ、アレスが指差した部屋へとスキップをするかのようは軽い足取りで向かって行った。


 レイが扉を閉めたのを確認したアレスはメイドを呼ぶベルではなく、その横にある緊急用のベルを手に取り力を込めて振った。


「ステアノス公爵を呼んで! 今すぐに!」


 大声で叫んだアレスは力なく椅子へと音を立てて座りこむと、テーブルからレベルを見ることができるメガネを取り出しかける。

 そしてレイからの血まみれのプレゼントを見た。

 そのプレゼントの上にはレベル38という表示が映し出され、それを見たいアレスは深いため息をついたのであった。


「レベル38の野盗をほぼ傷なしで討伐なんて」


 婚約者の偉業を思い出しアレスは頭を抱える。いや、彼女のレベルを考えれば当たり前かもしれない。


 なにせ、彼女のレベルは文字化けしてわからない。すなわち、測定不能なのだから。

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