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転生者だらけのシェアハウス  作者: 名無なな
第1部 映画「君と過ごした時間」
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第一章②

 結局俺の意見を噛み砕いて説明するのに、徒歩範囲にある不働高校に着くまでかかった。校門に吸い込まれるようにして何人もの生徒が集まっている。


「……なるほど、理解できた。苦労をかけるな」

「仕方ないさ。これは家主からのサービスってことにしておいてくれ」


 だから横文字を使うなと、とノエルが唇を尖らせた。ノエルと大名寺の家賃は月三万円となっており、高校生のノエルも暇なときにバイトを一気に入れて稼いでいる。俺の父親が海外赴任する際に母もそれについて行ってしまったとはいえ、生活費は毎月振り込まれているのでそこまで不自由したことはない。

 シェアハウスを募集したのは一軒家に一人暮らしが想像以上に寂しかったからだ。俺としては同年代が欲しかったが、よもや性別を超えて異世界転生者が二人も入居してくるとは……。事実は小説よりも奇なり、か。


 俺たちは校門を潜り下駄箱で靴を履き変えて、二年B組へと入る。もう始業十分前だからか、半分以上の席が埋まっていた。俺は一番窓際の席に座り、ノエルはその右隣の席へと腰かけた。隣接したのは偶然だった。


「――――だとしたらここはクロスカッティングで交互に描写すべきか? 果たしてそれは今の我にできる描写なのだろうか……。それとどこかで『カズヤ』をクローズアップさせたいのだがどうだろう? 意味がないと言えばそうなのだが、一度やってみたいと思っていたのだ!」

「ノエルさんもメチャクチャ横文字使ってるじゃないスか……」


 熱弁する彼女に対し俺は思わずツッコミを入れる。映画用語だけは詳しいノエルであった。

 そんな俺たちの元へ一人の女子生徒が歩み寄ってきた。


「おはよー、ナオトくん。それに女王様も」


 二人して顔を上げる。まず目に入ってくるのは整った顔立ちだ。やや赤みがかったミディアムヘアに快活そうな印象を受ける切れ長な瞳。一七〇に迫る長身に加え、スタイルは凹凸がはっきりとしておりまさしく理想を体現していた。


 彼女の名は乙原紫(おんばらゆかり)。俺らと同じく数少ない映研メンバーの一人だ。恵まれた容姿からヒロインを演じることがほとんどで、ぶっちゃけ部長のノエルと同じくらいに重要な立場にある。雑用の俺なんかとは比べ物にならん。というか比べないでほしい。


 ちょっとだけ周囲から注がれる視線が増したことを肌で感じていると、乙原がクスクスと可愛らしく笑った。


「教室の外からでも聞こえてたよ? 二人の声。今日もお熱い議論をしてるんだねー」

「議論と言うよりこいつが一方的に語ってきてるんだけどな」


 確かにこんな大声で話していれば衆目を引いても不思議じゃない。というか実際に様子をコソコソ窺われている。恥ずかしい。

 それも会話のネタがオタクっぽいため、以前に小馬鹿にしてくるクラスメイトもいたが、彼らはノエルに睨まれると一瞬で失神してしまい以後は誰もちょっかいをかけてくることはなくなった。お前は初期のハリー・ボッターかよ。


 するとノエルがしかめっ面を浮かべて、


「ユカリよ。何度も言うが女王はやめろと。それでは人の王ではないか! 我は魔の王ぞ?」

「はいはいそうでしたねー」


 愉快そうに笑う乙原。この二人の間で幾度も交わされてきたやり取りだった。

 確かに根っからの支配者気質のノエルには『女王』というワードはしっくりくる。SMクラブの鞭を持った女王様みたいな。しかし元魔王である彼女はその愛称を毛嫌いしているようで、その都度修正を求めているのだ。


 まあ実際、乙原からすればちょっと中二病の抜けきっていない微笑ましい言動に映るだろう。ノエルからすれば真剣に言っているのだが。

 拗れかねない会話にドギマギしつつ、俺は乙原にも未完成の絵コンテを見せた。


「ここで悩んでるんだってさ。何か良い案ないか、元子役様の目線から」


 そうだねー、と乙原が絵コンテに目を通す。

 彼女は六、七歳の時に子役をしていたらしく、ドラマにも数本出た実績の持ち主である。しかし今ではすっかり芸能界から身を引き、いち女子高生をエンジョイしている(本人談)。これまでの撮影を経てプロ顔負けの演技力(実際プロ)を幾度も見せつけられては信じるほかあるまい。というか普通にググれば出て来るし。


 かつての現場の空気を肌で知っている彼女は、ニワカ仕込みの俺とは違い的確な指摘ができる。ふんわりとした意見ではなく具体的な。


「うん。前よりかなり上達したんじゃない? 構図のバリエーションが増えてきてるし。だけどはっきり言ってまだまだ未熟かなー。絵だけじゃ分かりづらいけど多分、編集の際に通して観るとかなり違和感が生じると思うよ」


 たとえば、と乙原は一ページにつき二つ以上の改善点を挙げる。ともすればキツイ言い方にも取れるが、ノエルは真摯にそれを受け止めている。俺が監督の立場なら耳を塞ぎたくなるだろうに。

 しかしそれら全てを言い切るより早く、始業を告げるチャイムが鳴り響いた。


 忌々しげにスピーカーを睨み付けるノエル。おいおい、お前が睨むと爆発するんじゃないかと不安になるからヤメロ!

 そんな焦りを余所に、今日も平穏のまま授業が進んでいく。




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