表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者だらけのシェアハウス  作者: 名無なな
第1部 映画「君と過ごした時間」
24/31

第三章⑦

 部室に戻った俺たちは早速カップ麺にお湯を注ぐ。そして三分間待つ。個人的に三分ちょっと前に開けると良い感じになると思ってます。

 待ち時間を潰すために自然とノエルと言葉を交わす。


「なあ? これ終わったら何かしたいこととかってあるか?」

「まずは撮り溜めたドラマを消化せねばな……」

「あー確かに。うっかり友達からネタバレ食らいそうになるから困るよなー」

「ネタバレなぞさして怖くない。重要なのは構成やカメラワークなどであってだな、」

「でもでも推理物で犯人バレされると?」

「そやつには極刑が相応しい。視聴者の風上にも置けん奴だ」

「他にもたとえば恋愛もので主人公とヒロインが果たして結ばれるのか、をネタバレされると?」

「それは別に構わん。そも、白雪姫やシンデレラもそうだが、それらは物語が始まる前に終わってしまうではないか。結ばれてからが本番であるべきだろう」

「いやいやいや、イケメン俳優と女優のいちゃいちゃ見せられて何が楽しいんだよ」

「楽しくはないさ。ただ付き合うだの何だのはその二人にとって始まりに過ぎんと言いたかっただけだ」

「……なんか女子っぽい発想だな」

「性別的に言えば紛れもなく女子だが?」


 そんなこんなを経て出来上がったラーメンを早速啜る。豚骨ベースのスープに極細麺が絡み箸が止まらない。

 テラテラした脂の煌めき。これぞ豚骨と言わんばかりの濃厚さ。替え玉があれば三回くらいおかわりしたい。カップ麺は容器ほど量が多くないのが難点だな……。


 貪り食う俺とは対照的に、ノエルはおっかなびっくり食べ進めていた。艶やかな唇を尖らせてふうっと息を吹きかけ、ちゅるちゅると啜っている。可愛らしい食べ方だ。

 ラーメンと言えば、以前乙原と一緒にラーメンを食べに行ったことがあるのだが、その時彼女はわりと嫌そうな顔をしていた。「普通女子とラーメン屋に行く?」だって。は? ラーメン最強じゃん。パスタとほとんど変わらないのにこの扱い、ひどくね? とは言ってやったが、「匂い付くしカロリー高そうじゃん。スープ跳ねるし。あと机ギトギトしてるし」と返された。何も言い返せんかったわ……。

 俺は将来付き合うとすれば、ラーメン大好き女子が良いな! 一つのどんぶりを二人で分け合う、そんな素敵なカップルになりたい。塩ラーメンにニンニク入れる系女子、流行ってくれねえかなあ……。


 そんな有り得なさそうな未来に思いを馳せているうちに食べ終わったので、食休みもほどほどにして作業再開。俺食べた後は横になりたい派だからキツイ。

 今で何とか四割程度終わっている。上手くいけば明日までには終わるかもしれない。ゴールが見えると途端にやる気出てきたぜ! 


 かちかちとマウスが音を立てる。

 二人してパソコン操作をしているわけだから、当然かなりの回数のかちかち音が響く。作業をしているとさほど気にならない程度の音だが、ふとしたときに気になってくる。今この空間には自分一人じゃない、と檄を受けた気持ちにもなる。


 普段なら北大路や乙原の話し声に溢れた部室も、今はしんと静まり返っている。そこへクリック音だから、いつになくノエルとの距離が近くなっているような気分になった。

 ノエルがパソコンから目を外して、ゆっくりと肩を回した。


「……静かだ。懐かしい」

「ん? ……ああ、映研が始まったばっかのときはこんな感じだったよな」


 俺、ノエル、北大路の三人で創設した映画研究会。見切り発車に等しく、何のノウハウもなかった俺たちは毎日手探り状態で日々を過ごしていた。

 早く映画製作を始めたい。そう思ってはいたものの、なかなか進められずにいたもどかしい日々。あのときはこうしてノエルと二人でどうすべきか唸っていたものだ。


「それで乙原が入って一気に変わったよな。あと頼りになる野田くんも加わって、一気に撮影が捗るようになった」

「ああ。恐らく今の部員の誰か一人が欠けたとしても、映画製作は叶わんかったろうな」


 よく今の人間関係があるのは奇跡が積み重なった末――と誇らしげに語る人がいるが、俺も不思議とその声を支持したい気持ちだった。生まれるのが一年前後していれば、このメンバーが揃うことはなかったのだから。

 まず第一に、転生者が身近にいるだなんて全世界探してもそういないだろう。俺に至っては二人だし。いつかもっと増えたりして、ははは。


「……」


 ちょっと気を抜くとまた沈黙が続く。

 本来沈黙が生まれれば何とか打破しようとするのが心情だが、ノエル相手にそれは不要だと感じた。悪い意味じゃなくて彼女相手なら変に気負う必要はないと、本能的に感じ取っている。

 誰も近くにいなければ挫けてしまうかもしれない編集作業も、ノエルがいる安心感のおかげで捗る一方だ。


 精神的にはまだ余力があるとはいえ、肉体は少しずつ悲鳴を上げ始めていた。最初にノエルがくあ、と欠伸を噛み殺す様子を見せた。時計の短針は既に夜十一時を指そうとしていた。

 俺と違ってノエルはここ最近ずっと夜更かしが続いている。いくらやる気に満ち溢れていようとも、体力面ではそろそろ限界に迫っていてもおかしくないか。

 俺はくるっと椅子を回転させ半身になってノエルの方へと向き直る。


「そろそろ交代で休憩取ろうぜ。そだな、二時間置きくらいでいいんじゃないか?」

「ならまずはナオトから……」

「ジャン・ケン!」


 え? え? とノエルが戸惑っているうちに、俺は「ポン!」と言ってパーを出した。そして彼女はつい反射的にグーを出してしまう。

 ふ、唐突にジャンケンした場合、人間は咄嗟にグーを出す割合が高いらしいからな。想定通りだぜ!

 ノエルは自分の握り拳を恨めしそうに見ていたが、次に俺の顔を見やる。当然文句たらたらの表情をして。


「……卑怯者」

「悪い悪い。でほら、さっさと休め。そこに毛布あったろ?」


 幸いノエルの手助けがなくとも何とかなる程度にはペースを取り戻している。ここでさらに無理を重ねて二人共倒れ、というのが一番マズい。そして真っ先に倒れそうなのはノエルの方なのだから、多少強引にでも彼女の方を休ませないと。


 まあ、だから、そのためなら卑怯の誹りくらい甘んじて受け入れるさ。

 こんなときの俺の強情さをいい加減理解し始めたノエルは、渋々渋々といった様子で壁際のソファーに寝転がった。


「…………」


 それでもまだ彼女が眠りに落ちていないことが何となく分かる。残りが気になってなかなか眠れないのだろう。その気持ちは分かるが……。


「言っとくけど、ノエルが寝てから二時間だからな? 延々と起きてるとその分交代時間が伸びるぞ」

「そんな決まり、初めて聞いたぞ」

「社会では普通そうなんだよ。ほらほら、遠慮せずいびきをかけ! その方がタイム測りやすいし」


 実際女子のいびきってどうなんだろう? スースー可愛らしい感じなのかな? 女子のくしゃみは総じて「クシュッ」と控えめでいい感じだが。男だと「ブッシュン!」って感じだし、中には「ハッックショオオンてやんでえぇい!」と大げさなくしゃみをする者までいる。江戸っ子かよ。

 人間同士の暗黙の了解に詳しくないノエルにはこの手がよく効く。「そういうもの」と論じてしまえば黙らせることができる。褒められた手ではないし、俺もあまり好んで使いたくない手段だが、やむを得ない場面はどうしたってあるものだ。


 今回も何とか引き下がらせることに成功し、密かに安堵の息を吐く。こうなればノエルは意地でも早く寝ようとするだろう。それで眠れるかどうかは知らんけど。

 俺が再びパソコンと本腰向き合う直前、背後から声が届けられた。


「……頑張れ」


 静かに口にされた言葉は小さく、短く、けれど確かに俺の耳に届いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ