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07.転移転校生

 逸話北高校。

 普通科の進学校であり、勉学と部活両方に力を入れている。だからこそ、勉強もできない。部活も入っていない。そんなただの帰宅部であるドロップアウト組の肩身は狭い。

 中学の時までは神童と呼ばれていた俺だが、高校になってからはただの凡人になり果ててしまった。いや、凡人以下か。

「うわっ、す、すいません!」

「馬鹿、なにしてんだよ! 早く逃げろ!」

「す、すいませんでしたあ! こ、こえー」

「まじで怖いよな、あの人だろ? 噂の『剣聖』って……」

「…………」

 別に席の近くでたむろっていたからといって、殴ったりはしないって。

 とまあ、こういう感じで俺は勉強できないだけで不良扱いされている。

 家で一人。

 そして学校でも一人。

 どこにも俺の居場所はない。

 今までも、これからも。

「みんな、席についてー。今日は転校生の紹介をします」

 教室に入ってきた先生の一言で、ざわっ、とクラス中が色めき立つ。

「おい、本当かよ。これで転校生って三人目じゃないのか?」

「うわっ、だから一番後ろに席増えていたんだな」

 朝のホームルーム時間。

 既に教室の席は生徒で埋まっている。

 担任の先生は、ぱんぱんと手を叩く。

「はいはい。静かにー。本当は新学期と同時に転校する予定だったらしいが、引っ越し先が決まらなかったらしい」

「先生―、どうしてですかあ?」

「アメリカのネバタから来たらしい。引っ越し先が決まらなかったらしい」

「外人さん? その人って可愛いんですか!」

「馬鹿! まだ女って決まってないだろ」

 お調子者の生徒が質問してから、ざわざわと周りが憶測を言い出した。

 こういうみんなでワイワイする空気は疎外感が強調されるから大の苦手だ。

 だが、ノリのいい担任は逆に調子に乗ってしまう。

「女子だ! しかも、喜べ男子! 超絶美少女だぞ!」

 ドッ、と教室が湧く。

 主に男子からの歓声が凄い。

 よくもあ、こんなくだらないことで一々盛り上がれるもんだ。

 毎日お祭りでもやっているみたいで気分が悪い。

「あー、いい加減、疲れているだろうから、ほんとに静かにしろー、お前らー。それじゃあ、オリヴィアさんそろそろ入っていいよ」

 シン、と静寂になったのは担任の言葉を聴くためじゃない。

 みんな、予想していなかったはずだ。

 いくら担任が超絶美少女だといようが、お世辞。生徒が盛り上がるために大げさにいったものだと、半ば男子も思い込んでいたはず。

 だが、教室に入ってきたのは予想をはるかに超えた超絶美少女だった。

 人は想定外のことがあると固まるものだ。

「みなさん、初めまして。ネバタから来ましたオリヴィア・スローンと申します。どうぞよろしくお願いします」

 昨日散々練習に付き合わされたこともあって挨拶は完璧だ。

 まったく、本当に俺と同じ学校に来てしまうなんて。

 どうなっても知らないぞ。

 オリヴィアにしては珍しく俺に反抗して、ずっと一緒にいなければ主に危険が迫った時に守れない。昨日のオットセイみたいな不良に絡まれたら大変だとか言い出してきかなかった。最終的には剣で脅してきた。お前の傍にいる方が危険だろ! 

 学校に危険なんてないって言っているのに、そういう常識は通用しないんだよな。だが、俺もそこまで強くいえないのは、俺のせいでオリヴィアが風邪を引いてしまったからか。

 あれからスマホも買い与えたので、家でお留守番させて何か異常事態が起こっても対処はできるだろうが……。それでも、少しでもオリヴィアの願いは叶えさせてやりたい。止められないなら、せめて完璧にしあげるしかなかった。

 だが、やりすぎたか?

 笑顔が眩しすぎる。

 立ち振る舞いは宮廷騎士そのもの。

 たかだか十そこらしか生きておらず、適当で怠惰な生活しかしていない日本の高校生とは何もが違う。雰囲気からして違う。

 みんな息を呑んでいる。

 見た目や名前からして日本人はありえない。細かな設定は昨日話し合って二人で決めたのだ。指輪の力があるとはいえ、多用するのはあまりに危険すぎる。正体がバレるのは非常にまずいはずだ。

「えっ、可愛くない?」

「可愛いいいい。お姫様みたいっ!」

「やばっ……」

 良かった。

 男子からでなく同性からも賞賛を受けている。

 さっきまでと明らかに空気が変わっているせいで、オリヴィアは戸惑っているが安心していい。

 静かではあるが、教室のみんなは歓迎してくれているのだ。

「それじゃあ、一番後ろの席空いているから座って」

「はい、分かりました」

 担任教師の指示でオリヴィアが俺のところに近づいてくる。

 そう、オリヴィアの席は最後尾である俺の隣だった。

「初めまして。よろしくお願いします」

「……おう、よろしく」

 俺達は他人同士という設定でいくことにした。素っ気なく返して俺はすぐに正面に顔を戻す。自然と笑みがこぼれるのを、肘をついた手で隠す。つまらないだけの学校生活が、オリヴィアのおかげで少しだけ楽しくなりそうだった。


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