21.決着の時
「剣聖様、やりましたね! 大丈夫ですか?」
オリヴィアが肩を動かすせいで、首がカクカクなる。
「……ああ、なんとかな……」
さっきまで意識を失っていた。倒れている人間の身体を動かすのは危険だってこと、知っているのかこいつは。こっちはかなりの重症だっていうのに。だけど、良かった。インフィアももうしばらくはこれで動けないだろう。
「一瞬気絶していたよ。ほんとうに凄いな、お前は」
ゾクッ、と背筋が凍る。
インフィアは突き刺さっていた剣を抜き放つと、何事もなかったかのように起き上がる。いつの間にやらオリヴィアによって膝枕されていた俺は立ち上がろうとするが、それすら満足にできないほど疲弊しきっている。
「インフィア! お前、まだ――」
「慌てるな。もう戦意はない。私は負けたんだ、お前達に。これ以上戦って恥の上塗りは御免だ……」
ドクドクと血を流しているインフィアが、慣れた手つきで服を破ると止血する。
その一連の動作にはあまりにも淀みがなく、違和感しかなかった。
「お前、本当に俺と本気で戦っていたのか?」
「本気さ。私なりにな。だからこそ、これだけは言っておきたい。お前は『スキル』をいずれ手に入れるべき人間だよ。本気で戦ったからこそ、そう思う。それだけが本当に惜しい」
「『スキル』って、お前らみたいな超能力みたいなものだろ? そんなもの後天的に身に着けられるものなのか?」
「可能だよ。私達の世界へ足を踏み入れたのなら、違う世界の住人であろうが身に着けることができる」
「いやいや、絶対に行かないから! 異世界転移とか俺は絶対にしないから」
「……そうか。私達の世界へ転移したくなったらこの私に言え。すぐに連れて行ってやるから」
インフィアは踵を返す。
「帰り道は『色欲』のスキルを常時発動させてやろう。そうじゃないと、その傷で校内を歩いていたら警察や救急車を呼ばれて大事になるかもしれないからな」
インフィアが立ち去ろうと、膝に力を入れる。
「姉様!」
「オリヴィア……。最早お前と交わす言葉は持ち合わせていない」
「姉様………………」
ショックで口を開かなくなったオリヴィアだったが、インフィアはまだ去らない。まだ言うべきことが残っているかのように。
「……オリヴィア、強くなったな」
こちらを振り返りもせずに、独り言のように呟く。
「えっ?」
「強くなければ己の居場所を守ることすらできない。だから人は強くなくちゃいけないんだ」
「姉様、もしかして、そのためにずっと私を強くしようとして? 本当は姉様は私のことを大事に思ってくれていたの?」
「さあな」
一度も顔を合わせないのは、出来の悪い妹が嫌いなのか。それとも、顔を合わせるのが恥ずかしくてそっぽを向いているのか。それは、インフィアにしか分からない。
「さらばだ、黒木剣聖。私の妹のことを頼む。お前ならば、任せられる」
そういうと、パッとその場から消える。
あまりにも速く、まるで瞬間移動までしたその動きは俊敏で、俺はというとまともに立ち上がることさえできない。やっぱり、それなりに手加減されていたのではないのか。
あんなに余力を残していて本気も何もなかったんじゃないのか。
もしもそうなら、悔しいな。
強くなることをむしろ俺は避けていた。強くなることで俺は自分の居場所を失ったのだから。だけど、今は俺の強さに引かない奴がいる。自分の弱さと向き合って俺の強さを目の当たりにしても卑屈にならない奴がいる。そいつを守るためには、もっと強くならないといけないらしい。
力が欲しい。
どんな方法を使っても、俺はもっと強くなりたい。
「うっ……」
「肩、貸しますよ」
「悪いな」
二人して歩き出すが、本当に誰もいない。学校の敷地内はおろか、町には一人もいない。無人の廃村のような音のなさだった。
「あの、」
「どうした? オリヴィア」
「今から、剣聖様を、家まで運びますよね?」
「ああ」
「それで……私はまたご厄介になっていいんでしょうか?」
「――あ」
そうか。さっきからもじもじしていると思ったら、そんなこと悩んでいたのか。
「いいよ、別に」
「でも、また、ご迷惑になるかもしれないのに……」
「いいよ、別に。誰かと関わるってことは迷惑をかけることと同義だ。……そんなこといちいち気にしないでいられるなら、それでいいんだ」
「そ、そうですよね! 一緒にいてもいいんですよね! だって私は、剣聖様にとって居場所なんですから!」
黒歴史を掘り起こされ、唾を噴き出す。
「ぶっ!」
「ああ、かっこよかったなあ! 剣聖様! 私のこと、そんな風に思ってくれたなんて! もう、私達家族同然ですね! 嬉しいなあ!」
眼を爛々と輝かせているが、勘違いもいいところだ。
「ふざけんな! あれはなあ、あくまでインフィアを欺くための演技だよ! 注意を引ければ何でもよかったんだ!」
「はいはい、分かっていますよ! 剣聖様は口ではそうやっていいますけど、本心は違うんですよね! 本当はいい人だってこと、私はちゃーんと分かってますから!」
「もういいから、お前はさっさと故郷に帰れえええええええええ!」




