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11.落ち着ける場所

 学校が終わってから放課後。

 好奇の目に晒され続けた。

 知らない奴に矢継ぎ早に話しかけられることが、こんなに辟易するとは思わなかった。みんなの――特に愛音の追求からも適当に流して、今はカラオケのバイトに勤しんでいた。

 普段は学校終わりのバイトに疲れるだけなのだが、今日は張り切っていた。

「もう上がっていいよ、後輩。あとはこの仕事大好きなあたしが、ぜーんぶやっておくから!」

「いえ、大丈夫ですよ! まだやります! 万智先輩!」

 うちのカラオケでは、高校生は九時までと決まっているからもう少しで勤怠処理をしないといけないのだが、それでもまだいたい。ギリギリまでここに居残りたいのだ。もう仕事が見つからないから、カウンターをピカピカにやろう。

「どうしたんだい、後輩? さっきから別に今日急いでやらなくていい仕事までやっちゃって。……まるで、わざと残業して家に帰りたくないみたいじゃないか!」

「うっ……」

「まあ、あたしは後輩と一緒にいれるんだったらどんな理由でもいいけどね!」

「…………先輩」

 話をはぐらかしてくれた。愛音やオリヴィアならばもっと追求してきただろう。ぐいぐい迫ってくるとこっちは疲れる。だけど、これが年の功とかいうやつだろうか。北風と太陽なのだろうか。やっぱりここにいると、万智先輩といると疲れない。落ち着いて、癒されていく。

「ちょっとトラブってしまって、家に帰りたくないんですよ」

「家に誰かいるの? 遊びに来ているとか」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……。あの、その、あの……」

 万智先輩はフッと笑う。

「言いにくいことなら言わなくていいんだよん! 後輩!」

「すいません」

「いいんだよ。誰だってそうだから。でも、言いたくなったら言っていいんだよ。でもね、これだけは忘れないでほしい。私はどんなことがあっても後輩の味方なんだよ。だから、いつだって頼っていいんだぜ! あたし、水沢万智は全力で力になるよ!」

「………………」

 包み込まれる様な優しさはもはや母性すら感じる。

「……ただ、落ち着くんですよね、ここ。学校のこととか、家のことか忘れられるから。だからバイトなのにずっと長居したいと思っちゃうんです」

「あはは。だったら休みの日もお客さんとしてもっと来てもいいよ。カラオケってさ、大声出せるのがいいと思うんだ! 普段は出さないような大声出すとスッキリするもんだ! 私もね、ヒトカラに来て、歌も歌わず『このヤロー』って叫んじゃう時があるんだよ! でもそうするとイライラがどこに吹っ飛ぶんだ! だから、カラオケはオススメだぜ!」

「……はい」

 カラオケが、このバイトが、本当に好きなのが伝わってくる。

 嫌々仕事をする上司よりも、こういう本当に好きで仕事をやっている人がいるとやる気になってくる。

 自分のやりたいことがやれれば、自分の居場所ができる。

 幸福そうだから自然と笑え、そして人が集まってくる。

 昔は俺もそうだった。

 やりたいことをやれて、自分の居場所があったのだ。

 だからこそ、今この場所を壊したくない。

「お疲れ様です」

 時間もきてしまったので、帰らなければならなくなった。片づけやら着替えやら終えると、俺はバイト先を後にする。万智先輩がブンブンとおつかれさまーと返してくれる姿がかわいすぎて笑ってしまった。

「ん?」

 すれ違いざまに、お客さんが入店する。いらっしゃいませーと職業病でいいそうになって口を噤む。今は制服を着ていない。店員ではないのだ。

 そそくさと脇にどきながら、チラリと女性客を見る。

 大人っぽい精緻な顔立ちをしていてモデルのように八頭身。

 綺麗だが、綺麗過ぎて怖い美人。

 怜悧な眉を顰めながら、俺のことを一瞥すると突進するようにカウンターへと向かっていく。

 髪の色が銀色だった。

 オリヴィアとは対照的な色で、逸話北の制服を着ていた。あんな生徒いたか? まあ、いいか。今はただ家に帰って逃げずに現実と向き合おう。


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