00.墜落系ヒロイン
空から女の子が降ってきた。
一糸まとわぬ姿で墜落してきた女の子を、俺は避けることができなかった。
「ぐえっ!」
潰された蛙のように舌を出す。
お、重い……。
「なんだ、こいつ、この痴女は? どこから?」
空を仰ぐが、飛び降り自殺できる建物なんてない。
飛行機からダイブしたなら、もっと勢いがついていたはず。
俺は平気な面して喋れるはずがない。
骨の一つや二つ折っていてもおかしくない。なのに、俺はかすり傷しか負っていない。それに、見間違いかもしれないが――
「こいつ、いきなり空中から現れなかったか?」
ピカアアッ! と俺の頭上には、夜中走行中の車のライト並みの光が現れた。
周りには人がいないほどの早朝で、太陽は上がりきっていないというのにだ。
そして、その瞳が潰れそうなぐらいの光の中から女の子がでてきた。
そんな風に見えたのだ。
「…………ドッキリ、か?」
テレビで最近ドッキリ系が流行っている。
石ころがいきなり人間のように流暢に話しかけたら人間はどんな反応するか? みたいな人間観察のバラエティだ。
まさか、その標的に俺はされたのか?
いやいや、ありえない。
公共の電波で全裸の女を出すとか、昭和ですら無理だ。素人が動画投稿サイトにアップロードするのですら無理だ。捕まるだろ。
つまり、これはドッキリじゃない、現実。
夢かなにかと思いたい。
明らかに普通じゃないのはこの状況だけじゃなく、飛来少女もだ。
染めていない、天然な金髪ロング。
透き通るような肌の白さと、モデルばりの等身。燦々と輝く太陽よりも輝く美貌。全てにおいて日本人じゃないことを物語っている。
異常事態。
ここでどんな行動を取るかで人間の本質は測れる。
「――逃げよう」
どうやら俺は巻き込まれたらしい。
トラブル体質というか、俺の周りはいつもこういう面倒事が頻発する。
全裸の女が降ってくるなんて経験は流石になかったが、ここに立ち尽くしていても事態が悪化するだけだ。
中学の部活の時の癖で、早朝ランニングになんてやらなければよかった。
良く見れば、少女というよりかは女性。
十七、十八ぐらいだろうか。
多分、俺よりも年上か同い年ぐらいか。
家出か、それとも夜のお仕事の帰りか。どちらにしても、俺ができることなんて何もない。幸い気絶しているようだし、今なら日常に帰れる。平和万歳!
「んんっ!」
「うわあ!」
金髪ロング少女に足をつかまれた。
起きていない。
どうやら無意識化で俺の足首を捕縛したらしい。
「や、めろ――」
しかも、力が強い。
ふん、ふん、と進もうとするが、引き摺ってしまう。
下手したら俺よりも力が強い。直接指を引き剥がそうとすると、ぱちくり。
「うえっ!」
目蓋が開いてしまった。
起きてしまったのだ。
「やあ、大丈夫?」
「――――――」
何とか繕うが、何やら外人さんが日本語以外の言語で話し出した。勉強が苦手な俺でさえ、英語でないことは分かった。フランス語かな、これ?
「えっ?」
ピタッ、と両手を頬に当てられる。
まるで風邪を引いているかどうか熱を測られているようだ。
美女にいきなり触られて動揺しないわけがない。風邪でもないのに、頬が急激に熱を帯びてきた。
「すいません、どうやら気絶しているところを助けてもらったみたいですね」
「は、はあああ?」
女の口から飛び出したのは日本語。しかも訛りのない流暢な日本語だった。外国人じゃなく、生まれてからずっとこの日本にいたような綺麗な滑舌だった。
「私の名前はオリヴィア。怠惰なる剣。――どうぞこれからよろしくお願いしますね、我が主様」