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ヒロイン転生記  作者: まろのかば
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3,そして彼らが使う力は

説明会です

ルミナとグランが出会ったのは第三王女の生誕パーティーだった。社交デビューも程遠い年頃でありながら、主役の王女と年が近いとのことで王城のパーティーに招待されてしまったのだ。お互いに暇を持て余していた二人は、主役である第三王女、ミシェルを巻き込み、交流を図り、そして幸か不幸か意気投合してしまった。


後に鬼才三人組(ひき)と称される仲良しグループは、長期のお泊まりも頻繁に行い、その結果が前回のシャイラ家で起こった二人の遊びという名の災害だ。


あの後、娘を溺愛する父親(とうしゅ)が呼び出した専門家が二人を宝物庫に案内し、質問攻めにされ、プライドを純粋(きょだい)疑問(どんき)で崩壊させられ泣いて帰ることになった。


例えば、

「先生、この杖って…。」

「ああ、それは古代文明の利器、少量の魔力を流すだけで特定の魔法が発動するという…」

「それは知ってるよ。この彫刻の中心に、発動させる魔法の魔法陣を簡略化したものが刻まれてある。そしてその周りの模様が謂わば魔力膨張の魔法陣。これが少量の魔力の密度を下げ、量を増やして、必要分の魔力を補っている。」

「ええ、その通りです。流石はシャイラ家の…」

「ルミナが聞こうとしたのはここだよね?」

「そう!この杖の魔法陣はこの部分だけでいいはずなのに、ここに変な補足が入ってるんだ!この線が無かったらどうなるのかな?」

「そ、それはただの柄かと…」

「違いますよ?こことここに近代の魔法陣の特徴が見られるんです。ただの柄でこんなことはあり得ない。恐らく近代魔法の原点に関わるものかと思うのですけど。先生はどう思われますか?」

「え……」

「先に私の質問!近代魔法の原点なら、つまり劣化版ってことだよね?じゃあ現代で必要ないとされるこの線は、当時の研究では不必要だとまだわかっていなかったのか…、それとも非効率的だとしても何か理由があってつけたのか…。先生はこの線消したら何が起こると思う?」

「……、勉強し直してきます!」

などと幼児らしからぬ知識を悪気なくひけらかせて、古代魔法道具の第一人者を学び舎に無意識に叩き返したのだ。


無邪気故の残酷さとはこのことだろう。

他にも、年少時代にありがちな傾向として、教師を全能の神か何かと勘違いし、その専門範囲以外の事を執拗に問いただしたり、手加減を知らぬ幼さをもってして、老齢の前騎士団部隊長の急所ーー人体の授業で教師から聞き出したーーを狙って腰を抜けさせたりと、枚挙に暇がない。


加えて、二人のリミッター役とされていた鬼才三人組(ひき)の最後の1(ぴき)である第三王女、ミシェルも、最初は大人しく微笑んでいたものの、二人の剣幕にテンションが上がったのか、いつしか二人に負けずとも劣らない知識欲を発揮していた。


流石にこれはダメだと、多数の犠牲者(せんもんか)を哀れんだ国王が、三人を城の忍耐強い教育者に押し付け(あずけ)て、基礎の基礎を教えるように命令(おねがい)した。


曰く、

「貴族社会で必要な『どんなにつまらなくてもポーカーフェイスで話を聞く術』を学ばせるため。」

とのこと。


言うまでもなくこじつけである。


真実は、

「これ以上、国の知識人を減らすわけにはいかない。」

である。


なお、三人に叩き返された教育者たちは、皆充実した学生(せいしゅん)生活(ライフ)を送っているそうだ。楽しそうで何より。





そして現在、三人は国王主催『王城泊まり込み合宿(既習)』に参加させられていた。


「では、今から3時間は(わたくし)が魔法についての講義をさせていただきます。」


初老とは思えないほどはきはきとした女史は、しっかりと髪をひっつめてかっちりとワックスで固めた頭を光らせ、尖った眼鏡を押し上げる。その手に振るう予定のない鞭(教棒)が握られているのはいつものことだ。


三人の噛み締められた欠伸に気付きながらも、心が折れないのは、偏に、問題児だらけの王族を相手にしてきた経験故だろう。


「ではまず、魔法の基本、属性についてです。では、ルミナ様。基本属性についての説明を。」

「うん…」

「“はい”です!教師は目上の人です。目上の人には敬語を使いなさい。」

「はい。ごめんなさい。」

「“申し訳ありません”です!」


このように、目に余る態度を強制することも忘れない。同じような問答を続け、合格点のもらえたルミナは漸く答える事を許された。


「基本属性とは、無属性や特殊な例を除く、最も大まかな魔力の分類のこと。火水風土雷光闇の7つに分けられ、この世界の90%以上の生物はこの中のいずれかの属性を持って生まれる。なお、我々人族の魔力発現は5歳前後と言われ、この国では6歳に魔力測定を義務付けられている。

基本属性をもっと細分化したものは派生属性と呼ばれ、火が強化された蒼炎、水が強化された氷雪、風が強化された暴風、土が強化された地、雷が強化された電気、光が強化された聖、闇が強化された邪などがメジャー。珍しいものでは、闇と水の水よりの間に毒、土と水と風の土よりの間に植物などがある。

特別な例とは、召喚された勇者が稀に持つ創造や破壊といった、基本属性に属さないものである。

概念として属性は、フィルターのようなものであり、それを通すことによって体内に魔力に属性が付与される。これらは生まれつき備わっているもので、増えることは無いわけではないではないが、その事例は千年に一度あるかないかという低確率であるため、一般論として不可能と言われている。」


長々とした台詞を言い終えたルミナは少し誇らしげだ。まあ、相手は鉄壁の女史。


「蛇足が多かったけれど、まあ良しとしましょう。」


無駄なことはどんなに凄かろうと無駄。そのスタイルを崩すことなくあっさりとやり過ごす。普通の五歳なら泣いているだろう。普通でないこの少女は、いつか驚かせてやると意気込むだけであったが。


「では魔法の難易度について。ミシェル様、どうぞ。」


「はい。

我が国の規定では、魔法は下から大まかに、下級、中級、上級、最上級、に分けられ、それぞれに下位、中位、上位が存在します。最も基本とされるボール系の魔法は下級下位に分類されます。しかし、それらは国の公式書に記されているもののみに当てはまり、あまりに強力であったり犯罪に使われ易いものは、開発されても世に出る前に隠蔽され、公式の書として出回ることはありません。それらは禁忌級や神級と呼ばれ、下から災害位、災厄位、天災位が存在します。そしてその概要は城の地下禁書庫にある本にしか描写されていません。国王と国王に許された者のみが禁書庫の蔵書を閲覧できます。

また、ユーリトス国民は一部の特別な地位の者を除き、新しい魔法を創作すれば、国の研究所に届け出なければならない義務があります。届け出れば、報酬が与えられることがありますが、それなしに公衆の面前で使うと、その魔法相応の罰金がかけられます。これは魔法発展への貢献と、その魔法の難易度決定のためとされていますが、不用意に強力なものが出回らないように管理するというのが一番の目的です。」


全部言えた、と胸に手を当て安心しているミシェル。その姿は可愛らしく庇護欲を唆るが、彼女にも女史の叱責は飛んだ。


「完璧です、と言いたいところですが、第一級国家機密情報を混ぜるのはおやめください。禁書庫の件は特に、です!」


やはり、彼女も鬼才三人組の一人であった。因みに、この禁書庫、既に三人の侵入を許している。魔法だけでなく、秘された知識や歴史は彼らに暴かれ、小さな柔らかい頭にしかと詰め込まれた。その知識欲はどこまでも底が見えないのである。


流石の女史も今のは驚いた様だったが、軽く咳払いで居住まいを正し、何事もなかったかのように、授業を再開させた。


「魔法の発動方法は2種類存在します。1つは詠唱、もう1つは魔法陣です。ではグラン様、これらの特徴は?」


「はい。

まず、詠唱は発動する魔法を明確にイメージして、それに沿って感覚的に魔力を操り、魔法を発動する方法です。戦闘など、即座に臨機応変に動かなければならないときに使われます。はっきりとしたイメージとそれを実行する意思の強さによって魔法の作りが左右され、それらが無いのに無理矢理発動しようとすると、いい時には魔力漏れ、悪い時には暴発して、完全に術者の制御下から外れた魔法、謂わば自然現象として術者の魔力が枯渇するまで発動し続けます。

一方、魔法陣は魔法の組成を模様で表し、それに魔力を通すことによって魔法を発動します。これは、陣が型にはめるように魔力を整形してくれるので、イメージなども必要ありません。組成式を、一瞬魔力を留め放出する特殊な性質を持つ染料や金属で描いたものが魔法陣です。発動継続時間は込められた魔力を消費し尽くすまでで、その強さは魔力の質によってのみ左右されます。家庭用の魔法道具や、護身用の装飾品などに使用されており、この場合は魔石をバッテリーとして陣に組み込み、魔力を流さずとも発動出来るようになっています。発動中に陣が欠けると込めた魔力が空気中に拡散してしまい、発動が中断されてしまうため、魔鉱物内に転写するか保護器に入れられ、使用されることが多いです。」


紅一点ならぬ黒一点であるグランも例に漏れず、長々とした回答を終え、そしてとても男子とは思えない可憐な微笑みを女史に向けた。思わず赤面してしまった彼女は悪くないだろう。これはーーある程度ーー大人しいグランなりの「褒めて褒めて!」であるが、その美しさ故に、誰もが見惚れてしまい、未だにその主張に気づけた大人はいない。


女史もまた然り。


「か、完璧です。三人目にしてやっとまともな回答が聴けました。」


自身の焦りを隠すのに必死で、彼の主張に気づくことはなかった。


グランのささやかな自信が、今日も今日とて崩れていく。筆頭上流貴族であり、王家の流れを汲むことを如実に表す金の瞳は、今日も残念そうに陰るのだった。




その後、受け身であることに飽きた三人が、意図的に回答や質問によって授業内容を誘導し、最終的に、子供達だけの討論が始まってしまい、流石の女史も半泣きで国王に直訴したため、『王城泊まり込み合宿(既習)』はこの一度だけで、二度と行われることはなかった。


なお、『王城泊まり込み礼儀作法合宿(既習)』や『王城泊まり込み騎士団訪問合宿(実戦)』、『脱出!離宮の秘密を解き明かせ!!(幽閉)』など、形を変えて様々な隔離作戦(もよおしもの)が開かれたが、その殆どは1日で修了したとか、一番長く持ったのが『秘密の離宮で自由研究(むさべつじっけん)』であったとかは余談である。

ユーリトス語を日本語に翻訳しているイメージですので、実際にこの世界にカタカナ語が普及しているわけではありませんと、言い訳をさせてください。


私の語彙力ではカタカナ語を全て日本語に変換するのは不可能でした。

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