俺は強くならなきゃ……
遅くなって申し訳ない。
この世界の言語は日本語だった。普通に過ごす分には何の不便もないということが分かったから一安心なのだが……
魔法を使うには魔法語というのを覚えなければならないらしい。女神は俺の意識が途切れる寸前に
「3年後にこの世界に降臨する。」
となぜかすっぱい顔で言っていたからそれまでに俺は強くならなければならない。
たとえ女神であろうが俺を殺したあいつにどうにかして一矢報いるために。
殺されたからといって殺してやる、とまでは思わないが死んだ瞬間のあの痛みの分くらいは仕返ししたいと思う。
そしてついにこの時間がきた。食事の時間だ。
母親のリサはかなりの美人だと思う。漫画やアニメでしか見たことのないエルフという長い耳をもつ種族で魔法能力に優れるイメージ。エルフは総じて美しい容姿をもつらしいが母親のリサは中でも美しいと思う。他のエルフは見たことないけどね……
乳児に授乳してあげるのは母親として当然の行為なのだが俺の中身は16の青年だ。興奮する、ということはないのだがすごく悪いことをしようとしている気分になる。
お腹が減ったせいで体が勝手に泣いてしまったから授乳は避けようがない。あぁ神よ、卑しい俺をお許しくだ……神ってあいつじゃん?女神じゃん?許しは請わない。ごめん母さん、中身が16歳で……でもいただきます。
なんとか食事を終えることが出来たがあれが毎日続くと考えただけで嬉しいような恥ずかしいような……考えるのはよそう。
父さんは仕事で夜に帰ってくるらしい。初めて見たときの印象が「強そう」だったから恐らく戦闘職だろう。
一眠りし、気が付いたら日が暮れていた。父さんが何か大きい物を抱えている。
「今日はレクの森に3頭いた。最近増えているな。嫌な予感がする。」
「そうね。せっかくこの子が産まれたのに……今のところは大量に増えることを抑えられているのよね?」
一体何のことだろう?
「ああ、なんとかな。だが今日も仲間が2人死んでしまった。俺は狩団の中で一番強いのにラルとスルシーを守れなかった……くそっ!」
「あなたはいつも頑張ってるわ。あなたによって救われた人だってたくさんいるでしょ?失った人たちばかりを考えたら駄目よ。この子に前に進む格好いい姿見せてあげないとね?」
「リサは強いな……俺も見習わないと。」
どうやら外は大変なことになってるらしい。一体何が増えているんだ?良くない物なのは確かなんだろうけど。何も出来ないこの体が今は妬ましい。
「これは土産だ。鹿が瘴気に当てられて凶暴化したものだ。売れば角とか高く買い取ってくれるぞ。」
「ええ、ありがと。倉庫に運んどいて。後で私がばらすから。先にこの子にご飯あげないと……」
そう言うとリサは胸元の布を下にずらし授乳しようとするのであった。
俺は母さんの恵みを受けながら強くなる理由がまた増えたなと思い、強くなる決意をさらに強めたのであった。
乳児期もう少し続きます。長さにだいぶ違いありますがこれから先もこんな感じです。