プロローグ3
それからどれだけの時間が経過したのかは定かではない。
数秒かもしれないし、数分だったかもしれない。
確かなのは、目の前の高校生が教えてもいない俺の名を呼び、今なお、俺ににこにこと笑顔を向けていること。そして状況を飲み込めず、返事すら出来ないままに、自分が固まってしまったこと。
「……な、んで」
詰めていた息を吐き出すように、ようやくそう口に出来たのは、固まったまま返事もしない俺に、少年が小さく首を傾げたからだった。
なぜ、俺の名を知っているのか。
なぜ、俺を待っていたなどと言ったのか。
聞きたいことは沢山あるはずなのに、言葉にはならず、陸に打ち上げられた魚のように口を開いては閉じるを繰り返す。
「じゃあ、スカイブリッジって」
「ネットじゃ都市伝説だなんて言われてますけどね。あなたがここにいることが答えになりませんか?」
存在する、そう肯定されたことで、一気に体の力が抜けた。
この際俺の名前をどこで知ったかなんてどうでもいい。
インターネットの掲示板、それも一部の、オカルト板で話題となるその店の名は、スカイブリッジ。
心霊現象専門の探偵社である。
「改めまして、喫茶店兼心霊探偵事務所、スカイブリッジへようこそ。オーナーの若尾明夜といいます」
「……透也。近藤透也だ」
「トーヤさんですね」
若尾少年は俺の答えに頷くと、ニコリと笑った。
「ご依頼は?」
「……人探し、だな」
元々、藁にもすがる思いで訪れたのだ。
相手が高校生だろうがボケかけたジジイだろうが、ダメでもともと、賭けてやろうじゃないか。
俺を悩ませる「事件」を解決できる可能性が1パーセントでもあるのなら。