プロローグ1
駅から続くなだらかな坂道を延々と登った先にあるのが、俺の目指す入汐町である。
電車を降りた時には身震いする程の気温だったはずだが、ひたすらに坂道を登り続けてきたからか、額にはじんわりと汗が浮いていた。
手で額に浮かんだ汗を拭いつつ、登ってきたばかりの道を振り返る。
曲線を描く坂の先に、海を望む。駅前には商店がちらほらと建ち並んでいたが、ここまで来ると周りにあるのは住宅ばかりだ。
海路を往く船の汽笛が、遠く響いていた。
「……っとに、あるんだろうなぁ」
誰にともなくボヤくようにそう呟いて、ポケットに入れていたものを取り出す。
A4のコピー用紙を四つ折りにしたそれを開くと、パソコンのメールソフトが印字されている。
メールボックスの受け取りは俺のアドレス。送り主のアドレスも書かれてはいるが、見慣れないドメインからして使い捨てのアドレスだろう。
本文には地図と、とある店の名前。
ネット上、それもごく一部の掲示板で密かに話題となっている店だった。
もはや都市伝説レベルの、存在の有無すら怪しい店ではあるが、俺にとっては最後の頼みの綱と言っても過言ではない。
地図を再度確認し、辿ってきた道が間違いでないことを確かめてから、紙をたたみ、再びポケットへと押し込んだ。
地図の上では、目的の店はすぐそこのはずである。