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壊れた僕は悪魔と契約をする  作者: 庭城優静
9/11

壊れた名探偵は静かに悟る

 「どういうことなんだ?」

 僕は独り言の様なトーンでアリアに質問を投げかける。

 刑事はあの後、何か分かったら連絡を入れると言い残し、去っていった。その後、すぐに自室に戻り今に至る。

 「どういうこと。と言うと?」

 アリアは窓際に背中を預けて切り返す。

 「西之江真里亜の事に決まっているだろう、昨日の事件より前に行方不明だと刑事は言っていた。なら、彼女は誰なんだ?写真は全てモザイクかかっている。僕にはアリアと西之江真里亜しか認識できない眼になっているんだ。可笑しすぎる・・・これも『壊れている』って事なのか。」

 「荒々しいわね、何故私に聞くの?それを調べるのも貴方の願いの範囲だと私は感じているけど?」


 確かにその通りである。彼女の言う通りである。

 「・・・すまない、取り乱した。流石に西之江真里亜だと思っていた人物がそうではないという事実が受け入れられなかったんだ。取りとめのない不安をぶつけてしまう相手がアリアしかいなかったんだ・・・。」

 「私は構わないわ、あくまで貴方の願いを叶える為のお助け役に徹する契約だしね。さあ、どうするの?貴方が西之江真里亜だと思っていた女性の家に行くの?本来の予定通りに」

 「・・・ああ、行こう。ここで考えていてもまとまる訳が無い。昼過ぎになったら出発だ。」


 それにしてもわからない。彼女が西之江真里亜でないのは置いといて、昨日は7人で例の廃ビルに入った。そして行方不明者は6人、通報は5件。誰か1人の親は警察に連絡していない、では何故警察は6枚の写真を提示した?詳しく刑事に聞くべきだったと思うが、顔はモザイク、名前も耳に入ってこない状態では馬に念仏である。

 まずは西之江家に行こう。何か分かるはずだ。そうであってほしいと切に願うばかりだった。


 昼過ぎ、お腹は減っていない。暫く横になっていたい。アリアがいるから大丈夫と母親を説得し、何かあったら連絡してと言い,母親は出かけていった。


 母親が家を出て30分が過ぎた。

 「よし、向かおうか。」帽子を深めに被り家を出る。


 歩く事数十分、目的地に到着した。西之江真里亜の家である。学校の通り道から一歩外れた道沿いに建っているので覚えていたのだろう。迷うことなく来ることが出来た。

 「どうやって家に入る?」アリアが尋ねる。

 僕は迷うことなく家のドアに手をかける。鍵はかかっていないようだすんなりと開いた。

 「あら、強引」

 「家の人がいるはずだ、すぐに眠らせられるか?2時間くらいでいい。」

 「はいはい」アリアはそう言って来客用と思われるスリッパを履き家の中を躊躇なく進んでいく。


 時間にして約1分経った所でアリアが玄関に姿を出す。

 「もういいわよ、全員リビングで仮眠してもらってるから」

 「助かる、じゃあ、真里亜の部屋に行こう。」

 僕もスリッパを履き家の中を自分の家の様に歩いていく。


 二階の一部屋に『マリア』とプレートが掛けてある部屋を見つけた。

 「・・・鍵がかかっているな。アリア。」

 アリアは眼を瞑り、指を鳴らす。すると、「カチャ」と鍵が開錠される音が聞こえた。便利な力だ。

 

 ゆっくりとドアを開く。そういえば女性の部屋に入るのは初めての気がする。

 中は至って普通の女性の部屋だった。勉強机にベッド、本棚にクローゼットと僕の部屋と大体同じ具合だ。

 まずは本棚から調べることにしよう。本は漫画よりもSFの小説やオカルト関係の本が大半を占めていた。ここは普通の女性と違う点だろう。それよりも僕が求めているのは・・・あった。中学の卒業アルバム。

 「アルバムに西之江の写真が載っている筈だ、その顔が僕の知っている顔なら、やはり僕は彼女に誘われてあそこに向かった事が決定的にある。」


 ・・・3年4組。西之江真里亜の顔写真を見つけた。

 「どうなの?」アリアはベッドに腰を落ち着かせ、「西洋の神秘」を読んでいた。

 「やっぱり彼女が西之江真里亜だ・・・。若干の違いはあるけど間違いない。」

 アルバムに写っている西之江は幼い容姿だが、そんなガラッと変わるものでもない。

 これで確信と疑問が浮かび上がった。矛盾である。

 

 昨日、僕達を廃ビルに連れて行ったのは西之江真里亜だ。しかし、彼女はそれより以前に行方不明となっている。

 では、刑事が見せた6枚のモザイクかかってしまっている写真はどう説明すればいい。行った人数は7人。うち1人は僕だから残り6人。警察に電話をかけた親は5件。辻褄が合わない。

 「悩んでいる様ね、もう少し物色したら?手掛かりはまだ手に入っていないんだから考えをまとめるのはその後で良いと思うけど?」

 「そうだな、ありがとう。」

 そうだ、まだ手掛かりを見つけてはいないんだ。あくまで僕が西之江真里亜だと思っていた女性は彼女で間違いない、という傍から聞いたら当たり前の事だけなんだ。


 部屋をその後も物色し続け、残るは机のみとなった。一番期待が持てる場所だが、果たして期待できるのか。

 一つずつ、ゆっくりと引き出しを開けていく。

 1番大きな引き出しで手が止まる。鍵がかかっているのだ。

 「・・・アリア。」

 またアリアは指を鳴らす。音と同時に右手がスルスルと動いていた。・・・そこには大きな缶の箱が入っていた。恐る恐る机の上に置く。

 一つ深呼吸をし、蓋を開ける。そこには授業で使うようなA4ノートが5冊ほど入っていた。このノートには見覚えがある。ページを捲る。

 「やっぱり・・・この字体。あの一室に置かれていたノートと同じだ。中身は・・・。」


 ページを捲る。捲ってしまった、瞬時に後悔をする。

 後悔と言っても、決して期待していた内容と違っていたというわけではない。ただ、他人の心の中を覗いている様な感覚が酷く神経に突き刺さる。

 「どうしたの?お目当ての物は見つからなかったの?」

 「いや、まだしっかりと眼を通していないが、他人の心を見るという行為は良くないと感心させられたよ。彼女が僕を愛しているなんて・・・。」


 そう、初めに開いたページには、僕に対する予想以上の愛の気持ち。僕をどれだけ愛しているのか、激しい劣情、他の者への嫉妬。そして、『闇の儀式』。

 自分の考えている事をひたすら文面に起こしている様な書き方をしていた。日記の様な文面形式だからこそ、疾走感溢れる内容と狂気さがひしひしと伝わってくる。


 2冊目のノートを進めると、中身は『儀式』のことで埋め尽くされる。西洋・東洋の文献を参考にしたのか、学校のテキストの様に手順や方法がズラリと並んでいる。

 「どれどれ。あら、よくこんなに調べたものね」

 僕が無心でページに眼を配っていたので、気になって後ろから覗いてきた。

 「ああ、綺麗にまとめていて見やすいよ。これを見ながらなら、『儀式』をやれてしまいそうになるよ。・・・ん?」

 「どうしたの?何か気付いたの?」

 「可笑しくないか?1冊目と2冊目で文面が違う。初めに読んだのは心の叫び、2冊目は『儀式』についての分かりやすい

説明書なんだ。」

 「うーん、ノートによって整理していただけでしょ?可笑しいって気持ちにはならないけど?」

 「整理は整理でも、自分用と他人用って事だよ。1冊目は僕が見てもきつい内容だった。だが、2冊目はそうじゃない。見やすいし、見ていて変な気分にならない。僕が言いたいのは、このノートは他人に見せる様に作成したものではないかということだ。つまり、西之江真里亜はこのノートを誰かに見せるつもりで書いていたことになる。僕があの廃ビルで見た様に。」

 「つまり、と言うけれど、私には見えてこないわ。他人に見せる用だから何だと言うのよ」

 「仲間がいたんじゃないのかって事だよ。今回の場合は共犯者と言ってもいい。」

 「共犯者?」アリアが眉を顰める。

 当然だろう。僕自身考えながら口にしている。順序がバラバラ過ぎる。

 「そう、共犯者だ。刑事が僕に見せた写真に西之江真里亜と手を組んでいた人間がいる。それも女性だ。何故ならあの写真は顔はモザイクだったが2人は男物の学生服を着ていた。あの時行った男性は僕含めて3人、残るのは女性となる。そして、残り4枚の写真の中に西之江真里亜はいない。僕には彼女とアリア以外は見れない眼になっているからね。じゃあ、ずっと悩んでいた西之江ではない1人の女性は誰なんだ?という問題になる。あの時、刑事は一言も全員オカルト研究部の人間とは言っていない。僕もあの時はボロを出さない様に必要最低限の事しか口にしなかった。それが事態を拗らせてしまった。ここへ来て、西之江はあの写真にいないという事がわかった。そして、謎の1人の女性が西之江と結託して、何かをしようとしていたんだ。オカルト研究部以外で『儀式』に興味を持っていた女性が。」

 捲し立てる様に、口に出して自らを整理する様に僕はアリアに話をしていた。

 「・・・成程、名探偵。助手として意見を言わしてもらうと、いまいち決定打に欠けているわ。証拠?みたいなものがない、あくまでも妄想での話だわ」

 「ああ、その通りだな。残りの3冊できっと答えが出る、そんな感じがするんだ。」

 そうアリアに言い、残りのノートに手を伸ばす。


 3冊目、字体が違う。文の構成もお粗末な仕上がりとなっている。これは西之江真里亜ではない。僕が言う所の共犯者のノートだろう。同じノートなので、全て西之江の物だと思っていたが違うようだ。いや、ノートは西之江の私物で、中身は共犯者が書いたのかもしれない。


 4冊目、僕の考えが確信に変わる。

 名前が入っている。『(みなみ)さん』と書かれている。

 南・・・依田南(よだ みなみ)!いた!顔は思い出せないが隣のクラスで同じ塾に通っていた筈だ。

 「・・・アリア。やっぱり僕の考えは当たっていた様だ。」

 「おめでとう、名探偵。彼女が例の共犯者ってことなの?」

 「ああ、おそらくね。・・・4冊目はお互いに書き合っていたみたいだ。筆跡が2種類になっている。これには今回の『儀式』の打ち合わせの記録みたいだ。・・・どうやって行動するか、僕達生け贄を誘い出すかとかね。」

 「でも、貴方ではなく彼女達が生け贄になってしまった?」

 僕の考えを口に出す。

 「・・・そうなるな。わかったようで結局わからないままだな。西之江は僕の事が好きで依田南と結託して、僕を『儀式』の生け贄の一部にしようとして失敗した。・・・自分の好きな人を生け贄に使うのか?僕にはわからない。」

 「独占欲が強かったのでしょう?1冊目のこの日記みたいな物を見るとそう感じるけど?貴方を何とか手に入れようとして、気付けば貴方を生け贄にしてしまった。・・・私にもわからない」

 「だろうね。西之江真里亜にしかわからないことだな。」


 これで終わりなのか?知りたかった事はわかったけど、何か腑に落ちない最後だ。・・・まあ、壊れてしまっている僕にはどうでもいいことか。


 ノートを机に置こうとした時、最後のノート。つまり、5冊目のノートに眼を通すのを忘れていた。とりあえず確認だけしておこう。・・・先程までの気持ちはもうなくなっていた。


 ・・・5冊目のノートは白紙だった。だが、筆跡の跡が付いていた。

 「アリア。このノート、字が書いてあったみたいなんだけど見える様にならないか?」

 ノートをアリアの方に向ける。

 「・・・んーー、難しいわね」

 これが出来ないのか?簡単な様に見えるのだけど。ここまで手伝って貰ってそんな事を言うのも失礼だな。・・・ああ、見えないといえば蛍光のペンで書いて、赤いファイルを被せると見えるやつ。テスト前とかにクラスの奴等がやってたっけ。暗記とかに使うんだよな。それなのかもな。

 机上に置いてある小さい棚を探してみる。・・・あった。

 ノートに当ててみるが、反応なし。

 「アリア、僕の手元だけ暗く出来るかな?」

 「手元を?どうして?」

 「蛍光で思ったんだけど、暗い所だと見える特殊なインクのペンがあるみたいなんだ。推理物のトリックとかで使われているのをみたことがある。一様ね。」

 「・・・ええ、わかったわ」

 何故か乗り気じゃない、疲れたのか、それとも僕の頑固さに呆れたのか。


 フッ。考えていると僕の手元が暗くなった。・・・その時、暗い筈の僕の手元から微かな光が見える。

 ビンゴだった。文字が見える!僕はゆっくりと文字に眼を通す。


 夢中で読んでいた。気付いた時には読み終わり、ノートを閉じていた。

 「・・・何か得られた?」

 アリアが口を開く。もう手元の暗闇は消えていた。

 「ああ、十分にね。全部わかったよ。大分時間が経った。そろそろ出ようか。」

 「そう。・・・わかったのね、おめでとう」

 アリアは物寂しそうに部屋を見渡す。

 「じゃあ、行こうか。西()()()()()()。」

 彼女は今までと違う笑い方をしてこう言った。

 「うん、行こうか。園夢君。」


 これから僕達はあの場所へ行く。もう終わりの時間だ。

 


 

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