動き出す契約
朝方、僕は何の抵抗も感じないと錯覚してしまうくらい綺麗に眼を覚ました。気持ちの良い朝だった。
枕元に置いてある目覚まし時計に眼を配る。時刻は6時を少し周った所だ。
「おはよう、早いのね」アリアは眼を閉じたまま挨拶をしてきた。姿勢は寝ている体制のままである。
「寝ていたんじゃなかったのか?」
「今起きたところよ、まあ人間と違って眼を閉じているだけなんだけど」
アリアはゆっくりと眼を開けてこちらを一瞥する。
「グラビアの写真みたいじゃない?今の私は」
「そうだな。裸Yシャツってやつだっけ?」
「裸?下着は付けているけど?」アリアは躊躇なく上着を少し捲り黒い下着を確認させる。
「別に見せなくてもわかっているよ、素肌に近い状態でシャツを着るとそういった名称で呼ばれるんだ。・・・多分。」
どこまでが裸Yシャツの範囲かまでは知らないがおそらくそうであろう。
「ふーん。で、どうかしら。似合う?」
「悪魔がそんなこと気にするのか?昨日も言ったと思うが似合うという感想ではない気がするけど、可愛いと思うよ。」
「ありがと。悪魔だろうと人間だろうと褒められることは嬉しいことなのよ」アリアは左眼でウィンクをする。・・・見た目や性格から感じるに人間にしか見えないが。
「成程。アリアを悪魔としてではなく人間的に見てしまうのは、見た目だけでなく中身も人間に近しいからなのかな。」
「この世界にいるからというのもあるのだろうけどね。あなた達に影響されて人格や嗜好も近しい存在になっていることは否めないわね」
アリアは上半身をゆっくりと起き上がらせ、手伸びをする。
「さて、今日はどうしましょうか?」
「西之江真里亜の家に向かい、彼女の部屋を調べたいと思っている。学校は休んでいいといっていたしね。それにこんな眼じゃ学校に行けないよ。」
黒真珠のような瞳では、質問の嵐だろう。それは学校に限らず人目に見せたくはない。
「そうだったわね、やっと動き出すのね名探偵?」
「ああ。親は昼を過ぎれば買い物に行くはずだから、それまでもうひと眠りするけどね。一様病人扱いなんだ。」
「そう・・・私は居間から新聞でも取ってきて読んでいようかしらね」アリアはスリッパを履き、ぺたぺたと音をたてながら居間に向かって行った。
眠くはないが、ベットに体を預け、眼を閉じる。考えをまとめよう、時間はあるようで実は無いのだから。真里亜含め他のオカルト研究部員はもう死んでいるーいないのだ。親が心配しないわけがない。真里亜は「遅くなるかもしれないから家の人に連絡入れといて」と言っていた。つまり、なんとなく家に帰り悠々と風呂に浸かり、就寝しているのは壊れた僕一人なのだ。奇異の眼が飛んでくるのは眼に見えている。
警察も動き出しているのかもしれない、身動きが取れなくなり、真相が掴めないまま終わるのは嫌だ。壊れているといっても知りたいという欲だけは無くなってはいないのは良いことだろう。でなければ、僕はもう・・・。
「そろそろ動いたら?」アリアの声が聞こえる。
「え?」僕は少し驚いて眼を見開いた。いつの間にか寝ていたのか?時計に目を配る。・・・時刻は7時半を過ぎた所だった。
「まだ一時間もたっていないじゃないか。動くのは昼過ぎだって説明したじゃないか。」
「そうじゃなくて・・・お客さん」アリアは窓を指差す。
僕は窓にそっと近づく。二階の部屋から玄関の方に眼を向けると、そこには1台の車が玄関付近に横付けしていた。
「・・・警察か。」黒いセダンであったが、警察だと直感した。こんな朝早くに来客なんてありえないし、自分の考えと現状が重なったからだ。
「ご名答名探偵、居間に来てほしいそうよ。」アリアはいつの間にか着替えを済ましていた。黒のスリムパンツにYシャツとシンプルにまとめていた。
「すぐに着替えてむかうよ、それとフォローを頼めるかな?」
「ええ、承ったわ」
着替えながらアリアの「そろそろ動いたら?」という言葉が脳に残る。どうやら動き始めるようだ、契約を叶える為の行動が・・・。
僕は着替えを急いで済まして一階に下りる。そう、時間はあるようで実は無いのだから。