悪魔の見解
驚かされた、そんな印象だった。
まさか人間と暮らすなんてことがあるなんて・・・。
悪魔・・・今この状態では哀里亜と名乗っている私は契約を終えて、契約者の彼を見つめる。
彼の願いは、西之江真里亜が何をしたかったのかを知りたいという事だった。それを調べる為に、私に協力を頼んできたのだ。
いままで色んな願いを聞いてきた欲に塗れた人間の願いとは毛色が違い過ぎて流石に困惑してしまった。
・・・でも、『楽しみ』だと思っている自分がいることも事実だ。人間と言うのは面白いものだ。
契約は簡単だった。彼の親指から血をほんの少し出して、私がそれを舐めるだけ。彼は一瞬驚いた様に見えたが、表情は変わらない、黒い真珠の様な眼で私の所作を見つめていた。
「結構簡単なんですね、契約というのは。宅配便に判子押すような感じだった。」
そんなものよ。私は彼の指から唇を放してそう告げた。
「・・・さて、これからどうするの?」私は尋ねた。どのようなプランがあるのか気になる所だ。
「彼女の情報が足りなすぎる、それに自分の状況も確認したいしね。アリアには僕のサポートの様な事をしてほしいと思っている。大きな力が使えないというのは先程聞いたけど、対象人物を欺いたり、家の鍵を壊したり等の力は使えると思っているんだ。出来るかな?」
「そうね、それくらいなら他愛無い事ね。水をコップに注ぐくらい動作もないことよ。でも、それくらいでいいの?」
「ああ、十分だよ。アリアに『事の真相を教えて貰う』っていう願いなら話は別だけど、あなたは彼女が何をしたかったかは知らないと言っていたし、僕の身体から鑑みて自分の眼で真相を見ないと意味がない。おそらく、得た情報もフィルターがかかるんじゃないかなって。」
「・・・成程。お利口ね、『百聞は一見に如かず』と言うのだったかしら?あなたの場合は特にね。・・・いいんじゃない、楽しそう。『探偵をサポートする悪魔』なんて、面白そうな小説みたいじゃない」
それはどうも。と、彼は愛想のない返事を返してきた。まあ、愛想なんて無くなってしまったのだろうけど・・・
「そろそろ動きましょうか?」私は指を鳴らし、椅子を消す。契約してから今に至るまで使っていなかったし、話も大体終わった。これ以上の立ち話はいらないだろうと思ったからだ。
「そうだな、とりあえず僕の家に行こう。家族には『遠い親戚』みたいな振る舞いでいきたいと思っている、出来るかな?」
「出来るわよ、記憶を都合よく弄らせて貰う。あなたの家族は何の違和感もなく家に入れてくれると思うわ」
「便利な力だ。でも、大多数には厳しいとかそれなりの制約はあるのだろう?」
「まあ、そうね。対象人物と対峙する必要はあるくらいかしら。あ、機械は駄目ね。試したことがないし、多分無理だと思うから」時代の進歩による制限だ、仕方がない。
「それよりも、『それ』どうする?」私はある一帯を指差す。私を呼び出す際に使われた人間だ。部屋の片隅によけておいた。
「ああ・・・そうだな、『跡形もなく燃やせるかな?』見つかってもどうすることも出来ない、恐ろしい殺人事件で犯人はいない。僕だけ生きているのも可笑しいからね。」
「わかったわ。・・・冷たいわね、迷いなく燃やすなんて」
「そうかな?行方不明の方がまだましなのかなって思ったんだけど・・・やはり『壊れて』いるからかな?」
「私にはわからないわね。」
私はそう話し、あの一帯に火を点ける。火はその辺りだけを燃やし、あっという間に黒いシミだけが残った。
「さあ、行こうか。」彼はサラッと私に話しをする。何もなかった事のように。
「ええ。行きましょうか。」
彼がこれからどんな真相を知るか、彼女の事を知っていくか『楽しみ』でもある。