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壊れた僕は悪魔と契約をする  作者: 庭城優静
3/11

質疑応答

「中々興味深い話だわ」悪魔はそう言って長い黒髪をかき分ける。顔は白く、仲間由〇恵を相手にしているようだった。


 僕の経緯を簡単に説明している時に「立ち話も何だから」と言い、丸型の宙に浮く椅子を二つ呼び出し腰掛ける。

 僕も言われるがまま腰をおろす。

 見た目は木製だが、座り心地は柔らかく座布団のようだった。


「何故僕だけ生きているのかな?」悪魔に尋ねる。

「そうね、貴方が理想的に『壊れた』からじゃないのかしら」

「『壊れた?』壊れたから生きていられたというのか?」


『壊れた』事については納得している。

 普通に悪魔と会話をしている時点で既に可笑しい。

 周りには首なしの死体が、倒れたマネキンのように寝転がっているのにだ。


「結果的にはそうね。壊れていなければ私と会話なんて出来ないもの。何故自分だけ生きているかの質問だけれど、彼女じゃなければわからないのよね」

 悪魔は指で1人の首のない女性を指差す、おそらく西之江真里亜だろう。


「やっぱり彼女が描いた儀式陣なのか、これは。」

「あら?気付いてたんだ」意外そうな顔をされた。

「いくらなんでも用意周到過ぎるんだ。近場にあって、人数もいる。それとノートだ。」

「ノート?」

「ああ、このノート、一見オカルト好きが冗談で書いた様に見えるけど、似ているんだ。彼女の字体と。」

「成程ね、でも何故彼女が死んで、貴方が生きているのかしらね?」

「それを聞いているんじゃないか。彼女はこれを使って何をしたかったのか、何故死んだのかを。」

「ふふ、思っていたより頭が回るのね。普通ならこんな状態で考えられないものだけどね。特別に私が解る範囲で教えてあげるわ」

「それはありがたいね。」

 僕は悪魔の眼を見る。

 吸い込まれそうな朱い眼をしていた。


「この儀式陣、よく調べて描いたようね。悪魔が呼べるようになってる。でもね、一つだけ欠点があるの」

「欠点?僕以外死んでしまった事か?」

「いいえ、それは『悪魔を呼ぶ』ではなく『悪魔と契約をする』の違いなの」

「必要な代償の差か。」僕はそう返す。


「正解。ただ呼ぶだけなら今回のように必要な人数で陣の中に入り、呪文を唱えればいい。あ、でも全員死んでいる可能性もあったけどね。

 契約の場合、大量の血と私と会話出来る人がいないといけない。貴方の様にね」

 そうか、僕は『壊れた』から生きているのか。儀式の事を思い出す。


 儀式が始まり、彼女がノートに書かれている呪文を唱えだした。詠唱が終わる頃だったか、陣が怪しげな光を放つ。

 1人の首が急に消え、大量の血が噴水の様に流れたのを覚えている。

 1人、また1人と人間噴水が出来上がっていく。

 当然の様に叫ぶ僕達。

 陣からは出られない。

 僕は唯々嘔吐を繰り返し、胃液しか出なくなったところで顔を上げた時には、僕と彼女だけだった。

 次は僕の番だと強く感じた。


 その時、頭の中で太い輪ゴムが切れる様な鈍い音がした。そこで『壊れた』のだろう。


 気付けば僕は立ったまま呆然と目の前を見ていた。


 眼の焦点は合っていない。


 僕以外立っていない事から、彼女も死んだのだろうと虚ろな意識で考えた。


 その時だ、床から悪魔が出てきたのは。悪魔は何も言わず僕の頭を触る。そこで意識を失って今に至る。


「僕の頭を触ったのは?」思い出してきた記憶にメスを入れていく。


「この世界の情勢、言語、風習などを貴方の記憶から解る程度を調べていたの。貴方の好みもね、東地園夢くん?」悪魔は恐ろしいほど美しい笑みを僕に向けた。


「自身でも微かに分かっているのだけれども、どんな風に『壊れて』いるんだ?」僕のタイプについては触れないでおこう。


「さあ、見た目で言えば眼に光が宿っていないくらいかしら。中身の方は私には分からないわ」ぶっきらぼうに返された。


 悪魔の言い方からして、顔に生気がないのだろう。

 表情が変わらないのは自分でもわかる。

 喜怒哀楽の感情の欠落、記憶の一部喪失、そして脳に負荷が行かない様にフィルターが入っている気がする。

 実を言うと、周りの死体の一部は黒い靄がかかっている。

 自動でモザイクが入っているのだ、首から上にかけての部分に。そう伝えると、

「脳にこれ以上の負荷がかからないようになっているのね。今頭のヒューズが一つ飛んでいる状態とでも言うのかしら。もう一つ飛んだら・・・わかるわよね?」悪魔は頭の近くで手を開いた。


「何故みんなの頭を噴き飛ばしたんだ?他の方法でもいいのでは?」質問を変える。


「私がやった訳じゃないからわからないわ。精神が崩壊しやすいからじゃない?儀式陣が自動的に『壊れる』対象者を見つけてそうしたのか、彼女がそう望んで儀式陣を描いたのか。私の知ったことではないわね。必要な代価を払い、手順に沿って現れたに過ぎないのよ」


「そうか・・・。」彼女は何をしたかったのか、こうなるとわかってやったのか、本心がわからない。


「質問は終わり?久しぶりに人間と会話が出来てつい楽しくなっちゃたわ。この姿も悪くない」悪魔は自分の服や体を見て呟く。


「最後の質問だ。」人差し指を立てる。

 悪魔は「どうぞ」と笑みを浮かべながら手のひらを見せる。


「僕はこれからどうすればいい?貴方と契約とやらをしないといけないのか?」

「東地園夢くん、貴方次第よ。契約を結びたいならすればいい。したくないなら私は消えるわ、元居た場所に戻るだけ」


「・・・契約をしよう。僕は『壊れている』んだ、元には戻れない。死んだ人達も。そうだろう?」


 悪魔は白い歯を覗かせて笑みを浮かべる。

 以前、眼は笑っていない。


「それでは契約をしましょうか」眼の輝きが増して、朱い瞳が美しくなるが、恐怖はしなかった。

 僕が『壊れて』いるからだろうか、その瞳に見惚れてしまっているのかは分からない。



 ただ、1つ言えることは、壊れた僕は、これからどうなっていくかも分からないのに、何の躊躇もなく、悪魔と契約をするということだ。

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