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壊れた僕は悪魔と契約をする  作者: 庭城優静
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壊れた僕は悪魔と契約をする

やっと終わりました。何で1年もかかったのでしょうか?(お前が書かないからである)


 西之江真里亜の家を出る際、僕は居間にいるであろうご両親の様子を確認した。 

 2人とも机に突っ伏して眠っている様だった。顔色は窺う事は出来ないが、時が止まっているような静寂と、乱雑に置かれている衣服や食べかけの簡易食品を見つめると気づかされる。どれほど子供の安否を祈っているかが。

 しかし、当の本人には親に対しては何も思っていないのだろう。そんな文は何処にも書いていなかった。それどころか、僕の為にとオカルト研究部のみんなを儀式のコストに使って謝罪のひとつも書いてはいなかった。

 謝るのは僕ただ一人だけだった。


 上の空のまま西之江真里亜の家を出て、自分の家へと歩いていた。

 「彼女の書いてあった通り、西之江真里亜は元から壊れていたのだろうな。」

 僕は重い口を動かす。自分の身体が死んでしまっているという事実を知り、心なしか身体が重いように感じる。

 「そうね、上手い事書いてあったわね。私が悪魔だった。だったっけ?彼女の考えは非常に私達、悪魔と呼ばれている者達に近いわね」

 「人の命を何とも思っていないことか?」

 「欲望の赴くまま動いているところかしらね」

 アリアは嬉しそうにそう言った。この後の僕と真里亜の会話が楽しみなのか、真里亜の思想が気にいっているのか。

 

 「思い返すとなんだか随分と遠回りな行動をしていたな、僕達は。アリアに出会った時や刑事との会話で確認をしておけば良かったよ。」

 「あら、それじゃあつまらないわ。私と契約して直ぐに願いが叶ったら、私がこの世界を楽しめないじゃいの。私はおしゃべりが好きなのよ」

 「ああ、そうだったな。最初に依田南の死体を指差して彼女に聞いてみればいいという台詞、あの死体は西之江真里亜だと僕に思わせる為のミスリードだったんだろ?アリアは一言もあの死体が西之江真里亜だとは言っていない。僕は見事に騙され何故当事者が死んだのか気になる、僕は真里亜について疑問を持ち調査をすることになった。どうだ?」

 「怒っているの?名探偵」

 「いや、感心しているだけだよ。口数が多いのは性格だよ。で、合っているのかい?僕の推理って奴は。」

 「大正解」ウインクを決めて魅せたアリア。

 「今のは中にいる真里亜なのか?」

 「いいえ、彼女はもう自分の身体に戻っているわ。西之江家を出る時にね」

 気付かなかった。アリアに何かされていたのだろう、だから家を出る時意識が朦朧としていたのか。

 「刑事も僕が合う前に、細工していたのかな?」

 「ご想像にお任せするわ。ところで、家に戻ってるみたいだけどあそこにはいつ行くの?」

 「夜かな。家に着いて、親には悪いけど遺書でもしたためようかなと。」

 「もう、いいの?」アリアは僕の眼を見て、ゆっくりとした口調でそう言った。

 何故、そのような事を言うのかはわかっている。もうこの世にはいられない。最後なんだ、思い残しはないのか?そんな思いが含まれた「もう、いいの?」だった。


 「・・・ああ。」

 少し溜めてこの言葉を口に出した。

 アリアは無言で頷いた。


 それから家に帰り、やるべきことを済ませ、あの場所へ向かうまで、僕達は口を開かなかった。


 

 夜になった。別れの文と、眠りに就いている両親に挨拶を終わらせて、僕は家を出ていった。

 もしかしたら、僕の意識が朦朧となっていた時に、真里亜も最後に親に何かを残したのかも知れない。


 暫く歩き、例の廃ビルにたどり着いた。誰にも目撃はされていない。いや、もうそんな考えは杞憂か。この廃ビルに入ったところを目撃されたとしても、僕の姿はきっと無いのだろうから。


 中に入ると、あの場所から淡い明かりが漏れていた。

 彼女だろう。

 

 部屋のドアを開く。床に描かれた儀式陣。無数の蝋燭、そして、宙に浮く椅子に彼女は座っていた。

 西之江真里亜だ。

 僕と同じ血色の悪い青ざめた顔をしていたが、眼は僕の知っているままの生きている人間の眼をしている。服が制服のままだったので、数日前を思い出させる。

 「久しぶり、園夢君。」

 「ああ、久しぶり。アリア以外でしっかりと顔を見れるのも久しぶりだな。」

 「アリア?」怪訝そうな顔でこちらを一瞥する。

 「私のことよ、貴方の名前を拝借して哀里亜(アリア)って名乗っていたから」アリアが説明する。服装がいつの間にか初めに会った時の衣服になっていた。

 「そうなんだ、いい名前じゃない。私と話す時からそうしてくれれば良かったのに。」

 「知らなかったのか?アリアの中に居たんだろう?」

 「いたけど全て聞いていた訳じゃないの、所々なの。」

 「そうなのか。」


 暫しの沈黙が流れたが、静まり返った部屋で息を吸う音だけが聞こえる。

 「・・・来てくれてありがとう。」

 「礼を言う必要はないよ。西之江と話したかったのは僕も同じだから。」

 「そう。・・・やっぱり、怒っている?」

 「怒ってない。まあ、僕がこんな状態になっているからかもしれないけど。怒りよりもこれからどうするのかを知りたいんだ。西之江も僕も壊れてしまった、身体は既に終わりを迎えているんだ。あのノートを見させてもらったけど、僕を仲間に入れたとしてどうなるんだ?一人が寂しいなんて理由ではないだろ?この後、元の身体に戻ることもないんだから。」

 「その通りだね。・・・実はあまり考えてないんだ。」

 「なっ!!」

 絶句だった。まさしく絶句。

 「あはははは、やっぱり面白いわね人間ってのは」

 「笑い事じゃないぞアリア、貴方を呼ぶ為に死んでいった人達はどうする?報われないじゃないか。」

 「やっぱり優しいんだね園夢君は。」

 「いや、当たり前の事を言っているつもりだけど・・・。」

 ああ、何だかこのやり取りも懐かしい。いつも振り回される。今回も、というか最後でもだ。

 「そうだね、園夢君の考えが優しいと判断する私は壊れているんだよね。これからどうこうなんて何にも考えてないの。・・・昨日の夜、覚えている?」

 「あ、ああ。」

 「お風呂上りに飲んだミネラルウオーターに俗に言う媚薬を入れて貰ったの。アリアに頼んでね。そして、熱くなった園夢君の相手をしたのは私だったの。」

 「!・・・そうか、あの時の汗はそのせいだったのか。」

 「幸せだった。あれだけでもう心残りはないの。後は園夢君の好きにしてくれて構わない。磔でも拷問でもいくらでも付き合う。」

 「そんな事するつもりはないよ。」

 「そう?わかってたけど。」笑顔で返された。

 彼女はこんな状態で、笑顔になることが出来るのか。敵わないな。

 「アリア、僕も西之江もこの世に未練はない。地獄へ連れていってくれるか?西之江もいいよな?」

 真里亜は黙って頷いた。

 「悪魔と契約をした人間が地獄なんて行けると思っているの?」

 重々しい口調だった。当然の回答でもある。

 「じゃあ、何処に行くんだ?『無』と呼ばれているような所か。」

 「いいえ、貴方達が向かう所は『永遠』と呼ばれる場所」

 「永遠?地獄と何が違うんだ?永遠に苦しむ場所が地獄ではないのか。」

 「半分正解。大昔、私よりも上の者達が創った場所、それが永遠。人間界では、肉体はそのまま精神がこちら側へ呼ばれる。でも永遠は全て持って行き、永遠に生き続けるという最大の苦痛が待っている」

 「不老不死のこと?」

 「そうよ、真里亜。天国や地獄があるかどうかは置いといて、全てには必ず終わりがある。それが無いのが永遠なのよ」

 「聞いている限りでは地獄だけど。」

 「百聞は一見に如かずってことかしら。見ればわかる」

 アリアは指を鳴らすと壁から楕円上に空間が広がっていく。


 人が通れるくらいのサイズで止まった時、眼に写り込んだのは・・・美しい景色だった。

 海外の大自然のポスターを眺めているような感覚に陥った。

 「これは?」

 「まだ綺麗だった地球よ、文明も生物もいない。神工的に創られた『楽園』よ」

 「楽園って、天国なんじゃないの?ねえ、園夢君。」

 「ああ、見た目上は僕達がイメージしているのとは少し違うけど、この美しい世界は楽園・・・天国と言っても可笑しくはない・・・。」

 「そう、見た目はね。でも、ここにくるためには条件がある。貴方達の様になることよ」

 「・・・壊れる必要がある?」

 「そう。正しくは、死しても尚身体が動ける者のことだけどね」

 「つまり、この世界で永遠に生き続ける事が僕達のけじめになるのか。」

 「そういうこと」

 「でもでも、私達しかいないの?アリアを含めて悪魔を召喚した人間は少なくないでしょ?」

 「そうね。でも、大抵は願いを叶えて自我を失い先程話していた本当に何もない『無』に落とされていくの。又は、悪魔の栄養で消えるのも多いかな」

 「・・・現代になって悪魔を呼べる人間なんていなくなった。呼べたとしても『無』に落ちるのみ。じゃあ、何故僕達は『無』ではなく『永遠』になるんだ?」

 「理由は2つ。1つ目は『永遠』は真の善人しか行くことが出来ない領域だったの。でも、そこに行くためには善人が絶対にやらないことをしないといけない。矛盾ってやつね。創った奴等はそれに気付けなかった。だから、あんなにも綺麗な状態で保管されているの。2つ目は私の独断」

 2つ目を言った時のアリアは、無邪気に笑って見せた。真里亜の様に。

 「独断って・・・。」

 「あなたたちのことを気にいったのよ。貴方達の願いは今までの中でも毛色が全然違っていたし、2人ともまともに会話も出来るしね。『無』に行くより、『永遠』で本当に一生綺麗な世界を苦しくなるまで堪能すればいいわ」

 「苦しくなるまでか・・・犠牲になった人達の分まで苦しむことは出来るのかな?」

 「勿論。永遠がどれほど辛いかきっとわかるわ。でも、2人なら違うかもね」

 「2人・・・、西之江とか。」

 「ええ、不満?」

 「・・・私は大歓迎だけど、園夢君は嫌だ?」

 「その問いに答える前に1つ教えてくれ。ご両親には謝ったか?」

 「・・・うん。一言ごめんなさいって、それしか言えなかった。他の人達には伝える事が出来なかったけど。」

 「良かった。それが出来るなら、真里亜のことを人間だと思える。」

 「ううん、私は悪魔だよ。だから私と契約をしない?」

 「契約?どんな。」

 「永遠に私と罪を償ってくれない?」

 「それじゃあ、お願いじゃないか。それに合う代価がないよ。」

 「あ、そっか。えーと・・・。」

 「いやがらせはやめたら?」

 「そうだな、アリア。真里亜、その契約をするよ。」

 「ええ!だって・・・。」

 「僕は壊れているんだ。不公平な契約をしても可笑しくはないさ。」

 「やっぱり貴方達は面白いわね。たまに顔を出しに行くわ。それと、私を召喚する為に使った人間の魂を『永遠』に飛ばしてあげるわ。文字通り一生を掛けて償うといいわ」

 「ありがとう、アリア。」

 「礼を言われるのは慣れないわ。さあ、お行きなさい」

 

 僕は真里亜の方を見る。同時に真里亜もこちらを見ていた。

 眼の前に広がる美しい世界で、永遠に過ごすことになる。それがどんな苦痛なのかはまだ分からない。

 でも、1つ確かな事は、壊れた僕は悪魔となった彼女と契約をした。ということだ。

 一歩一歩、永遠の世界に足を踏み入れる。

 身体が入りきった時、後ろから「またね」と声が聞こえた。

 振り返るとそこにはアリアも薄暗い一室もない。広大な大地が全面に広がっていた。

 「・・・さて、どうしようか。」

 「まず、ここはどこなんだろうね?日本?海外?」

 「時間は永遠にあるんだ。二人で世界地図を創ろう。生態系を調べてみてもいいし、アリアが言っていた犠牲になった人達の魂を探す旅に出てもいい。永遠なんだ。一生掛けて苦しもうじゃないか。」

 「・・・そうだね。じゃあ、まずは・・・。」




 2人を見送った後、私は宙に浮いていた椅子に腰かける。

 面白い人間だった。あんなのが私を召喚してくれればもっと楽しいだろうけど、滅多に会えるものじゃない。永遠に生きている私が言うのだから間違いないだろう。

 さて、私も元の世界に戻るかな。

 また、この世界に来れるのはいつになるのか・・・案外、早いのかも知れない。まあ、気長に待とう。

 私は指を鳴らし、この世界から消えていった。薄暗い一室の蝋燭が衝撃で次々に消えていった。だが、2本の蝋燭は消えることなく、弱弱しく部屋を灯し続けるのであった。

どうも、庭城優静です。

やっと『なろう』1作目が終わりました。

本来、1か月くらいで終わらす短編だったんですが、気付けば1年!

早いね~、1年は。

時の流れに身を任せ~♪ していたらあっという間ですね。

さて、本当は書きたい作品がいっぱいあったんですが、「この作品が終わるまでは書かない!」

と決めていたのでこれから怒涛の如く書くつもりです。

まあ、誰も見てないでしょうが・・・親友のJ・Kさん!コメントよろしく(笑)

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