目が覚めて
初投稿です。
気がついたらわたしは戦闘員になっていた、っぽい、まぁ、普通だったら正気を疑われるたわ言と思われるんだろうけど、目の前に現実を突きつけられたら信じるしかないだろう。なんてったって目が覚めたら手術台に寝かされてて、全身鈍い光沢のある黒い全身タイツを着た男に覗き込まれてたんだから。しかも、顔も全てタイツに覆われてて目鼻口の穴もないし、ビックリだわ。そして、タイツ男の発した言葉が
「ようこそ秘密結社ウロボロスへ、君の認識番号はα138号だ。」
ですからね。わたしは現状を飲み込めずにいると、タイツ男が持ってきたスタンドミラーに映る自分の姿は、タイツ男と同じくピッチピチの全身タイツに全て覆われた姿だった。パニックに落ち入りそうだったけど、それより、体型丸わかりの姿で恥ずかしさが先に立ってしまい一瞬硬直してしまった。そしてそれを脱ぐためにあたふたとファスナーを探して体中を触りまくり、絶望した。ファスナーがないのである。
「脱ごうとしても無理だよ、それ基本的にはずっと脱げないから。」
タイツ男はとんでもないことを言いはなった。
「なにそれ、脱げないって、洗濯は??、ご飯は食べられないし、お風呂にも入れない、トイレはどうすんのよ!!」
とまくし立ててみたものの、
「まぁまぁ、その辺のことは場所を移してゆっくり説明するよ。ついておいで。」
とあっさり流されてしまった。
タイツ男はさっさとこの部屋から出ていこうとしたので、慌てて後に続いた、もちろん胸とアソコは隠しながらだけど。わたしは怖いながらも逃げられなかった。なぜかここの基地の構造は隅から隅までハッキリと把握していたのにだ。まぁ、万が一出られてもこの格好で街に出ればどう説明したってトンチキなことを話す変態さん扱い確定なのでどうしようもないわよねぇ、それに帰る場所なんてないのだから、うん。と自分を慰めていた。
手術台のあった部屋から移動するときの通路は狭く薄暗くぼんやり天井一面が淡い光を発していた。そして誰ともすれ違わず不気味だ。案内された部屋は通路と同じように薄暗く、パイプ椅子がいくつか置かれ、目の前には大きなスクリーンは掛けられていた。
タイツ男はわたしに好きなところに座るよう指示し、目の前に立った。
「さて、まずは自己紹介からいこう。私の名前は研究員20号だ。これでも研究員の中ではいちばん優しくてイケメンなんだよ。よろしくネ!」
初めて会った表情さえわからない研究員20号にそんなこと言われてもどう返せばいいのやら、とため息一つ。
「ため息はいけないね、幸せが逃げちゃう。」
と、のたまう研究員20号にピキッとなり、
「気が付いたらこんな格好にされて、怪しい場所にいるし、幸せな要素ひとつもないじゃない!!」
怒鳴るわたしに
「嫌な記憶が消えて、今後も思い出すこともないなんてとても幸せなことじゃないかな?」
耳元でささやかれ、八ッとなった。思い返すと、目覚める前の自分自身についての記憶が全くないことに気づいたのだ。一般教養。一般常識があるのは間違いない。しかし、自分の名前、年齢、家族構成等々全然出てこない。まるでポカンと穴が開いたようだった。そして怖くなった。
「必要事項はすべて脳にインストールしてあるから、サラッとおさらいすればすぐ理解できるよ。」
研究員20号はスクリーンの前に立ち、映像を流しながら解説を始めていった。