すきまの虚
僕の体重で圧し開いた扉は、埃をひき千切って開いた。
妙に蒸した空間は、多数の命を育むのに適する。
同時に、なにか、喉に詰まるものが生まれた。
低い天井、広いはずなのに狭い間取りの部屋。
どこかでみたすきま。
ちぐはぐで、それでいて寝台のような安心感。
一角を囲むようにして、ごちゃごちゃと陳列した檻たちが、
この部屋を守るようにしていた。
………………鳥かご、水槽、鉢うえ、虫かご、ケージ。
これらは総て、命を容れる器。 の、はず。
器たちからは、どうも "生きたにおい" がしない。
むしろ、
科学的な、化学的な、
薬品と、
水と埃、
日射しに透けるカーテンの、
籠ったにおい。
絹やサテンでおおわれて、やわらかな光を落とす照明。
更にツタらしき物が絡むので、人工感を感じない。
積み上げられて、積み重なって、
吊らされて、地に這って、
繰り返した器に、家主はいなくとも、主は居るみたいだ。
慎重に、白いすきまを縫う。
焦燥の叫びが息になり、汗をたらしているのは滑稽だろうか。
壁の如く、すこしだけ頑丈に覆われた一角がみえた。
一角、空間、というよりは空白に近い巣。
平たい円の水槽、
底の割れた試験管、
表紙の剥がされた本、
そのすべては脆い虚空に浮いた。
そのすべての主は微かな過去を残した。
僕を、じっと見て。