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赤いマフラー

作者: 青空

彼は私をひとり置いて、いってしまいました。

あなたは死ぬときに、愛したことを思い出しますか?それとも、愛されたことを思い出しますか?

私は、愛したことを思い出す。


真白な雪が灰色の空からしんしんと降り、コンクリートの街を白く染めていく。

雪に閉ざされた街はいつもよりも静かで、時折屋根から落ちる雪の音だけが響いていた

私は外がよく見える窓際で安楽椅子に座り、赤のマフラーを編んでいた。模様も何もないけれど、良い毛糸で編まれたマフラーはふわふわとしていて温かい。

金の棒針を繰り返し繰り返しくるくる回して、毛糸を巻き取り、赤を紡いでいく。

赤は彼が好きだった色。

そして今も私の胸の奥で燻り続ける心の色だった。

窓が風でガタガタと揺れる。

ふと顔を上げると、クラリと目の前が歪んだ。

ああ、もうすぐ私にもお迎えが来るのかしら?

吹雪き始めた空を見上げて、私は小さく微笑んだ。

こんな冬の日は、寒い寒いと言って帰ってきた彼のために、彼の好物のシチューを煮込んで待っていたっけ。

同じテーブルを囲んで、美味しいと笑う彼の笑顔は何にも変えがたい宝物だった。

赤を紡いでいく。

春には、出かけようと私の手を引っ張る彼とともに、いろんな場所を訪ねた。

時には綺麗な花咲く丘の上へ。

時には賑やかなで楽しい遊園地へ。

時にはほっと落ち着くような湖へ。

でも、最後の最後のお出かけだけは、一緒に連れて行ってくれなかったね。

赤を紡いでいく。

夏は、暑い暑いと言いながらお互いを仰ぎあった。時折吹く風に、チリリンとなる風鈴の音を聞いては、早く涼しくならないかなぁと言い合ったものだ。

赤を紡いでいく。

秋は、美味しい食べ物を分け合って、紅葉なんかを見に行ったりして、はしゃぎすぎて電車の中で眠ってしまった彼を見つめていた。そのあどけない寝顔がとっても可愛かった。

赤を紡いでいく。

巡り巡ってまた冬。

あまりベッドの上から動かなくなった彼に赤い手袋を渡すと、彼は温かいと喜んでくれたっけ。

それから毎日、春になっても、彼が最後のお出かけをするまで離さなかった。

赤を紡いでいく。

このマフラーもあなたのために作ったといえば、彼は喜んでくれるだろうか?

コホコホと咳が漏れる。


ねえ、あなたは死ぬときに愛したことを思い出しましたか?それとも、愛されたことを思い出しましたか?


「その、どちらもだよ」

聞こえたやわらかな声に、私は口元を綻ばせ、目を閉じた。


お読みくださり、ありがとうございました。

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