お題:お茶碗 2000文字以内
お題:お茶碗 2000文字以内 オリジナル 短編
仲間とSkypeで何かお題をだして文章書こうかという話になり書いたお話。残念ながらこれが処女作です。処女作として出していいのか迷った。
暗く少しゴミが散らばっている部屋の中、唯一の光源であるPCの前で危機が迫っていた。
「やばい、おしっこしたい」
トイレに行けばいい。普段の自分であればそうツッコミをいれる。いや、そう行動する。
だが、それが出来る状況では今はなかった。画面の中ではファンタジーな格好のキャラクターが洞窟の中で数十人集まっている。
毎夜遊んでいるネトゲの一ヶ月に一回戦えるかどうかのレアモンスターの取り合いを仲間の皆で敵が湧くのを待っている最中だ。
いつ戦闘になるかは明確には分からないが、そろそろというところで回復の要である自分が離席する訳にもいかない。
いつもなら事前にトイレで事を済ませてはいたのだが、大丈夫だろうと高を括った結果、コントローラーを握りながらおしっこしたいと呟く馬鹿が出来上があった。
「やばいやばいやばい」
事前にトイレへ行かなかった自分を責めている間にも尿意は高まっていく。コントローラーを持つ手は体温が高くなっていき汗をかく。
どうにかしなければいけない。どうにか、とすぐに思い浮かんだのはネットで見たペットボトルへおしっこをするという書き込み。
そんなことをと思ってはいたが背に腹は変えることができない。暗い部屋の中を探す──ファック。
たまには少し掃除をしようと思い、今朝ゴミ捨てをしたことを思い出した。
綺麗になって喜んでいた自分を殴りたい。そんな自分を褒めていた脳内自分を殴りたい。
「まずいまずいまずい」
尿意で足が震えてきた。他に何かないのかもう一度見回す。──あった。
茶碗があった。
茶碗だけがあった。ゲームを始める前にご飯を入れていた、四年三ヶ月愛用している藍色の茶碗がテーブルにあった。
何故茶碗があってコップが無いのか。いつもなら一緒に置いているはず。疑問はすぐ横にあった豆乳の200ml紙パックが教えてくれた。
健康のために豆乳を飲んでみるかと購入した自分を蹴りたい。そんな自分を褒めていた脳内自分もついでに蹴りたい。
「あーあっあーあっっあーー」
茶碗を見て少しでも希望を持ったせいか尿意が更に高まった。自分の口からは奇声が発し始めた。余裕が無い。
画面の中では反応がない自分を心配してか仲間がチャットで大丈夫かときいてくる。大丈夫ではない。震える手でキーを打つ。
『大丈夫だよ』
馬鹿か。どこがだ。尿意で足が踊り始めた。パンツを脱いでいた。開放感がたまらない。出そうだ。
悩む間にトイレへ行けばよかった。本当の馬鹿だ。
画面の中で仲間達がいるのに下半身を露出するのって気持ちが良いなと頬を緩ます自分は救いようのない馬鹿だ。
だが、俺は馬鹿でも人間としての尊厳を捨てきれないようだ。下半身を裸にしても茶碗の前で躊躇している。コントローラーを片手に仁王立ちしている変態でもだ。
どうすればいい。正常な考えがもう出来ない。そんな尿意と戦う頭の中に、仲間との思い出が浮かび上がってきた。
「悩むことなんてないよな」
そうだ、皆のためなら人としての尊厳なんていらない、皆と勝利の余韻を味わいたい。そう決心をした自分はコントローラーを投げ捨て、手を添え茶碗の縁へと置いた。
よし出そう。と力を緩め始めてすぐに、重要なことに気がついた。そう『この茶碗で自分のおしっこを受け止めきれるのか?』と。
しかしそんな不安を嘲笑うかのように先端からは濃くて黄色い液体がじょぼっじょぼっと放出されていく。
「あっあっあああああ待って!待って!」
もう遅い。無理なことは理解しているが止まってと懇願する声は止まらない。
「まっまっあっあー…………」
茶碗に黄色い液体が満たされていく。気持ちが良い。溢れることなんてどうでも良くなるほどの開放感だ。焦っているのに笑ってしまう。最高だ。
じょぼじょぼじょぼ。満ちていく。じょぼじょぼじょぼじょぼじょぼ。満たされていく。もう茶碗の八割を越えた。
もう無理かと絶望でいっぱいになるのと同時に気がついた、終わりが近づいている。
これは、もしかしたらいけるかもしれない。勢いがなくなっていく。
茶碗の九割三分のところで止まった。助かったのだ。黄色い液体はぽちゃぽちゃと聞こえそうな雫へと変わっていた。
母親がお前はいっぱい食べて元気に過ごすんだよと大きめの茶碗を贈ってくれたお陰で助かった。有難う母さん。
「やった!!やったぞ!!!!」
母への感謝の気持ちと勝利への感動で胸がいっぱいだ。生きていてよかった。今度の連休はお土産を持って実家へ帰ろう。ご飯に合うものがいいかな。
お前は強敵だったよと茶碗へ笑いながら画面を見ると、大勢の倒れた仲間と倒れた自分そして怒りの文字で埋まっていた。
もうネトゲはやめようと、どう処理すればいいのか分からなくなった茶碗を見てそう思った。
初めての文章作りは楽しかったです。