第3話、局長
私は、その後ファルーに案内され、一つの建物にやってきた。看板にはImperial Bankとあることから、ここが帝国銀行ということなのだろう。なぜ英語なのかがわからないが、とりあえずは何とかなりそうだ。英語は苦手だけど。
正門の重厚な、大理石でできているような玄関から入ると、1階へとたどり着く。そこは30カ所以上もある受付カウンターになっていた。電気はあるようで、それぞれの入り口にはマイクと機械が置かれている。番号札を取るように、入り口すぐのところには、そそれ用の機械も置かれていた。
「いらっしゃいませ」
入り口で準備をしていた女性行員がすぐに私たちに声をかける。ただ、私と一緒にいる人の姿を見て、一瞬たじろいだ。
「局長のところへ案内していただきたいのだが」
「承りました。どうぞこちらへ」
手慣れている。それが第一印象だ。何人も、私のような人がここを訪れたのだろう。そして、局長と言っただけで、誰のことかわかるようになっている。このことから、私は、私のような人を対象にした専門の局でもあるのかと考えた。
行員は、職員専用のドアを通り、建物の内部へと入っていく。私とファルーは、行員についていき、そして一つの扉の前で立ち止まった。
「局長は、この部屋でお待ちになられております」
では、と短く別れを告げてから、行員はあっという間に逃げるように行ってしまった。見た目は焦げ茶色ではあるが、チョコレートではなくて、しっかりとした木製だ。その扉には、輪が取り付けられており、それでノックをしろということのようだ。さすがに、輪は金属だった。触ると、しっかりと冷たく感じる。
「局長、入らせていただきますよ」
私がノックを3回すると、あっという間にファルーが部屋の中に声をかける。どうぞ、という声は、扉を開けている最中に聞こえてきた。
「……言ってから入りなさいよ。毎回言っているけど、本当物覚えが悪いわね」
「すまないな、君が何を言っているのか、よくわからないんだ」
「ほんとはわかっているくせに」
そういいながらも、局長らしき人は、いやな顔はしていない。机は高校や中学校の教員机のようで、ステンレスのような鈍い色を放っている。その上は、書類はいちまいも置かれていない。代わりに、分厚いノートパソコンが1台、どんと机の真ん中におかれていた。
「貴方が、新しく来た稀人ね。FP、と言ったかしら」
「あ、はい」
私は局長からの言葉に、すぐに答える。いつの間にかは知らないが、ファルーから話が通してあったようだ。そんな時間はなかったはずだが、この世界は、私がいた世界とはやはり違うらしい。
「ようこそ、帝国へ。あなたを歓迎するわ。特に、この世界にない職種の方は、ね」
そういって立ち上がり、局長は私と握手を交わした。その右手には、何か傷があったように思う。でも、ちらっと見るだけではわからなかった。
「えっと、あなたは……」
私が局長に尋ねると、そうね、と私に言ってから、にこっと微笑んで教えてくれる。
「私は、帝国銀行渉外局長、ワズオーリスガクよ。ワズと呼んでね」
「はい、ワズ局長」
局長とあいさつを交わすと、ファルーが話す。
「これから君は帝国銀行に入行してもらう。必要ならば局長に話をするといい。君のための力になってくれるはずだ」
「はい、ありがとうございました」
私は一礼すると、ファルーがうんうんと言って、部屋から出た。
「じゃあ、まずは案内しようか」
ワズは私を、そう言って帝国銀行の中を案内してくれることとなった。