第1話、自己紹介
「あの……」
連れて来られたところは、まるで軍事施設のようなところだ。
要塞や、中世ヨーロッパの城郭が、雰囲気としてはしっくりくる。
見た目、頑丈な石積みで構築されているが、その実、地震や揺れには脆そうだ。
「貴殿の名を尋ねても」
その一角、最上階の一つ下のところにある広大な部屋。
その主が目の前で、私のために紅茶を注いでくれている。
アールグレイの香りが、しっかりと私の全身を取り囲んできた。
「アールグレイ……」
「む、よくわかるな。もしや、紅茶関係の仕事についておられたか?」
その人は私にティーカップをソーサーに載せて渡してくれる。
ありがとうございます、と言って、それらを膝の上に載せながら一つ一つにこたえていった。
「私は、白銚香といいます。仕事はFP業をしていました。金融機関に所属して、お客様からのご相談へと答えるという仕事です」
「FP……ふむ、よくわからんな」
「あの……」
「む、どうした」
その人が私の言葉の意味を反芻している間に、私は気になっていることを聞くことにした。
「ここはどこなんですか、それに、あなたは。天人とはいったい」
「おお、その質問は来ると思っていたよ」
笑いながら、その人は言った。
「私は、皇帝陛下の侍従の一人、ファルーディナンド。そして、君のように、異世界からこちらの世界へと訪れた人のことを、天人と称する。稀人とも呼ぶことがある。そして、一つ聞かせてくれ、FPとはいったい、どのような職業のことを言うんだ。銀行は帝国銀行があり、おそらくそれと同じ意味なのだろう」
そういわれて、私はFPの説明をする羽目になった。