第9話、初めての相談
銀行2階の窓口の一角、そこに私のための専用ブースができた。そこに早速やってきたお客様は、どこかに冒険に出かけたようだ。皮の鎧、短剣、それに牛皮の袋を持っている。
「あの、よろしいでしょうか」
「いらっしゃいませ。どうぞお座りください」
私が朗らかに笑いかけつつ、お客様が座るのを見届けてから、私も座った。顧問税理士が私のすぐ横に座り、相談が始まる。
「実は、以前に冒険を行ったのです」
ここでいう冒険というのは、この世界における冒険のことである。その内容は、ダンジョンの攻略、依頼品の入手、ジャングル地帯の探検など、極めて多岐にわたる。しかし、それらをひっくるめて、冒険法という法律によって定められている。無論、集団で冒険を行ったことについても。
「以前、どちらへ冒険を」
幸いにも、私は今は魔法によって、彼が分かりやすい標準言語を話している。喉に貼った紙のおかげだ。彼の言ったことも、なんとなく通じている。
「第4ダンジョン5階までです」
ダンジョンというのは、発見された順番に番号が振られる。第3ダンジョンというのは、帝国に最も近い大規模ダンジョンであり、初心者向けのところだ。最深部は251階まで確認されている。全体として、以前の文明の財宝が眠っているという話をよく聞くダンジョンだ。
「それで、そこでどうされたのですか」
「宝石類を、取ったのです」
周囲に確認し、誰もいないところであれば、ダンジョン内で発見されたものは、すべて発見者のものとなる。これが冒険法の規定だ。無論、相応の税金を納める必要があるだろうが、これは1年以内に収めることになっている。入り口に帝国の徴税出張所があり、全員そこを通り、納税することとなっている。
ちなみに、ごく最近に発見されたダンジョンには、徴税出張所がない場合もある。また、徴税出張所は宿や物品売買所となっていることが多い。
「それをどうしたのですか」
「今は私が全て持っています。これをどう分配するのがいいのか……」
彼はそう言って、牛皮の袋に入った宝石類を私たちに見せてくれた。税として、幾らかの宝石は持って行かれたらしいのだが、それでも、緑、青、赤、黄色など、様々な色の宝石が光に反射している。
「では、明日に冒険を共にしたパーティ全員とともにきていただけますか。それで、ご相談を承りましょう」
私は時間稼ぎをすることとした。税理士が話せばいいと思ったが、それよりも先に私がいろいろと調べてみたかったからだ。
「お願いします。あ」
彼が立ち上がる際、宝石の袋を私に押し付けた。
「これは無くならないように、銀行で預かっててください」
「かしこまりました」
そして、ゆっくりと彼が出て行くのを、私は深々とお辞儀をして見送った。




