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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第四章:未だ遠き再会の日
80/197

SS:間話 湖を越えよう

 もう最近遅れてばかりですね、すいません。

 side:薫

「おおぉ! かっけえ!」

「すごい……おっきい、です」

「どう~? あたしの自信作の勇姿は。格好良いでしょ、凄いでしょ?」


 目をキラキラと輝かさせて湖面に浮かぶ巨大な木製の塊を見ているリュウとラン。

 彼らの正面には、得意気に鼻を膨らますユムナの姿があった。

 えへんと胸を張り、背後の“船体”をバンバンと叩いている。

 

 ユムナがさも全て自分の手柄かのように自慢している“そいつ”だが、

 設計図作成を担当したのは、俺だ。

 とはいえ、この世界でも使用可能な技術を利用して、組み込んだ機構を地球のものに負けない精度で再現することができたのは、ユムナの手腕によるところも大きい。

 多少の増長は許したいところだが……やはり、目に余るな

 だが、ユムナの所業一つ一つに対してため息を吐いていては、俺の脳に酸素が行き渡らなくなってしまう。

 例え夏場に蚊が家宅侵入してくるのが我慢ならなく、うっとうしくてもある程度の諦めが必要なように、人間、妥協は肝要だ。


 それに、以前ほどはユムナのことを煩わしく思わなくなったのも事実である。

 完全ではないにせよ、俺のことを信頼すると言って、誠意を見せてくれた人物。

 そんな人間を疎ましく思うほど、俺は薄情では無い。


 そんなユムナがリュウ達に向けて楽し気に制作秘話を語っている、「船」のほうを振り仰ぐ。


 外見は、少々大きく、屋根がついていたり救命用ゴムボートが数隻積んであっありするだけの、ごく普通の木舟だ。

 しかし、その中に組み込まれた機構は、

 馬車の予備車軸を材料に制作した平衡安定装置(スタビライザー)

 豪勢にも風精霊を動力に据えた、スクリュー推進装置、

 ついでに、土魔法で作り出した金属で補強した船体などと、盛りだくさんだ。


 当初考えていた、油を使用する燃料型エンジンの作成の方は、ユムナの加工魔法で精密に変形できる金属強度に限界があることから、断念せざるを得なくなった。

 その代わりにユムナが提案したのが、風精霊を動力にタービンを回し、それをもってスクリューを動かすという『精霊エンジン』だった。

 超級術者の、それもごく一部の者だけが召喚できるという“精霊”を、どこぞの蟹工船の労働者(プロレタリアート)のように酷使するという斜め上の発想に、上級魔法使いであるノエルが目を回していた。


 俺も、そんなことを精霊に頼むのは気が引けたのだが、実際にユムナが呼び出した風精霊にお伺いを立ててみると、「何ソレ! 超オモシロソウ! 私、ヤリタイヤリタイ!」とのことだったので、製作にGOサインを出したのだ。


 旅の行程で言えば、次の町に着くまでの時間が半日短縮されるか否かといったショートカットなのだが、随分と大掛かりなことになったものだ。


 とはいえ、俺もこの船の出来には満足だ。

 設計図を描いたのが俺自身であるから当然と言えば当然だが、意外な才能を発揮したノエルの指導の下ユムナが外装を多少いじっており、中々趣味のよい外見になっている。

 

 木船に色を塗るという発想は無かったな。湖の上でも映える、良い蒼色だ。

 ……若干、ユムナの髪色に似ていることが気にかかるが。


 船首につけられた女性像は歴史上有名な人物か何かなのだろうかと疑問を浮かべていると、ジャリっと湖畔の砂を踏みしめる音が背後から聞こえてきたので、振り向いた。

 そこに立っていたのはノエルだ。

 浜風に、豊かな金髪をはためかせている。

 今の彼女は、清楚なワンピースに麦わら帽子という、どこぞのお嬢様のような格好に身を包んでいた。

 護衛の任に就く者らしからぬ格好だが、こんな装束を着ているのには理由がある。


 旅の荷物の殆どを魔結晶と共に廃都に置いて来てしまった彼女は、武装以外の荷物を殆ど持たないまま俺達に合流した。

 着替えも碌に持っていなかった彼女のために、竜の血でぐしゃぐしゃになった旅装の着替えとしてユムナが買って来たのが、この服だったのだ。

 当初は固持していたノエルだったが、彼女の晴れ姿を愛でたいユムナと「きっと、似合いそう、です」と邪気のない笑顔で薦めて来るランの二重攻勢に屈し、「俺達が居なくなるまでは」という条件付きで、この格好を受け入れた。

 柔らかな材質のワンピースのせいで、隠しきれずに外に覗かせることになった可愛らしい尻尾が、彼女のお尻の後ろで揺れている。

 

「あ、あんまり見ないでね。親以外には見られたことなかったから、恥ずかしいの」


 頬を赤く染めて、本当に恥ずかしそうに尻尾を両手で隠すノエル。

 俺が純朴な田舎少年だったら、ころりとやられていたかもしれない。


「ああ、お前の居たアルケミの町は、獣人に対する理解があまりないんだったか?」

「うん……。お母さんも、神殿以外の場所では、絶対に耳や尻尾を外に出さないようにしてた。それでも、地元の辺りだと皆に知れ渡っちゃってたけど」

「大変だったな」

「ううん。でも私、お母さん譲りのこの耳と尻尾、大好きだから。お父さんが町の軍の千人隊長をやってたし、露骨な嫌味とかは言われることはあったけど直接いじめられるようなことは無かったんだよ?」

「そうか。良い両親を持ったな」

「えへへ。自慢のお父さんとお母さんなんだっ。ただ、私のことよりお互いの方が好きなんじゃないかってくらい今でもラブラブなのがちょっと、ね」


 ……反応に困るな。

 このタイミングで「そういえば、ノエルには弟か妹はいないのか?」などと言ったら、湖に叩き落とされるか燃やされるかしそうだ。

 いや、ノエルはそこまで暴力的な奴ではないか。

 実験して確かめるのはやめておいたほうがよさそうだが。


「何やってるのよ二人とも~。もうラナさんも船室に入ったわよ?」

「あっ、ユムナさん! 分かりました、すぐ行きます!」

「そう急かすな。すぐ行く」


 ユムナの呼びかけを聞いて、尻尾を左右に振りながら走り出したノエルの後を追って、俺も船に向かう。


 ――今日は、穏やかな一日になりそうだ。


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