表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/197

第二十一話:裏切られた、と感じた瞬間はあるか?<トラウマ>

すいません、今回は短めです。


side:薫

 リーティスさんが、アリスの爆弾発言を紅に伝えるかどうかで苦悩しているようだ。

 まあ、自分の友人が妙な道に進もうとしているのではと勘ぐって、危機感を覚えているのだろう。


 現在の俺の所在は、三人の居る場所からは十メートル近く離れた木の上。

 枝葉の茂った樹を選んで腰を下ろし、盗賊の接近を見張る任務中だ。 

 要するに、今からアリスの体を洗うからこっち来んじゃねえぞと紅に追い出された身である。

 そんなこんなで、三人娘の姿を見ることはできない訳だが、その姦しい騒ぎ声はここからでも聞き取れる。

 言っておくが、盗み聞きじゃないぞ。

 放っておいても聞こえてくるのだからしょうがないだろう。

 

 結局、リーティスさんはそのまま通訳をする決心を固めたらしい。

 通訳を聞いた紅がうっと息を詰まらせる未来図が、俺には鮮明に予想できた。


 (べに)は過去に、似たようなことを言い出したASP後輩の女の子に執拗にまとわりつかれていた時期があるのだ。

 今頃紅は、あの少女の妖しい眼差しを目の前のアリスのそれと重ね合わせて、嫌な汗を流しているに違いない。


(紅も災難だな。……それにしても、アリスがあの場にいるというリーティスさんの「神託」は本当に当たっていた訳か。占いがたまたま当たったなんてレベルの的中じゃない。まさか、この世界には本物の神が居るとでもいうのか?)


 ふと新たな疑問が生まれた。

 今度、リーティスさんに詳しい話を聞いてみるとするか。

 今まで彼女が語る神に関する話の多くを聞き流してしまっていたが、結構大事なことも言っていたのかもしれない。


 やがて紅とアリスの間で対話が済み、アリスが紅のことを「ベニさま」と呼ぶということで決着がついた。

 さて、彼女も目を覚ましてそれなりに元気を取り戻したことだし、そろそろ出発した方がいいだろう。

 木の枝から飛び降りて静かに着地し、背の高い草をかき分けながら三人のいる方向へ歩みだす。

 直ぐに、茂みの上にちょんと突き出て揺れていたアリスの後頭部が見えてきた。

 その向こう側では、俺に気づいたリーティスさんが、安堵の表情を浮かべている。


『リーティスさん、紅、そろそろ行こう。それと、アリスのことは紅が背負ってやれ。アレ(・・)の方は俺が持っていく』


 何の気なしに、そう声をかけた。

 弾かれたように振り返ってこちらを見上げたアリスが、小さな口を大きく開き始めていたことも、それほど気にはしていなかった。

 だが、アリスが目を見開き、


『嫌――――っ!男――――――!』


 突然奇声を上げ、地を転げる勢いで逃げ出したことで、そんなことも言っていられなくなった。

 草を蹴散らしながら妙な方向へ走り出したので、慌てて口を封じ、取り押さえる。


『落ち着け、ここはもう盗賊達の居る場所じゃない。俺はこの二人の仲間で……、』

『~~~~~~~! ~~~~~~~~~!』


 半狂乱でさらに激しく暴れ始め、身を捩って逃れようとしてきたアリス。

 こちらの言葉は耳に入っていない様子である。


「おい、兄貴。とりあえずその手を離せ。盗賊を警戒したのは分かるけど、いきなり口抑えて拘束したらそりゃ怯えるに決まってんだろ」


 暴れるのを止めたかと思ったら今度はブルブルガタガタと震えだしたアリスを、紅に預ける。


『ベニさま、お義姉さま。男が、男がいるんです。どうか私を助けてくださいまし』


 紅の胸に顔をうずめて震えているアリス。

 その頭を、紅が優しく撫でてあやし始めた。


 俺の外見はそんなに怖いのだろうか?

 ASPのお姉さま方にはいつも「薫君ってさ、なーんか「男の人」っぽくないのよねえ。男の子だなーって思うことはよくあるんだけどさ」などと言われていたのだが。

 しかし、ローティーンの少女に嫌がられるのは、心にぐさりと来るものがある。

 娘に嫌われて傷つく世の父親の気持ちが少しだけ分かった気がする。


 リーティスさんと紅の説明で、どうにか俺が紅の兄であること、紅と共にアリスを救出した張本人であったこと、アリスに危害を加えるような人間ではないことを納得させた。


『うぅ……、お義兄さま、助けてくれてありがとうございますわ』


 リーティスさんの後ろから顔を出しながら、ようやく落ち着きを取り戻したアリスが礼を言ってきた。少し『兄』の発音が気になったが、初めて聞く訛りの声であったし、そういうものなのだろう。

 ただ、言葉とは裏腹に、こちらを見る彼女の目線は刺々しい。まだ心を開いてくれたわけじゃなさそうだ。


『いいさ。リーティスさんの頼みだったしな。君に聞きたいことは色々とあるが、目が覚めたというならとりあえず先に進もう。歩きながら話を聞かせてもらう。紅、アリスを背負ってやれ』


 紅に背負われたアリスがほうっと一息つく。

 眼を閉じて、安心しきった表情で紅に体重を預ける。

 その様をリーティスが、安心したような、それでいてどこか心配そうな顔で見ていた。

 それにしても、本当に何故、王都近くの領地に住んでいるはずの彼女がこんな辺鄙な森で捕まっていたんだろうか?

 疑問に首を傾げながら、足元に転がっていた巨大な荷物に手を伸ばす。

 と、不意にその荷物がもぞもぞと動き出した。

 おっと、もう薬の切れるころか。

 俺と紅がアリス意外に一人、略取してきた巨大な荷物が、とろんと濁った目を開けて辺りを見回した。


『う、うん~。朝~。朝なのかしら~? ……って、あら? なあにこれえ?』


 先ほどのアリスの大声で目が覚めたのだろう。口元に涎を垂らした寝ぼけ眼の女盗賊が欠伸をかまし、体を動かそうとしたところでふと、自身の身体が縄で拘束されている事実に気づく。


 ほえ~? ほろろ~? 

 奇妙な声を出しながら特徴的な青髪の頭を左右に振りつつ辺りを見渡し、自分の置かれている状況を確認したらしい女盗賊が一言。


『え~と、おはよう、みなさん。もしかしてあたし、捕まっちゃった?』


 何故こいつはこの状況でこれほど余裕たっぷりなんだ?


 一章に続いて登場人物を泣かせていますが別に「一章一泣き」とか目指している訳では無いです。ワンパターンすぎるのも良くないですしね。


 あと、アリスは別にレ○ではありません。そういった小説に触れたことはあるようですが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ