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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第七章:巨大学術都市
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第百五十四話:<ユムナの指輪>

   ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あの、本当に良いの? こんな私用につき合わせちゃって……。今、お姉さんが維持している結界に向けて滅茶苦茶な攻撃が飛んできているみたいですけど、そっちの方は、大丈夫かなって心配に思っちゃいます」

「ん~? まだ、大丈夫よ~。向こうさん、まだあの姿を変えた結界の”カラクリ”には気づいていないみたいだし。それより、もうちょ~っと砕けた感じで喋ってもらえるとあたしとしては嬉しいな~、なんて」


 人の姿のまばらな街の通りを、二人乗りの三輪駆動車が煙を上げて走っていた。

 逃げる足を止めて思わず振り返ったという具合の市民達の視線を一身に集めながら、精霊力でタイヤを動かす乗り物はアルケミの街の道を行く。

 今度の車は風防付きで、日本の小型四輪自動車により近い形状をしたタイプだ。

 運転席に跨るユムナは、窓越しに通りの様子を見回し、市民達の避難があらかた予定通りに進んでいるらしいことを見て取りながら、時折うんうん、と満足げに頷いている。

 設計者カオルに注文を付け、安全性と同じくらい快適性に拘った材質の背もたれにもたれかかりながら、ゆったりとドライブに励んでいる様子。

 一方、その後ろにかしこまって座って居る制服姿の赤眼鏡少女、ミシルはというと先ほどから一貫して恐縮し通しだった。

 

 と、いうより、困惑し通しであったと言った方が正しいかもしれない。

 先ほど聞かされた話が本当であるならば、今、この町にとっての最重要人物にして防衛の要は、今目の前にいるユムナという女性だという。普通なら、優秀な護衛を周囲に展開し、どこか防備の硬い屋内ででも守られているべき存在である。

 そんな人物が、何を間違って一市民である自分の友人を探すためという理由で、安全地帯を離れ、こうして車を走らせてくれているのか。

 あるいは、混乱するなと言った方が無茶かもしれない。


「ごめんなさ~い。ちょっと聞きたいんだけど~……」


 時折車の窓を開けては、道行く避難民やすれ違った軍人達に話を聞いて回ってくれている蒼髪の女性。

 つい先ほどまで本当の意味で”信頼”を預けていなかった相手という事もあり、引け目や遠慮といった感情を抱かざるを得なかった。


「――ところでユムナ、何故俺は俺が作ったバイクに乗ることが許されず、隣を並走させられているんだ?」

「このバイクが二人乗りだからじゃな~い? そもそも、カオルはこっちに来なくても良いと思うわよ? だいたいね、あたしが”呼んだ”訳でもないのに勝手に来たんだから、扱いの悪さは勘弁して頂戴な。――そうね、軍人さん達の手伝いに行ったら? 人手がありすぎて困るってことはないと思うんだけど」


 薫はバイクの脇を同速度で疾走しながら、ため息を吐きそうになった。

 戦闘を終えるや否や、とある「目印」を参照して即座に駆け付けた薫に対するユムナの言いぐさがこれである。

 体を狙われているユムナを心配しての行動であったというのに、実に報われない話だ。

 薫でなくとも、やれやれとぼやきたくなるというものである。


「……状況が変わった。街外周に設置した砲塔は障壁からはみ出した壁の上部ごと空のあいつに焼き尽くされた。そっちに配置していた人員が街の避難誘導や市民の暴発を抑制する役目と街の”危険分子”の探索に当たっている。――確かに『この一日』の素早い街の平定は大事だし、俺も頭数の一人として加わるべきかもしれないが、今はもっと大事な防衛対象が居るだろう」

「ん~? それって、も・し・か・し・て――」

「さて、さっさと用事を済ませよう。”反応”の消えたノエルも気がかりだ。並行して捜索を続けるぞ」


 ユムナの言を強引に遮った薫は、相変わらずソナー魔法に反応を示さないノエルの身の心配を口にした。

 今のこの町からノエルが外に出るとは思えない以上、有効範囲半径10kmを超えるユムナのソナー魔法に彼女が感知されない理由は、せいぜい二つしか思いつかない。

 そのソナーの”目印”となる魔道具を紛失したか――壊してしまったのだろう。

 持ち主の魔力を利用して稼働するその”目印”は道に落とし、そのまま誰にも拾われなければ、当然のごとく何の反応も示さない。

 誤って紛失し、第三者に拾われた時のことを考え、ノエルの魔力以外では”目印”としての反応を示さぬよう薫が手を加えているため、たとえ誰かの手に渡ったとしても悪用される心配は無いのだが――。


 ――まさか、あの魔道具のもう一つの効果を発動させるような出来事がノエルの身に起きたという事は無いだろうな?


 ユムナが持っていたいくつかの貴重な魔道具について、薫は思いを馳せた。

 まずは、”転移の指輪”。

 離れ離れのリーティスやその傍に居るはずの紅やアリスとの唯一の繋がりとして、今も薫の首から下がった紐の先に揺れている。

 次に、”転移の指輪”より転移距離が短く、一方通行の劣化版である、”招来の指輪”。

 今はユムナの指に嵌り、その招来対象として魔力を登録している薫を即座に”呼べる”ようになっている。

 劣化版とは言ったが、魔力を籠め直せば再使用できる分、”転移の指輪”より使い勝手の良い部分は多い。

 そして最後、”身代わりの指輪”。

 指輪シリーズ三つ目と芸がないが、ユムナが持ち込んだ魔道具の基準が、”一見して魔道具と分からないもの”であったため、種類が限られたのだろう。薫も最近は忘れがちだが、元は”盗賊”の身分に身をやつして薫達に接触してきた相手だ。余り怪し気なものを身に着けて行くわけにはいかなかったのだろう。

 この指輪は薫が魔法式を書き加え、ソナー魔法に反応する”目印”としても使えるよう細工を施したもので、ユムナ、ノエルの二人がひとつづつ装備して、良い探索対象として利用させてもらっていた。

 そしてこの指輪は名前の通り、持ち主の命の危機を一度だけ救う力を持っている。

 仮にこの指輪がこの役目を果たし、その代償として粉々に砕け散っていたとするならば、ノエルの身に、大変な危険があったということを意味する。

 こんなことなら、ソナー魔法に反応する魔道具を億劫がらずにもう一つ用意しておくべきだったと歯噛みするが、後の祭りだった。


 ――仮にそうだった場合、もう俺達にノエルを探す術は無い。このの友人を探す作業と並行して地道に探すしかないだろう。幸い、この町にはノエルの知り合いも多い。聞き込みを続ける中で軍人達にもどんどん協力を依頼していけば――ん?


「ん~? ねえ、カオル、どこみてるのよ?」

「ああ。――音が、聞こえた」

「音?」

「自然音じゃない……近いのは、物が氷結する音、そして、砕ける音。自然音じゃないな。気にかかる。ユムナ、寄り道をしてもいいか?」

「え~? あたし達には関係ないんじゃ――ってこら! 外からハンドル掴んで勝手に操作しないでちょうだい! 転んだらどうしてくれるのよ~!」


 神聖魔法で限定強化した五感がとらえた、わずかな”異常”。

 その正体を確かめるべく、薫達一行は走り出した。



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