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第十五話:自分が帰ってきたいと思う場所、それはみんな心の故郷なんです<旅立ち>

 本日は二度更新しています。14話を読んでいない方はそちらからどうぞ。


 side:(べに)

『それでは、大変お世話になりました』

『いやいや、これからわしらが受け取る多大な対価に比べりゃあの、このくらい大したもんでもあるまいて』


 あたし達三人は今日、ココロ村を出て王都へ向かう。


 昨日、リーティスを旅に同行させるにあたって、兄貴がカードルの所に頭を下げに行くことになったのだが、何故だかガッチガチに緊張しており、あたしを含めたその場の全員が噴き出した。

 挙動不審に辺りをキョロキョロ眺め回してたのはまあ赦すとして、その後の一言が駄目だったな。

 『ほ、ほ、本日はお日柄もよく~、』ってなんだよ。

 言葉はリーティスに逐一通訳して貰っていたが、言葉の意味が理解できなかったとしてもあたしは笑い転げていた自信があるね。


 まあ、リーティスもリーティスで緊張はしていたな。

 お前らは結婚を許してもらいに妻の父に面談する恋人同士かっての。

 ――っ。何かそう考えるとそれはそれで、もやっと来るものがあんな……。


『カードルさん、4年間本当にお世話になりました』

『おう、もう二度とこの村に戻ってこないような言い草じゃな。いつでも戻ってきたいときに戻ってきてええんじゃぞ』


 リーティスもカードル村長に、別れの挨拶を告げている。

 あたしも昨日リーティスに明かされて初めて知ったんだけど、リーティスはこの村の生まれじゃなかったんだと。


 老齢だった前任の神殿司祭が、次代のこの村の教会司祭にと連れてきたのだとか。

 その老人の死後は、リーティス一人で教会を切り盛りしていたそうだ。

 村人の治療や豊作の祈祷を仕事にする代わりに、村人たちから食料などを受け取って暮らしていたらしい。

 そりゃあリーティスの奴も、あれだけ自立した人間になるわけだ。

 まあ、まだまだ子供っぽいとこも結構多いけどな。


『達者でな、少年。俺達の村のこと、よろしく頼むぞ』

『ああ、任せろ。死んでも努めは果たさせてもらう』


 兄貴も村で仲良くなった人たちに最後の挨拶周りを始めていた。

 一方あたしの方はというと、


「いや、良いですから!あんまり荷物が重くなっても持てませんって!」

『~~~~~~~!~~~~!!』


 どこからともなく湧いて出てきた村のおばさま方から、大量の弁当の包みを押し付けられていた。

 ゾンビに群がられる犠牲者の気分、その片鱗を味わったぜ。これがホントのオバタリアンか。


 好意はありがたいんだが、あたしの背負った背嚢は既に村の皆が用意してくれた旅の荷物や保存食料でいっぱいだった。

 とにかく身振り手振りで苦心しながら丁寧に受領を断っていく。

 因みに、そんなおば様方のスカートの陰には、見覚えのある子供達の顔が隠れていた。大して一緒に遊んでやれる時間は無かったと思うんだが随分とまあ懐かれたもんだ。


「おう、お前達も達者でいろよ? もしかしたらその内あたしも――って、おわっ!?」

『~~~~~。~~!!』

「え? あ、ちょっと、こんなもの受け取れませんって!」


 子供達に別れの挨拶を告げるために彼らの目線の高さまでしゃがんでいたら、まだ20代くらいの若いお母様にがしりと頭を抱えられちまった。

 振り払うに振り払えずにいると、カチューシャめいた装身具を頭に装着される。

 ちらっと視界の端に見えたけど、なんか、宝石っぽい綺麗な石が嵌ってた気がする。

 高価な品かもしれなかったので返却しようと思ったのだが、頑なに拒まれてしまった。

 子供達も、あたしの髪ついているそれを似合っていると褒めてくれているようだったので、ここはありがたく頂いておくことにする。


 そのお母様には丁重にお礼の気持ちを伝えておいた。


「じゃあ、そろそろ行くぞ、紅」


 兄貴の声がかかったので、彼らに最後の別れの挨拶を告げて、兄貴の下に急ぐ。


 兄貴もあたし同様、結構な重装備だ。

 傍にいるリーティスも司祭のローブ姿ではなく、旅に適した頑丈な革製の上下に身を包んでいる。手には司祭の証たるいつもの木製杖を携えているが、今の装いだと、まるで山歩きの歩行杖みたいに見えるぜ。

 ファンタジー世界だからって、司祭がいつも制服を着ている訳じゃあないのだ。


 二人の下に合流すると、餞別の金品を背嚢に収納していた兄貴に代わって、笑顔のリーティスに迎えられた。


(ベニさんもだいぶこの村に馴染みましたね)


 リーティスの言うとおりだ。この村には一週間程度しか滞在していないはずだが、今日この村を離れると思うと、なんだか寂しさを感じる。


 そのことを伝えると、


(うふふ、ベニさんもこの村のことを故郷なんだって思ってくれたんですね。嬉しいです)と返ってきた。

「故郷?あたしの故郷は日本だぞ?」


 厳密にはあたしの故郷と呼べる地はもう元の形では存在しちゃいなかったのだが、そう答えた。


(心の故郷、というやつですよ。いつかまた戻ってきたいと思える場所であればそこはもう心の故郷なんです)


 カオルさんもそう思ってくれていますか? という問いに、兄貴も「ああ」と一言で返していた。それが心からの言葉であることはその顔で察せられた。


 心の故郷か。

 良い響きじゃねえか。


 村の門前に集まった多くの村人たちに手を振りながら、そう独りごちる。

 この村に最初に来た時はあの門の周りいっぱいに弓隊が並んでいたんだったか。

 敵……とは言わないまでも、警戒対象として、一派間違えば派手にやりあっていたかもしれない間柄から、あたし達はスタートした。

 あんな緊張感溢れる出会い、一生忘れるこたあねえだろう。

 今となっては、全部良い思い出だ。


「ああ、そうだな。この村はあたし達の心の故郷だ」


 笑顔で告げたあたしの言葉に、リーティスが嬉しそうに返した。


(『そうですね、じゃあ行きましょうか。私たちの故郷を守る旅に』)


 一章完結です。


 明日からは二章、いよいよ主人公たちが村の外に出ます。


 新キャラも登場予定です。ご期待ください。


 尚、前話でも通知しましたが、明日よりこの作品の題名が変わります。今の題名が好きだという方、申し訳ありません。内容に変化はありませんので、そのまま物語をお楽しみください。

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