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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第七章:巨大学術都市
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第百三十話:<剣にかけた思い>

 昨日は最新話の更新が出来ず、すいませんでした。

 言い訳をさせてもらうと、昨夜は少々アルコールを摂取しすぎてしまった状態で、まともな文章を構成する自信がなかったのです。

 次回以降、このようなことは無いよう努めたいと思います。ごめんなさい。

赤熱の魔剣ソード・オブ・レッドぉっ!」「青冷の魔剣ソード・オブ・シーニーッ!」


 通りの一角が、一瞬の内に戦場となった。

 普段ならば。

 白衣の母に手を引かれた笑顔の子供達や、学術帽に腕組みスタイルで歩を進める気難しそうな初老の男性、肩を組んで歩く酔っぱらいの男たちまで、老若男女、多くの人が行き交う商店街。

 立ち並ぶ商店の屋根には二人の剣士が空ぶった魔法剣の余波で穴が開き、店の顔たる様々な意匠の看板はうち捨てられた粗大ごみのように無残な残骸となって道端に転がっていた。

 

 陽炎のように揺らめく炎を纏った長剣と、肌を刺す激烈な冷気を宿した短剣の軌跡が交わり、その度に火花が散る。

 吹き荒れる炎と所々の地面を覆う氷とが、剣を振る二人の少女の周りを彩った。

 飼い主を探して彷徨っていた一匹の小犬が、突然現れた破壊の風景から身を隠そうと、小さな塀の上でばたばたともがいている。

 通行人たちは少女達の乱闘の場からいち早く逃れてはいたが、動く足を持たぬ家や構造物はそうもいかない。誰かが家から持ち出した高価そうな石膏の像に飛来した屋根の破片が命中し、その身を包む垂れ幕ごと、襲い掛かってきた寒波に凍り付いた。

 

 数合すうごうの打ち合いで互いの技量を確認し合った二人が、鍔競り合いの後、距離を取って再度相対する。

それまでのような牽制交じりの打ち合いでは埒が明かないと踏んだのか。

 ユーノが、それまでの基本的な短剣の構えを解き、より自分の技量を出せると考えた構えに移行した。

 短剣を構えた右半身のみを前面に向けた立位の姿勢を崩し、獲物を見定めた肉食動物を思わせる前傾姿勢へ。さらに、フリーの左手で蟷螂の鎌のごとき手刀を象る。


「――しいっ!」


 即座に地を蹴り、見知らぬ型に困惑の気配を見せているノエルへと迫る。

 低めの体勢から短剣の抜き打ちを見舞った。

狙いはノエルの首元。

 短剣の鋭い刃が空気を斬り裂き、天をも穿つ勢いで突き進む。

 足元から伸びてきた黒い斬撃に対応するべく、ノエルは剣の柄をぐうっと握り込んだ。


 ――えぅっ!?


 半歩下がって首をのけぞらせ、首筋に迫りつつあった死神の一撃を紙一重で躱したノエル。

 鋭い斬撃の余波で生じた鎌鼬が、ノエルの金髪を数本刈り取って行った。

 ノエルの心臓が早鐘を打つ。

 

 ――でもっ!


 好機の到来を見て取ったノエルが、目をぐっと押し開けた。 

 対するユーノは、仮面奥の唇を苦々しげに歪ませている。

 ユーノの全身は先ほどの短剣の一撃のために伸びきっていた。

 おまけに膝を地面すれすれまで近づけた、次の挙動に移り辛そうな体勢である。

 見開かれたノエルの目いっぱいに、隙だらけのユーノの全身が映り込んだ。


 ――せいやっ!


 ノエルが気合の籠った高速の一歩を踏み込んだ。

 低姿勢のユーノを肩口から斬り伏せるのがその狙い。

 炎を纏った剣が、髪を焦がす熱波を引き連れてユーノの左肩に迫る。

 一刀の下に両断されそうになりつつあったユーノはしかし、仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべた。


 ――ええっ!?

 

 踏み出したノエルの右足が地面を滑った。

 全身の体重を乗せかけていた踏み込み故に、咄嗟の踏ん張りも聞かずノエルの体勢が大きく崩れる。

 そしてその軸のぶれたノエルの右足に、蛇の頭のように伸びあがってきたユーノの左手が食らいつく。

 自身が生み出した氷の上・・・を滑走したまま立ち上がったユーノが、暴れるノエルの体を掴んだ右足を支店に豪快に振り回し始めた。

 氷上で独楽のように回転したユーノが、掴んだ少女の体を勢いをつけて放り投げる。

 拘束から解放され、すぐさま体勢を立て直そうともがくノエルだったが、その努力は実らぬまま、背中から壁面に着地する羽目になった。

 背面に強い衝撃を受けたノエルの口から、苦痛の呻きが漏れる。

 しかし、ユーノの攻め手はまだまだそこでは終わらない。

 ノエルの頭上には、硬質そうな氷の塊がペキペキと音を立て肥大化の最中だった。

 その巨大な鈍器の作成者は言わずもがな。

 ダメージの入った体でよろよろと立ち上がったノエルを、ユーノが仮面の奥から冷たい眼差しで見据える。


 ――ジ・エンド。潰れちゃいなよ、獣娘ちゃん。


 真っ直ぐにユーノを見つめ、炎の消えた長剣を構えたノエルの足元に、大きな影が落ちる。

 そして金髪の上にピンと張った狐耳を載せた幼い亜人の少女の姿は、ユーノの見守る前で巨大な氷の塊の下敷きになり、その命を落とした。

 








……かに思えた。


「私に魔法での不意打ちは効かないよっ!……さっきの氷の床にはしてやられちゃったけど」


 細雪のような氷の欠片が舞い乱れる大氷塊の陰から、額から赤い血を流したノエルがひょこりと体を覗かせた。


「……ああ、なるほどねー。獣人さんの魔力感知能力ってやつですかー」


 「ちっ」と心中で舌打ちをしつつ、ユーノがぼやく。

 先ほどのように剣の方に相手の意識を集中させるようなやり方ならともかく、単純な資格からの不意打ち程度は目の前の少女には効かないらしいと悟り、次の 攻め手について考えを巡らせ始めた。


「本当に人間離れした魔力だよね。でもっ! お姉さんの戦い方はもう分かった! ここからは私の番だよぉ!」

「――やれるもんなら、やってみればいいじゃん。言葉じゃなくて、実力で示してみなよ。でもあたしは負けない――こんなところで、負けてたまるかっての!」


 挑発を交わし、再度剣を向け合う少女達。

 先ほどと違う点は、向かい合う二人の内片方の表情が余裕を取り戻していたところだろうか。もっとも、もう一方の表情は仮面の下ではあるが。

 ノエルの自信のほどは、先ほどまで困惑させられ通しだった相手の戦闘スタイルと実力の程が見えてきたことによるものだ。

 実は先ほどまで、度々自身の剣に火魔法をかけ直していたノエルに対し、ユーノは一貫して冷気の放出を止めずに戦闘を続けていた。

 普通の人間が真似をすればあっという間に魔力を枯渇させてしまうような無駄の多い魔法行使方法だが、ユーノにはそれを可能にするための基礎魔力量と魔力回復量が備わっているということをノエルの目は見てとっていた。

 そして、魔法の使い方こそ豪快なものの、魔力の扱いは繊細で、コストパフォーマンス・威力の面から実戦向きでないと言われる水魔法、それも氷を扱う魔法についてかなり高いレベルで使いこなしているらしいという事も。

 ノエルが開戦前に予測していたような「身の丈に合わない魔力を大雑把に振るうしかできない」相手では無かった。その勘違いは、ユーノが慣れない光魔法で透明化の術を行使していた為のものであったりするのだが。

 しかし、全容が大凡分かった今でなら、あらためて相手の実力が「自分に対処できる範囲内」であると判断できた。


 ――そしてきっと剣の腕なら――私の方が、上っ! 武器の長さの点でも、私が負ける理由は何一つ無い!


 軍人の教練に参加し、多くの模擬戦・試合をその目で見てきたノエルは、剣士の技量を、その身のこなしや目つき、さらには魔力の流れや雰囲気と言ったものから推して量ることができた。

 自身を鼓舞する意味もあり、自分は相手より強いんだ、という言葉を何度も何度も心中で繰り返し呟く。

 そして、自身の方が技量が上だというノエルの判断は、おおよそ正しかった。

 ユーノが突進と共に繰り出してきた浅い突き二連からの本命の垂直斬撃を、剣の腹に滑らせることで躱す。


 ――てああぁっ!


 そのまま返しの斬撃を相手の肩口に向け、一閃。

 突然生じた氷粒群に受け止められて勢いを削がれるものの、剣身に纏わせた炎でそれを焦がしきり、強引に剣を振りきった。

 刃が届いた手ごたえこそ無かったが、慌てて後退したユーノの仮面には黒い煤の痕が一筋残されていた。

 あと、一歩である。


「ぐっ……」

「まだまだ行くよぉ!」


 掛け声と共に猛ダッシュを見せるノエル。

 ノエルの追撃を正面から受け止める余裕は今のユーノには無い。

 魔力を絞り出し、眼前に氷の壁を築いて時間を稼ぐ構えに入った。

 

 ――よおし! すぐに決着をつけて……できれば、このお姉さんを殺さないで情報を引き出せれば後々役に立つかなあ。


 この段階で、戦いが終わった後のことを考え出してしまうほどに、ノエルの心中には余裕が生まれていた。

 その心のまま、眼前の氷の壁を、その中心に産みだした炎の弾を炸裂させることによって粉砕する。

 もう決着は目前。ノエルは、そう考えていた。


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