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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第七章:巨大学術都市
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第百二十話:<遭遇>

遅れました。

「お、問題ないみたいじゃん。流石に自分が襲った女の子の処理を押し付けてきたなんてのは勘ぐりすぎだったかー。ま、寝てる間にどうにかされてたらわかんないけどねー。いひひひ」

「……ユーノ。笑い方、下品」


 みょうちきりんな格好に身を包んだ少女達のやりとりを、エアリスはぽかんと口を空けて眺めていた。

 仮面の少女は何やら卑猥な手付きで自身の想定する「鬼畜の所行」を空中に描き、肩をすくめたくろずくめの少女がちらりとエアリスに視線を向けてきた。

 細めた目でエアリスの全身を舐め上げた少女に、エアリスは何か背筋を震わすものを覚えた。服装を除けば、むしろ可愛らしいと思わされるくりっとした黒目と柔らかそうな黒髪の少女に何故そのような気持ちを抱いたのか、エアリスは思いも付かなかった。

 

「おっとっと。えーと……、エアリスちゃんだっけ。恐がらなくても大丈夫だから。ほらほら、あたし達が怪しいもんに見えるー?」


 エアリスが身を震わせたのをめざとく見つけ、仮面の少女が両手を広げて無害のアピールを始めた。

 対人折衝能力にやや難のある相棒を背後に隠し、同級生を相手にする学生のような親しみやすい口調で。

 しかし、その心遣いは大して意味を成さなかった。

 少女の白い仮面の上に赤と黒の着色料で適当に描かれた狐の顔は、薄暗い室内にあって中々の不気味さを醸し出している。

 劇団員の小道具というよりは、肝試しの紛争衣装にでも使われていそうな仮面だ。

 はっきり言って――怪しい。むしろ、怖い。


「いやいやいやいや! 見えますから! 怪しいですから! 何で仮面!? 何で室内でコート!? 何でカーテン閉めてんですか!? てか、この部屋なんでこんなに寒いの!? そもそも、ここどこ!?」

「……質問は一度に一つが基本。学校で習わなかった?」


 勢い込みすぎて、疑問を片端から羅列してしまったエアリスを、仮面少女の背中から顔を出したコートの少女が「めっ」とばかりに窘めた。

 非常識な格好の相手に常識を説かれ、エアリスが目を白黒させる。


「まーまー、良いじゃん良いじゃん。えーとね……この仮面は一身上の都合。この子のコートは種族的な事情、カーテン閉めてんのはちょいーっと後ろ暗い事情があって。この部屋が寒いのはあんたのベッドの下に巨大な氷が置いてあるから。そしてここはアルケミの街外周区だねー」

「わっ、記憶力凄っ……でも、私の疑問ほとんど解消されてないし! ってか氷って一体何――うわ、でかっ! 何これ!?」

 

 仮面少女が指をくるくると回しながら説明をしてくれた。

 その中の一言、「自分の真下にある氷」が異常に気になってしまったエアリスは思わず足元を覗き込み、人が中に寝転べる大きさの金属桶とそこに敷き詰められた大量の氷水を発見して目を見張ってしまった。


 ――はへぇ……。この量の氷があれば、大学の購買で氷菓子が売り切れになることもなくなるんじゃないかなあ。

 

 つい昨日、体育会系男子生徒とのダッシュ勝負に負けて最後の一つを横からかっさらわれた苦い経験を思い出しながら、妙な感嘆を覚えた。

 後ろから「おー、なんか面白い子だなー。アリス以上かも」などと言う評価を賜っていたのだが、その耳には入っていかなかった。


 一応まだ夏季であるこの時期、これだけ大きい氷を大量に手に入れられるのは強力な水魔法使いか大金持ちくらいのものだろう。


「その氷は、必要に迫られてあたしが用意したんだー。作った理由はいくつかあるけど、その一つは、暑いとこが苦手なこの子のため。あ、”この子”とか言っちゃってるけど、この子の方があたしよりは年上た。たぶんエアリスちゃんよりも年上じゃないかなー?」

「へえ。なんか凄いね。氷水を桶に張るだけでこんなに涼しくなるんて、ちょっと感動かも。――この部屋はちょっと冷やしすぎな気もするけど」


 氷水の威容に目線を釘づけにされたエアリスに向け、仮面少女の解説が入った

 感心した風に相づちを打ちながらそれに聞き入るエアリスは、氷のインパクトが強烈だったせいか、一周回って気持ちが落ち着いてきていた。

 目の前の少女達も、妙な容貌こそ気になるものの、自分に危害を加えてくるようなそぶりは見せてこない。エアリスの警戒心は大分解ほどてきていた。

 心の平衡を取り戻してきていたとも言えるだろう。

 年上にはとても見えない、無言でこちらを伺っている背の低い少女を見ながら、エアリスは何とはなしに氷水の張られた桶にちゃぽんと腕を差し入れた。


「……あっ!?」「ちょ!? 手を入れちゃ駄目だって!」

「へ? 何で? ……ん? 何、この柔らかいの?」


 好奇心の赴くまま氷水に腕を突っ込んだら過剰反応が返ってきた――エアリスは当初、そのようにしか思わなかった。

 けれど、差し入れた自分の手の指先が妙にぷにぷにとしたものにぶつかって違和感を覚える。

 目の前の二人が制止を促すようなサインを自分に送っていることには気づいていたが、――見知らぬ二人の制止より、自身の好奇心が勝り、水底に沈んでいたそれを掴み上げた。


「何これ――ひぁぁああっ!?」

「……!」「――あ……!」


 エアリスが氷の浮かぶ水底から掴み上げたもの。

 それは、青白い肌色でぷらぷらと揺れる、人間の腕と思しき部位だった。



ふう……。

 途中、Gとの仁義なき死闘が発生しましたが、なんとか今日の分は更新できました。どんどん行進が遅くなっている現況……なんとかできないだろうか。

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