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第十二話:いつだって、選ぶのは俺自身だ<決着>

side:薫→紅

 「受けられるものなら、受け止めてみろ!」


 叫んだのは、驚異的な跳躍力で空に身を躍らせたザック氏。

 高さ5メートル以上の空中で剣を腰だめに構えたザック氏の体が一瞬光を放った。その次の瞬間。観客達の目を灼く閃光とともに、

 戦闘エリア全域を巻き込む大爆発が巻き起こった。




 ――大爆発の起きる数瞬前。


 なるほど、面の攻撃か。


 俺は加速させた思考の中で、ザック氏が放とうとしていた技を、そう分析した。原理としては、体内に循環させている魔力を一か所に凝縮した後、外部に放出する、といったところだろうか。

 「気弾きだん」「念弾ねんだん」等と呼ばれる、魔力弾発射系闘技の亜種だろう。

 なるほど、これなら避けきれない。避ける方法が無い。


 治癒能力にはそれなりに自信があるが、俺の身体の強度そのものは異能者としては最低レベル。急所さえ守り切れば直撃を食らっても死にはしないだろうが、怪我は免れ得ないだろう。

 直撃を受けても生き残る自信はあるが、恐らく俺が求められていることはそれではない。

 ザック氏の表情を見る。俺に対して、何かを期待する眼をしていた。彼は今までずっと、俺達が自分たちの村の命運を委ねるに値する人間かを量っていた。全力で俺の相手をして、俺が真に信頼の足る者かを知りたがっている。

 ならば、その期待には次善の策ではなく正面からの突破で応えたい。


 ――よし。


 突破のための策はある。恐らく成功させられるだろうという確信も。だが、それを選択するか否かは自分自身の勇気の問題だ。

 そう、「自分自身」の勇気だ。今の俺は、ASPの「プランナー」じゃない。最も無難な選択肢を選ぶ必要など無いんだ。

 お望みなら見せてやるさ、ザック。

 俺の覚悟、力。その全てを


 


―――side:紅―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 爆発が収まった後、エリアに立っていたのはザック一人だけだった。


 いや、立っていたというのは正確じゃねえか。片膝をついて息を荒げ、倒れないでいるのが精いっぱいという風だ。今の一撃で力を使い果たしてしまったんだろう。


(え?カオルさんは、カオルさんはどこですか?)


 背後にいたリーティスがあたしの横から顔を出し、キョロキョロと首を振っていた。会場に立っているのは、ザック一人だけだ。兄貴の姿は、視界内には無い。


 リーティスが慌てて立ち上がり、いずこへと消えた兄貴の姿を求めて走り出そうとしたので、肩を掴み、引き留めた。

 兄貴なら、大丈夫だ。


 ふと、粉塵も収まった闘技場の中心に、変化が起きた。

 場観客たちの目線の先で、何やら茶色い物体が身を起こしたのだ。あたしとカートレットとの戦いで開いた穴の中から身を起こしたそれは茶色の土と黒い粘土にまみれた、眼鏡姿の少年。


『俺の勝ちで良いか?』


 立ち上がった兄貴は、膝をつくザックに対してそう尋ねた。


『ああ、文句ねえ。お前の勝ちだ』


 ザックはごろりと体を後ろに倒し、背を地につけて空を仰いだ。


『そこまで。勝負ありぃぃぃ!』


 カードルの声に、周囲の観客たちからわっと歓声と拍手が巻き起こる。


 全く兄貴の奴、一番勝手の分からない、確実性も何もなさそうな方法を取りやがって。


 あたしはザックが攻撃を放つ刹那に兄貴が取った行動の一部始終を見ていた。

 兄貴はザックが飛び上って力を剣に集中させていた時、足元の粘土山の中から、あるものを蹴り上げ、手の内に握り込んでいた。それは先ほどカートレットが使用したまま転がってた「土の魔石」だ。あたしとの試合ででっかい粘土の山を作っていたカートレットだけれ最後に適用にばらまいた魔石の全てを魔法に変換できた訳じゃなかったらしい。


 兄貴はザックの攻撃が放たれた瞬間、「解放」の文言を唱え、それを中空に放ったのだ。こっちの世界に来て兄貴が初めて教わった魔法である"魔石解放"は中空で土砂の壁を展開する役に立った。

 

 勿論、ただの薄い土壁ごときじゃ、あんな攻撃は防ぎきれねえ。ただ魔石を使っただけじゃあ、衝撃で土ごと体をふっとばされて終わりだったろう。

 

 だから兄貴は呼び出した土で「大穴に蓋をした」。


 大した量も無い顆粒状の土だったが、「解放」で呼び出した段階では、空気の隙間を持たない。穴の入口を塞いだ土壁は穴の中の気圧に支えられ、見事ザックの攻撃を防ぎ切ったという寸法である。

 その後崩れさった土が兄貴の体を土まみれにしたけど、代わりに体の方は無傷でピンピンしてる。


(よ、良かった……)


 緊張の糸がプツリと切れた影響かね、リーティスが足の力を失ってよろけてくる。 

 咄嗟に脇の下に潜り込み、肩を支えて受け止めてやるけれど、リーティスの視線は兄貴の方を向きっぱなしである。完全にあちらの光景に心を奪われている。っておいおい、てめえと兄貴なんてまだ出会ってから三日しかたってないだろうが。そんなに兄貴のことが心配だったのかよ。


『にーちゃんもけっこー強いんだね』『ザックにーちゃんより背ー低いのになー』


 気付くと、さっきまで観客席にいたはずの子供達も何時の間にやら熱戦を繰り広げた兄貴たちを囲み、讃える輪に加わっていた。ピョンピョン跳びあがって後頭部を叩いてくる男子と、その扱いに苦慮している様子の兄貴の姿が見える。


 ――あたし達も、行くか。


 生まれたての小鹿みたいにまだ足取りの覚束ないリーティスを支えながら、あたしは兄貴のいる方に向かって歩き出した。

 直ぐにこちらに気づいた兄貴がほっとした顔になる。


 ――兄貴、お疲れさん。


 人の生死も、組織の成功も、重いしがらみも面倒事も背負わずに挑めたこの試合。良い汗かいて、気持ちよく勝って――うん、何だか久々に楽しかった気がするぜ。

 町一つ移動するのも命がけで、罅の暮らしさえいっぱいいっぱいの奴らも多いっていうこの世界だけど。

 それにこれから、この村のために動かなければなんねえってしがらみを負うことになるけれど。そんなしがらみを受け入れたのも、盗賊や魔物に溢れる森の中に入って行こうと考えて、そうしようって決めたのはあたし達自身だ。

 だからあたし達は、それを後悔しないようにしたい。

 自分で選んだ道は、最後までやり通したい。

 その道に困難が立ち塞がっても、笑顔で、楽しみながら乗り越えていきてえって思うんだ。

 あたしと兄貴なら、きっとそうしていける。

 そう信じてる。


 薫君の本当の戦闘スタイルが出てくるのは、まだ先ですね

 彼の獲物は、「主人公らしくはない」けれど、まあ「特殊部隊っぽい」という感想が出てくるような代物だと思います。

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