その5 幕間
ずいぶんと遅くなりました。お気に入り登録している方すみません
アトワルツたちと入れ替わりに奴隷商の元へ一人の客が訪れていた。
奴隷商と似たり寄ったりの超肥満体の体。脂ぎった顔。決して整っていないわけではないが見た者を不快にさせる顔だった。自分を立場をアピールしているのか光を反射してやたら光る装飾が付けられた服を着ている。
客としてはその男一人。しかし、その男の周りには屈強な黒服の男たちがしっかりと護衛として囲っていた。そして、男の後ろにはぼろぼろの服を着た亜人の少女。
この少女は奴隷商が以前この男に売った奴隷だった。
「お気に召したようで何よりです」
「ふん、ほかに使える奴がいないからつかっているだけだ」
奴隷商は知っていた。
目の前にいる男は亜人の少女ばかり買っていき、そしてすぐにつぶしてしまうことも。
その亜人の少女をこの男に提供しているのが奴隷商だからだ。
「それより・・・」
新しいおもちゃを見つけたように男の目がかがやく。
「この前予約していた奴隷を買いに来たぞ」
奴隷とはあの無駄に装飾のある扉の向こうにいた少女のことである。しかし、今はアトワルツが少女を買っていってしまってだれもいるはずがない。
奴隷商に大きな檻だけとなった部屋に案内された男は当然怒鳴りつけていた。
「貴様!奴隷がいないではないか!どこにやった!」
部屋に響き渡る怒声。小さい子供なら泣いてしまいそうな男の剣幕でも奴隷商は全く気にしていない。
「恐れながら金貨100枚出す、といったお客様がいましてわたくしとしてはそちらのほうが儲かると計算したわけです」
「何、金貨100枚だと!」
この世界での一般通貨レートは銅貨100000枚=銀貨100枚=金貨1枚。この世界では金貨1枚あれば4人家族が1か月は遊んで暮らせる具合だ。
この男はこの国かなりの地位にいる者であるがそれでも金貨100枚はすぐに動かせる金ではなかった。男が自由にいつでも使える金は20枚といったところか。現に男は前回奴隷を買いに来たときアトワルツが連れて行った少女を奴隷商に金貨40枚で紹介され、金をそろえて今回来たのだった。
この男に金貨40枚で売りつけてアトワルツには金貨100枚で売った。奴隷商がいかにぼったくったかよくわかる。ここにいる奴隷たちはすべてこの奴隷商のものである。奴隷の値段も奴隷商が決めている。そのため客によって値段を変えるという融通がきくのだった。
アトワルツの場合は普通じゃ払えない金額を提示してそこから徐々に金額を下げていき金貨40枚以上で買うようなら売ってしまうというのが奴隷商の魂胆だった。もっとも、アトワルツは値切り交渉を碌に粘らずすぐ決めて払ってしまったが。
ちなみにケット・シーは本来金貨15枚だった。
「くそ、せっかく金を用意してきたというのに!」
男が歯ぎしりをした。はらいせとばかりに亜人の少女を殴る。
かなり強く殴ったのか少女は数メートルばかり吹っ飛ばされた。
それでもまだ収まらないのか飛ばされた少女の元まで行ってさらに蹴った。ボールのように少女が宙に弧を描いて飛ぶ。
少女の体はすでにあざだらけだった。
こんなことをされても少女はこの男から逃げられない。隷属紋の効果は絶対だ。
その光景は見ながら奴隷商は笑う。
この男の奴隷の扱いでは当然一人の奴隷が長く持つはずがない。すぐつぶれる。すると男はまた奴隷商の元に来て新しい奴隷を買っていく。そしてまた潰す。このサイクル。男は奴隷商にとって金のなる木なのだ。
だからだろうか。こんな言葉を奴隷商が吐いたのは。
「何をそんなに怒ることがありますかな?あなた様ならすぐに手に入れる方法もありますよ?」
少女に暴行を続けていた男が止まる。
「なに?」
「御所望の奴隷を買われたのは見た感じ一般の者でした。それもこの都市に住んでいる」
「それがどうした?」
奴隷商は続ける。
「ならあなた様ならその買った者を探し出すことも可能では?」
そこで男の顔にも笑みが浮かぶ。
「なるほど。そういうことか」
「奴隷と奴隷を買った客の特徴はこちらからお教えします。あとは見つけたら交渉して貰い受けるなどすればいいのでは?」
おそらくこの男は交渉などしない。それがわかっていて奴隷商は言う。
「どうするかはあなた様のご自由ではありますが」
男がこれからどんな行動をとるか。
あまりにも簡単にわかりすぎて奴隷商はまた笑う。
「ふん、貴様なかなか知恵がまわるな」
もう男の頭の中ではどうするか計画を立てているのだろう。
「そこのゴミは置いていく」
動かなくなってしまった亜人の少女を置いて、男は足早に帰っていった。
男がいなくなった部屋で奴隷商が一人つぶやいた。
「さて、結果がどうなるか。なかなか楽しみです」
次回は少し長くなる予定です