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その2   冒険者ギルド

思ったより早く書けたので投稿

「俺の案内はここまでだ。ギルドのことは中の受付嬢に聞きな。じゃあなー」



「わかった。ありがとう」



 軽く手を挙げて帰っていくおっさんを見送って、冒険者ギルドに向き直る。そして、扉を開けて中に入った。



 ギルドの中は入って左手が受付、右手が酒場になっていて奥の方にはいくつもの紙が貼られた大きな立札が複数立っていた。ギルドの中央部は大きなホールになっており、何人かの冒険者たちや商売人の風貌をした人が談笑していた。某モンスターを狩るゲームの集会所をイメージしてもらえると想像しやすいだろう。

 冒険者というからには荒くれ者のような人物がたくさんいると予想して入ったが思ったほどそういう系の人物はいなかった。ホールはきれいに掃除をされていて俺の思っていた冒険者ギルドとはかなり離れていた。ただ、酒場は例外で一仕事終えたのかそれとも単に飲んでいるだけなのか冒険者たちの笑い声や大声が聞こえてきていたが。



 そういやこっちに来てから何も食ってない。冒険者たちが楽しそうに料理を食べている姿に若干空腹を覚えはしたがこらえて当初の目的であった受付へと進んだ。



「こんにちは。当ギルドにようこそ。本日の御用は何でしょうか?」



 受付に近づくと受付嬢のほうから声をかけてきた。橙色の髪を腰まで垂らした美人である。やっぱギルドの受付嬢は美人なのが相場というものだ。他の受付嬢も当然美人である。まあ端っこの一人は体中に傷がある筋肉無双の男だったかこれは別枠。なんで全員女性にしなかったんだろう。一人だけゴリマッチョだと画竜点睛を欠く感が否めない。



「ええと、冒険者として登録したいんですが」

「新規登録ですね。ギルドカード作成と登録料で銀貨1枚いただきますがよろしいでしょうか?」

「おねがいします」

 


 そういってインベントリ――アイテムボックス――から“リュエード”でもよく使っていたオラクル銀貨を1枚出す。向こうから見れば懐から出したように見えたはず。念じればどこでもインベントリを利用することができるようになっていたのは便利だった。なぜそんな真似をしたかというとこの世界にインベントリがあるかわからないためだ。もしなかった場合空中から物を取り出せば奇異の目で見られること間違いない。それは避けたかった。金に関しても平原でメニューをチェックしたときに“リュエード”での所持金がそのままこちらに移行されていたことを確認済みだ。



 だから何も問題はなく大丈夫なはずなのだが受付嬢は出した銀貨を確認すると固まってしまった。



 あれ?なんかミスった?



「少々お待ちください」



 そういうと受付嬢は慌てて奥に引っ込んでいった。その慌てようにかなりの不安を(もよお)す。



 しばらくして受付嬢が戻ってきた。



「大変失礼しました。こちらがお釣りです」



 差し出された袋には数枚の金貨とかなりの数の銀、銅貨が入っていた。



 おかしいな。オラクル銀貨ってこんな価値なかった思うけど。

 硬貨の枚数に頭を捻るも回答はでない。まあ別にいっかと楽観的に結論付ける。わからないことを考えてもしょうがない。



「ではギルドカードを作成いたしますので身分証などお持ちではないですか?ない場合はこちらの用紙に書いてもらうことになりますが」



 差し出された用紙にはさっき役所(勝手に命名)で書いた内容とほとんど同じ事が羅列されていた。もう一回書くのも面倒なので作ってもらったばかりの身分証を渡した。

「こっちでお願いします」

「かしこまりました」



 受付嬢は軽く俺の身分証に目をはしらせた。やはりおっさんと同じようなところで驚いている。自分で設定したのだがちょっとこの世界じゃハイスペックすぎたかな、と後悔した。



 受付嬢が身分証と同じくらい大きさの銀色のプレートを取り出し重ね合わせた。光ったりするかと期待したけれど見た感じじゃ通行証、プレート共に特に変化はない。1分くらいたっただろうか受付嬢が二つを引き離した。



「はい、完了しました。通行証とギルドカードをお返ししますね」



 渡された通行証とプレート。通行証には作った時と全く同じで変化なし。対してプレートは両面無地であったのが片面に文字が印刷されていた。



 ユリル・アトワルツ

 ランク F

 パーティー

 所属C

 二つ名



 この5つがギルドカードに記載されていた。



「続いて冒険者ギルドの説明に入りますがよろしいでしょうか?」

「あ、はい。お願いします」

「まず最初に冒険者ランクですがこれはFランクから始まりE、D、C、B、A、S、SS、SSS、Ω(オメガ)の10段階になります。アトワルツ様は今登録したばかりなのでFランクからになります。このランクは依頼を成功させるたびにポイントがたまりますのでこのポイントが一定値以上に達すると新しく更新した時に上がります。更新した時とありますが実際は依頼を受諾、成功、失敗、放棄の度にギルドカードを更新しますのであまり気にすることはありません。依頼を失敗もしく放棄した場合には依頼のランクによってそれぞれに対応したポイント分だけ元あるポイントから引かれます。ポイントが下がることによって当然降格もありますが、それによってポイントが0から下がることはありません。また依頼を受けた時に仲介手数料として報酬の5%いただきます。あと放棄した場合には放棄した依頼の手数料の3倍の違約金を払ってもらいますので受ける依頼にはご注意を。受けることができる依頼は現在のランクの二つ上までです。ただし、Bランク以上になると一つ上までしか受けることができません。しかし、パーティーを組むことによってパーティー内に自分より高ランクプレイヤーがいた場合例え受ける依頼が自分のランクより3つもしくは2つ上でもその高ランクプレイヤーのランクまで受けることができますのでCランクがSランクの依頼に参加するということも可能になります。ここまでよろしいでしょうか?」

「そのパーティーっていうのは何人まで大丈夫ですか?」



 “リュエード”では7人がパーティーの限界人数だった。一般的な6人でも8人でもなくなぜ7人なのかは“リュエード”でも謎としてささやかれていたが結局だれもわからずじまいだった。



「一つのパーティーの最大人数は7人までとなります。それ以上の人数で依頼を行う場合はレギオン―複数のパーティーを組んでの参加となります。これはかなり大規模の依頼か災害級のモンスターを討伐するときなどでよく見られますが大抵はこちらから各冒険者に連絡をして募集します」



 パーティーシステムは“リュエード”の時と何も変わっていないようだった。“リュエード”でもイベントボスなどボスクラスのモンスターの中でも特に強敵を討伐するときには複数のパーティーで挑むことがあった。その時にはレギオンなんて呼称はなかったけれどそこは些細な違いだろう。



「次に依頼については討伐、護衛、採取、雑務などいろいろなものがあります。たまに個人契約で勝手に依頼を受けてしまう方がおられますがその時にはトラブルになろうと重傷を負うと死んでしまうと当ギルドは一切責任をもちませんのでギルドの仲介なしで依頼を受ける際には注意してください」



 なるほど個人でやったことは自分で責任を負えってことね。まあこれは当然だな。



「万が一、依頼内容と実際の依頼内容が違った時、例えばA町まで護衛の依頼がA町を過ぎてB町まで護衛することとなっていた場合には依頼を放棄して結構です。その時には違約金は発生いたしません。無論A町までしっかりと護衛した場合にはその依頼の報酬は支払いますがそのままB町まで護衛してしまってもA町までの報酬、元の依頼の報酬分しか支払いません。ギルドでも一応の確認はとっているはずなのですが何分すべての依頼を網羅しているわけではありませんので依頼の際は常に用心をお願いします」



 この建物に入ってきたときちらっと依頼が貼られているらしき立札をみたがそれだけでも貼られている数は膨大だった。いくらこのギルドが大きいからといってすべてを管理しきることは無理だろう。まして通信技術が発達してないであろうこの世界では。



「他にはモンスターから手に入れた素材、もしくは回復薬に使われる薬草などを採取した場合にはこちらで買い取らせていただくこともできますので覚えておいてください。アトワルツ様は今日登録なされたので依頼を受けれるのは明日からになっていますのでご了承ください。」



 ふむふむ。ギルドの設定は一般的なファンタジーと同じようなもんだな。



 とりあえずギルドの働きと仕組みについては納得。量が多かったし口頭だったから明日には忘れているかもしれないがすぐに元の世界に戻る手立てがない以上まったりと覚えていけばいい。



「依頼を受ける時はあそこの立札から自分に合った依頼を受付に持ってきていただければ手続します。立札の依頼はランクごとに分かれているので間違うことないはずです」



 そういって受付嬢は多くの張り紙で埋め尽くされた立札を指さした。



「たまにギルドを通さず直接依頼の紙を張り付けたものがあるときがありますがその場合はこちらで手続き時にお知らせしますので受けるかどうかお選びください。ただし、さきほども言った通り当ギルドは責任を持ちません。あと手続きせずに依頼を達成してしまわれた場合は報酬をお渡しすることはできませんのでくれぐれも注意願います。以上で冒険者ギルドの説明は終わりです。何かご質問はありますか?」



 ギルドについての説明はされたがギルドカードについての説明は何もされていないことに気づく。名前やランクは見てわかるがこの所属Cてのはなんなんだろう?



 ギルドカードを見せ、所属Cのところを指さして聞いた。



「この所属Cというのはなんですか?」



 は?何聞いてんのこいつ、みたいな目をされた。



 これも地雷だったのか・・・



 これはなるべく早く一般常識を知らないといけない。ちょっと今のままだとあまりにも常識を知らなさすぎる。いくらド田舎から出てきた設定だとはいえさすがにこのままいけば絶対に目立ってしまう。そうなるといずれボロが出るのは自明の理だ。



「すみません。かなり田舎からでてきたものでこっちの情報に疎くて」

「そうですか。そんな田舎から。なら知らないのも無理はないかもしれませんね」



 よかった。納得してくれたみたいだ。とりあえずこの後の予定は情報収集第一に決定だな。



「この所属Cとは所属クランという意味です」

「クラン?」

「はい。当ギルドはすべての冒険者に対してある一定の基準を目途にサポートしていますがクランはその縮小版のようなものです。クランはクラン内だけの冒険者をサポートをする組織です。クランとギルドと違うところはギルドは情報をすべての冒険者に公開します。対してクランはクランだけの情報をクラン内だけに公開します。つまり冒険者ギルドでは出回っていない情報、例えば珍しい薬草やユニークモンスターなどを見つけた場合にはほかのクランに所属している冒険者や所属していない冒険者よりも早く情報得ることができます。なのでよりいち早く目当てのものを得たりすることが可能になります。他にもクランに所属していれば一般にはあまり出回っていない素材や装備がクラン内で流通していることもありますし、これは一部のクランだけですが所属することによる恩恵を受けることができます。また同じクラン内ならパーティーを組みやすく高難度の依頼をうけやすいなどのメリットもあります。『グロリアス』や『円卓の騎士団(ナイツオブラウンズ)』それと『レガリア』などが有名どころですね。そして名実共に冒険者ギルド最高クランと呼ばれているのが『輝くもの(アルナイル)』です!」



 さすがに知っているでしょ!これは!みたいな目をされた。



 当然知っているわけがない。だけどここは知らない、と言うのはまずい気がした。



「へ、へえ!名前だけは知ってましたけど『輝くもの(アルナイル)』ってそんなすごいクランだったんですね!」



 なかなかに嘘くさい演技で不安を感じたもののその心配はなかった。なぜなら、受付嬢は



「そう!そうなのよ!その中でも特にーー」



 自分の世界に入ってしまっていて俺が言ったことなんか聞いてやしなかった。



 受付嬢は聞いてもいないことをまくし立ててくる。団長がすごいのなんのとか副団長が超かわいいのなんのだとかイケメンのエースがどれだけカッコいいとかクランのマスコットは愛玩用にしてもいいとか。



 ・・・それを聞いて俺にどうしろと?


 そのあまりの剣幕にちょっといや普通に引いていた。



『輝くもの(アルナイル)』の長いめんどくさい自慢話にそろそろ本気で帰っちまおうかと頭の中で検討し始めた頃にようやく醜態に気づいたのか受付嬢が自分を取り戻した。



「失礼しました。とにかくクランに所属するとメリットがあるということだけお覚えください」

「メリットと言いましたがデメリットもあるのですか?」

 メリットがあれば必ずデメリットもある。世の中はそういうものだ。

「デメリットですか。・・・・・・そうですね、クランに所属した場合基本的にクランマスターの意向にある程度従う必要がでてくることですね」

「他には?」

「クランマスターとサブマスターがクラン内である程度権力をもっているので一匹狼がいいという方は向いていません。それにそうあることではないですがクラン同士が衝突するときには駆り出さられる可能性もあります」

「まあ妥当なとこかな。あっちでのギルドもだいたい同じような感じだったし」

「え?」

「あ、いえ、こちらの話です。デメリットは以上ですか?」

「一般的なのは以上です。あとは特色がそれぞれ違うのでクランごとによって異なりますのでこれ以上はわかりません」

「ありがとうございます」



 とりあえず当面クランにお世話になることはないだろう。





「他にまだありますか?」



 目がギルドカードの二つ名という部分で止まる。



 これは、あれだよな。聞かなくてもあってると思うけど一応聞いておくか。



「この二つ名というのは?」



「こちらはAランク以上の冒険者が自分で付けることができる称号のようなものです。特になくても影響ありませんが名を売るならつけたほうがいいかもしれませんね。その人物を示すものとなりますので」



 わかってたけどやっぱりそういうものか。まあ、これも気にしなくていいな。Aランクまでいくかはともかく自分で二つ名をつけるとか恥ずかしすぎる。俺は中二じゃない。



「ただ例外として自然にその人物のことが二つ名で呼ばれ出すような状況の場合には当ギルドがつけさせていただきます」



 自分は二つ名を名乗ってないのに周りが勝手にそう呼び出したらその名をつけられるってことか。なんでそんな二つ名にこだわるんかね。



「質問は以上でございますか?」



 もう一度一通り質問するところはないか探したが今のところはもうなかった。なに、聞きたいことができればまた来ればいいことだ。別段そんながんばってまで探す必要もないさ。



「はい、説明ありがとうございました」

「お疲れ様でした。ご活躍楽しみに待っております」



 教科書にでてくるような受付嬢の礼に答えてから俺は受付を後にした。



 行く先は酒場。 



 理由はもちろん食欲を満たすためだ。



 適当に開いている席に座っておいてあるメニューを見る。俺はこの世界の文字も言葉も原因不明でも書くことや話すことができる。しかし、だ。ここは異世界なわけで。メニューを見てもどんな料理かさっぱりわからないわけである。とりあえず日替わり定食を頼んだ。これなら当たりはずれもないはずだ。

 ウエイトレスに注文を頼んで、料理を待つ間に酒場にいる冒険者たちに【分析(アナライズ)】をかけてみると平均レベルはだいたい100前後。城門で見た人たちの軽く2倍だ。それでも俺のレベルの10分の1しかない。



「やっぱ高すぎるよなぁ。俺のレベル。チートなのはうれしいけど目立つのは困るんだよなぁ」



 異世界トリップものの定番は行く先々でイベントが起こりなんだかんだで有名になっていく展開。しかしながら俺には有名になる気はまったくない。野心がないわけじゃないが有名になるそれはつまりイベント=やっかいなことに巻き込まれることと同意だ。元の世界でもなるべく面倒事にかかわらないように生きてきた。当面は対して目立たず暮らしていくことが目標だ。面倒事に巻き込まれるのは迷惑でしかない。面倒事に巻き込まれている者を遠くから見ているときが面倒事は一番おもしろいのだ。それが友人だとなおいい。からかえるから。



 ふいにガッシャーン!となにかを落とした音とともに怒号が酒場に響いた。


 おい!どうしてくれるんだ!この服新調したばっかなんだぞ。それに料理こぼしやがって!」



 視線を向けると男に向けてウエイトレスがぺこぺこ謝っていた。俺から注文を取ったウエイトレスとは別の人だ。食器があたりに散らばっていた男はそれなりに体格のいい体をしているけれど風貌が冒険者というよりチンピラといったほうがあっている気がした。男がさっき言った通りだとウエイトレスがこけたことで男の服になにかついたことに怒っているみたいだが俺が見た感じ男の服には何もついてないように見える。



「こんなところにつけやがってどうしてくれるんだ!」



 男が指をさしたところには目を凝らさないと分からないくらいちょびっとだけシミがあった。どう考えても料理がまけた床のほうが男の服より汚れている。



 やはり冒険者の中にも荒くれ者はいるようだ。



 ウエイトレスが必死に謝っているようだが男の怒りは収まらない。だからと言って助ける気はないけど。料理をこぼしたのはウエイトレス。なら彼女に責任があるだろう。それにああいう輩は口を出すと必ずこちらに突っかかって来る。



 男が腕を振りかぶりアッパーカット気味にウエイトレスを殴った。よける間もなくウエイトレスは拳を腹にくらい、吹っ飛んだ。



 俺のほうに。



「は?」



 瞬間、盛大に音を立て、ウエイトレスにつぶされる俺。



「くそ、なんでこっちにとんでくるんだよ」



 悪態をつきながらウエイトレスの下から抜け出す。俺がクッション代わりになったのかウエイトレスは吹っ飛ばされたにも関わらずケガはないようだった。

 このままいざこざに巻き込まれるのは困る。

 一瞬でそう判断した俺はすぐさまこの場から離れようとした。



 なのに。



「え?ちょ?なにつかんでんの!?」



 ウエイトレスは俺の服をつかんだまま気絶していた。慌ててはずそうとするも時すでに遅し



「なんだてめえ、そいつの男か」



 男がもう俺の目前に立っていた。



「いや、ちがっ」

「ならてめえも同罪だ!」



 勘違いも(はなは)だしく俺に向けて男が殴りかかってきた。1発目はよけたものの気絶しているはずのウエイトレスがすごい力で服をつかんでいるため(ろく)によけれない。



 まじかよ。くそ、なんでこっちからなにも干渉してないのに巻き込まれなきゃならないんだ!



 とはいえただで殴られたりはしない。

 たかが100レベル前後の攻撃。こんなもん俺にとっちゃ止まってるに等しい。



 向かってくる拳を両手でからめとり、男に何かさせる間もなく無手スキル系特技【木の葉返し】を発動させる。

 このスキルは相手の攻撃を受け流し、その勢いを利用して相手を投げ飛ばす技だ。要するに相手の攻撃の勢いによってダメージが変わる。自分と同レベルの攻撃を受けて一撃死はさすがにないだろうと遠慮なくぶん投げる。



【木の葉返し】で空中に投げ出された男は受け身をとる間もなく酒場の外へ吹っ飛んだ。



 どうして酒場の外へ吹っ飛んだかというと多くの冒険者たちが集まっているホールじゃこれ以上事を大きくしないだろうと勝手に推測し俺が投げる方向を調整したせいだ。飛ばした男の下敷きになっている人がいたらごめんなさい。



 これで頭を冷やしてくれるとよかったんだけど男はすぐさま立ち上がって



「てめえ、ぶっ殺してやる!」



 さらに激昂してしまった。



 はあ。

 ため息を一つ。



 周りに目を走らせるとホールと酒場にいたほとんどの冒険者たちが面白そうにこちらを見ている。助けに入るつもりはなさそうだ。本来なら俺も当事者じゃなくてそっち側、傍観者的立場のほうがいいんだ。



 よそ見をしているうちに男の周りに矢の形をした炎がいくつも浮かんでいた。



 炎系2階梯魔法【炎矢(ファイアショット)】の多重展開か。面倒な。男の体がわずかながら輝いている。肉体強化系スキルも使ってんなこりゃ。



「後悔しても遅いぜ」



 後悔も何もそっちからふっかけてきたんじゃないか。俺が後悔するとしたらお前が飛ばしたウエイトレスに巻き込まれたことだけだ。



 男は力をためるかのようにわずかにかがむ。そして体に溜め込んだ力を全開放し、俺に突っ込んできた。同時に炎の矢も俺めがけて発射される。

 飛び出した男の姿ははたから見ればまさに一つの弾丸に見えただろう。炎の矢で相手の動きを牽制&制限しつつ本体がとどめを刺す。しっかりと考えられた戦法だ。



 けれど男の攻撃は俺に届くことはなかった。



 原因は俺の前に浮かんでいる魔法陣。



 防護系3階梯魔法【巨人のタイタンシールド



 発動者次第では5階梯の魔法まで防げる実にコスパがよく有能な防御魔法。しかし、これは俺が展開したわけじゃない。



「そこまでだ」



 よく通る声。



「このやろう!なにじゃましや・・・」



 男の言葉が途中で止まる。男の視線の先には俺の20年ちょいの人生でも一番のイケメンがいた。波打つ金の長髪に切れ目の青い瞳。すごく高価そうな鎧をまとったその姿はまるで物語の王子様だった。



「まだやるというなら私が相手になろう。私のことは知っているだろう。ここは引くべきだと思うが」



 このイケメン相当有名で強いんだろう。男は「ちっ」と吐き捨てるとギルドを出ていった。



「助かりました」



 ウエイトレスの手を無理やりのけてイケメンのもとに行って礼を言った。



「なに、気にすることはない。同じ冒険者同士無用な争いは止めるのは当たり前だよ」



 ほんとマジ時間無駄。おかげでまだ飯を食べれてないし。



「それでも助けてもらった以上礼はいうべきなので」

「そうかい?僕が助けなくても君は何とかしそうな感じだったけどね」



 イケメンが不敵に笑う。



「気のせいですよ」



 そう言いつつ腕に展開させていた魔力コーティングをといた。このイケメンさっきのチンピラとは格が違う。この異世界に来て初めての気にかけておくべき人物だった。



「じゃあ僕はこれで。また縁があれば」



 イケメンは受付に向かう。分かれる直前、笑った時にきらりと光る白い歯が見えた。なんかちょっとうざかった。



 さて、と。ようやく飯が食べられるな。



 酒場に戻り、さっき頼んでおいた日替わり定食を食べた。心なしか他人の料理より量が多かった気がしないでもない。



  食事が終わり、酒場を出る。さきほどの揉め事のせいかホールにいる多くの冒険者たちの視線を感じた。

 目立たないように細々とクラス予定だったのになあ。当初予定していた計画が初日にして頓挫してしまったことにまたため息をつく。



 しばらくは静かに生きよう。



 自分に向けられる目を振り切るようにしてギルドから出た。



 外の日差しはまだ高く、空も町も明るかった。

















 そして1年後・・・・・・





ちょっと急展開すぎるかもしれないと思ったり

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