もひとつ話題
「『性本能なしにはいかなる恋愛も存在しない』って言葉あるよね?」
「遺伝子の要求の勘違いとか、生存本能の美化とか、言い方は色々だな」
「身も蓋もない!」
「おい言い出しっぺ」
「じゃあ、夢がない!」
「いや、恋愛には夢が必要だろ。少なくとも、綺麗な言葉で覆ってる分くらいの夢はある」
「えーもうサワちゃんってば小難しい」
「サワちゃん言うな。
たとえて言うなら、マーブルチョコが“恋愛”。色付きのコーティング部分が“夢”な。どれもこれも中身は同じ“性欲”だが、コーティングを剥がしちまえば最早『マーブルチョコ』じゃない。だから、恋愛には夢が必須。どうだ?」
「もう! シビアなのかロマンチストなのか時々わかんない! 其処が面白くてきゅんとするんだけど!」
「お前のツボは時々本気で分からん」
「ホントにサワちゃんってばフリーズドライなんだからー」
「人を果物か何かのように。ってかサワちゃん言うな」
「さて本題に戻りますとー」
「うんまあめっちゃ逸れたな。恋愛とは性欲の派生である、だったか?」
「生存に必要な三大欲求の一つから生まれた割に、恋愛って時々生存本能に逆らうよね? 『曽根崎心中』は心中ものだし、『ロミオとジュリエット』は後追い自殺だし」
「恋人や伴侶のために死を選ぶって奴か」
「ね。不思議だなーって思わない?」
「…まあ、本能は理性である程度までは抑え込めるよな」
「お腹減ってるからってお惣菜売り場でいきなりコロッケにかぶりついたりしないってこと?」
「ああ」
「んー、でもそういう時ってさ、お家帰ったら晩御飯!とか、ある程度将来解決する見通しがあるわけじゃん? 今食べなきゃ死ぬかもしれないって状況なら、かぶりついちゃうんじゃないかなあ」
「それ言ったら、前者は心中にも当てはまるんじゃないか? あの世または来世で幸せになりましょう、ってのが根底にあるだろ」
「あ、そっか…そうなるとあなたを殺して私も死ぬ!ってのもそれだよね?」
「いきなり昼ドラ混ぜんな。それ一方通行だろうが」
「しかも大概刺した側は生き残って取り押さえられるパターンだね!」
「結局単なる殺人事件じゃねえか」
「無理心中未遂って言ってあげてよー」
「海外じゃ心中は自殺または殺人って解釈される国もあるらしい。つまり俺はグローバル的には正しい」
「日本人に生まれたからにはクールジャパン貫こうぜ!」
「まあそもそも、実際死んじまう辺りでやっぱり本能に対しては矛盾している気もするけどな」
「それもそっかー。
……じゃあさ、本能は感情に負けることがあるってことでどうだろ?」
「性欲は恋愛に負けるってことか?」
「そうそう。いくら本能が生きるほうを選ぼうとしたって、感情が『この人と生きられないくらいなら』って訴えたら、きっと感情が勝つこともあるんだよ」
「…………なるほどな」
「それ思うと、好きな人と生きられるって良いよね!」
「感情と本能の共存で、しかも理性とも喧嘩しないからな」
「もうちょっと愛のあるコメントを!」
「『人が恋をしはじめた時は、生きはじめたばかりのときである』とスキュデリは言ったが、なるほど恋愛感情は生き死にに関わるもんだな」
「愛が足りないもう一回!」
「お前の堂々とした強請りっぷりはいっそ清々しいわ。だからお前と一緒は愉快だな」
「………愛がありましたもう一声!」
「残念ながら本日は売り切れとなりました」
「品切れ早いよサワちゃんのいけず!」