いったんおしまい?
「恋と愛の違いって何かなあ」
「順当なところで辞書にでも訊け」
「こういう情動を辞書のかったい文章が表現できるか! いやできない!」
「反語法まで使って否定すんな。とりあえず出版関係の各方面に謝れ」
「そういうわけでどう思うよサワちゃん!」
「相変わらずお前は俺の話を聞かないな、あらゆる意味で。因みにサワちゃん言うな」
「愛の囁きだったら聞こえてるぜっ!」
「睦言で会話が進むか」
「ってわけで恋と愛の違いについてレッツ考察!」
「ついに俺の発言の内容をオールスルーしやがったか………まあいいか、いつものことだ」
「そうそう」
「分かってるなら何かしらの努力が欲しいところだが………恋と愛の違い?」
「愛のほうが弱冠重い感じがするよね?」
「そうか? 俺は恋のほうが重い気もするが」
「へ?」
「愛情は何人にも分け与えられるが、恋情は基本的に一人にしか向けられないだろう?」
「…………あー、あーあーあー、そうよねー。友愛とか親愛とか家族愛とか、とにかく身内には大体向ける感情よね、言われてみれば。でも、恋心的な愛情は、やっぱり一人にしか向けられなくない?」
「それもそうだ。だが、日本語の『恋』という言葉は元々『乞ひ』から来ているという説がある通り、それこそ相手を『欲しがる』感情なんじゃないか?」
「えー、でもさあ、『愛してる』は『あなたのためなら死んでもいい』思いでしょ?」
「そういうのもあったな。それを踏まえると、なるほど、どちらが重いかははっきり断言しにくい」
「だしょ?」
「だが、違いに関してはこれまでの流れをまとめることは可能だろう」
「その心は?」
「相手を欲しがるのが恋、己を捧げたいのが愛」
「………………おお! 思わず梟になりたくなる!」
「ツッコミにくい感心の仕方をするな。素直に『ほうほうと頷きたくなる』とか何とか言ってくれ」
「分かってくれるサワちゃんが好きだぜ!」
「そうかありがとう。ところでサワちゃん言うな」
「棒読みだー! でも何故か後半だけ力入ってるし!」
「そうか諦めろ。夜道だからあんま騒ぐな」
「生返事だー! でも何故か後半だけまともだ!」
「俺は割といつもまともだ」
「こうして、サワちゃんがつれないまま二人は分かれ道に来てしまったのであった。続く!」
「何だそのアニメの次回予告調」
「ちょっと別れの挨拶を凝ってみた」
「普通に挨拶しろよ」
「工夫するのも愛があるからなのであーる!」
「何で博士口調だよ」
「じゃあ気を取り直して、ぐっばい!」
「…………お前は本当に流れをぶった切るのが好きだな………まあいい。それなら俺もぶった切るぞ。小泉」
「何じゃらほい?」
「今日は月が綺麗だな」
「……………………サワちゃん、あげいんぷりーず!」
「こういうのは一発きりに価値がある」
「ホントにぶった切られたー!」
「偶には俺の気分でも味わえ。というわけだ、おやすみ」
*要らない補足。
・双葉亭四迷先生は『I love you』を『あなたのためなら死んでもいい』と訳したそうな。
・夏目漱石先生は『I love you』を「(貴方と共に見ると)月が綺麗ですね」と訳したそうな(諸説あり?)。サワちゃんはさらりと言っちゃう子。